鶴の恩返し

山の中の一軒屋にお爺さんとお婆さんが住んでいました。二人には子供がありません。お爺さんが山で柴を刈り町の市場で売ったお金で暮らしをたて、お婆さんは毎日、紡いだ糸で布を織っていました、こうして一年、一年をどうにか過ごしていました。
ある年の冬、まだ一度もなかったような大雪が降り、家はすっぽり雪に埋まってしまいました、でもお爺さんは何時ものように山へ柴刈りに行かねばなりません、一日でも柴を売らなければ食べていけないからです。お爺さんは唇をかみ、仕方がないと大雪の中を山へでかけました。しばらく行くと前の方から“クウ、クウ”と苦しそうな鶴の鳴き声がします、雪がどんどん降って、白い鶴は白い雪にまぎれ、おまけに年をとったお爺さんの目はかすんで鶴が何処にいるのかよくわかりません、でも心の優しいお爺さんは鶴が可哀相だと鶴の鳴き声のする方に行き、やっと鶴を見つけました。
ア、大きな鶴が鳴きながら羽ばたきをしています、けれども羽がよく動きません、お爺さんが見てみると、兎のわなにひっかかっているのです、もうだいぶ時間がたっているようで、わなの縄はしっかり鶴にからまっています、お爺さんはとても可哀相になって「アレ−、これは誰かがしかけた兎のわなだ、どうして踏んでしまったのだ、わしが助けてやるから遠くへ飛んで行け」と言って、柴刈りの鎌で縄を一本一本切ってやりました。縄がを切れると、鶴はたち上がって何回か羽ばたくと空高く舞い、お爺さんを振り返って三回鳴き大雪の中へ飛んで行きました。
この日はあまりに寒いので刈った柴は少く、売れた代金もわずかでしたがお爺さんは粟を少し買って帰りました、そしてお婆さんと粟粥を作って食べてから、お婆さんはオンドルの上で糸を紡ぎ、お爺さんは革靴を縫いました。すると門の外で、人の声がします「お爺さん、お婆さん、門を開けてください」二人は不思議に思いました、“外は大雪で、もう日は暮れようとしているのに誰だろう、山の中に何しに来たのだろう、ともかくわしらの家に人が来て呼んでいるのだから返事をしないわけにもいかない”と、お爺さんは「誰ですか、何か用事ですか」と聞きました、すると外の人が「お爺さん、わたしは旅の者ですが、道に迷い寒くてしょうがありません、家に入れて暖めてください」と言いました、お爺さんが力をだして細く戸を開けて見ますと、門の外に上も下も真白な衣裳をつけた十七、八の娘がすらりと立っていました。
お爺さんは「娘さん、外の雪をどけ門を開けて入って来なさい」と言いました。しばらくして娘は門の前の雪をどけて道を作り、門を開けて家の戸まで来ると、頭の雪をはらいながら「お爺さん、わたしは叔母を訪ねて来たのですが道を間違えて迷ってしまったのです、外は大雪なので一晩泊めて貰えませんか」と言いました、お婆さんも来て見ると美しい娘で、嬉しくなり「いいですよ、家は狭くてきゅうくつだが泊まりなさい」と言って娘のからだの雪をはらってやり「今日はとても寒い、外にいたら凍えてしまう、早くオンドルの上で暖まりなさい」と娘の手をとってオンドルの上に座らせました、お爺さんが「まだ粟が少しあったろう、この子はきっとお腹が空いてるよ」と言うと、お婆さんは「そう、そう、娘さんや、お粥を炊いてあげよう」と言いました。娘がお粥を食べおわると、もう夜中でした、三人はオンドルの上に押しあうように寝、お婆さんは娘に優しく布団をかけてやりました。
翌日、娘は早く起きてお婆さんの朝の支度を上手に手伝いました、昨日の残った粟のお粥を温め、とうもろしの粉で小さな餅を二つ焼きました。娘は「お爺さん、お婆さん、わたしは一人っきりで父も母もいないので、親戚を訪ねて来たのですがわかりませんでした。外は大雪だし、何処へ行くあてもありません。どうかわたしに、お二人を父、母として仕えさせてください」と言いました、老夫婦は生涯、子供は恵まれないと思っていたのに、目の前の美しい娘が自分から子供になると言うので本当に喜びました。けれどもまた考えて言いました「娘さんがわしらの家にいてくれるのは嬉しいが、わしらは貧乏で、それでもいいかい」「はい、貧乏でもかまいません、お二人がわたしを嫌でなければ、わたしはここにずっといます」と言い、お爺さんとお婆さんに三回、頭を下げしました。
それからお爺さんは山で柴を刈って売り、娘は家で糸を紡ぎました、娘の糸を紡ぐのは早く“カラカラ”といい音で糸車が回り、紡がれる糸はむらなく細く光っていました。
またたくまに春になりました。娘が「お父さん、裏の木を切って家の後ろに狭い小屋を作ってください、その小屋でわたしは布を織ります、でも決して見ないでください、もし見られたらわたしの布はできません」と言いました、お爺さんは「いいよ」と言って木を切って家の後ろに小さな小屋を作りました。
娘は毎日そこで布を織りました。一晩中寝ないで織っていました。織りあがった布はいままで人が見たこともないような布で、すぐ売れてお金もどんどんたまりました。老夫婦は今までずっと貧乏で、たいしたお金を持ったことがないのにこれは大金でした。
老夫婦は糸車も機織り機もない狭い小さな小屋で糸も使わずどうして布が織れるのだろうと思いました。お婆さんは“わしはこの年まで糸を紡いできたが何も使わずどうして布が織れるのだろう、そっと覗いて習おう、そうすれば娘の手伝いもできる”と考え、ある晩、そっと小屋に近づきました。木の小屋には隙間がありません、お婆さんは丈夫な針で覗ける割れ目を“カサ”と開けました、すると、小屋の中の音が止まり、娘が出て来てお婆さんを見ると、悲しそうに「お母さん、見ないでと言ったのに見てしまいましたね、わたしたちの縁も終わりです、わたしは布が織れないのでもうここにはいられません。さようなら」と言いました。
老夫婦は泣いて娘を引き止めようとしました。娘は「泣かないでください、別れる時がきたのです、誰も引き止めることはできません、わたしも仲間の所に帰ります、わたしが織った布で、お二人は死ぬまで暮らせるでしょう」そう言うと、ゆらりゆらりと地面を離れ、空中にヒラリと舞い上がると一羽の大きな白い鶴に変わりました。鶴は老夫婦に頭をたれて「クウ、クウ、クウ」と三回鳴くと一直線に北へ向かって飛んで行きました。お爺さんはこの声を聞いて、はっきりとあの雪の日のことを思い出しました。
これは中国民間文学集成遼寧巻撫順市巻上〈白鶴報恩〉の私の語りである。日本の昔話では〈鶴女房〉である。