百鳥衣
ある男が美しい女房を得た。男は一日中、女房のそばにいて働こうとしない。女房は「あんたは一日中あたしにつきっきりで、畑も耕さず、何もしないでどうするつもり、このままではあたしたちは何も食べられなくなるから、紙にあたしの姿を描いてあたしの絵姿を作り、それを見て畑仕事をしなさい」と言った。男はそれはいいと大きな紙を買い、女房の姿を紙に写し鋏で剪り、女房の美しい絵姿を作って高粱の茎につけ畑の端に立てた。男が一生懸命畑を耕し振り向くと高粱の茎につけられた女房の絵姿がそこに立っているというわけだ。
ある日、この女房のきり絵が強い風に吹かれ皇帝の宮殿へ飛んで行った。皇帝はこれを見て「美しい女だ、このきり絵の女はどんな女であろう、きり絵があるからには何処かにいるに違いない」と密かに長い時間をかけてきり絵の女房を探し皇宮に連れ去った。女房は連れ去られる時そっと夫に「あたしは皇帝を相手にしないし、結婚式もしないから、あんたはわたしが行ったあと畑仕事をやめ、雀を百羽、鉄砲で打ち皮を剥いで縫い合わせ百鳥衣を作り、家畜の糞を拾って捏ね龍の頭を作りなさい。そして畑には葱と韮を植え、葱を八尺、韮を一丈二尺に育て、龍の頭を被り百鳥衣を着て、その葱と韮を担いで皇宮に売りに来なさい、そうしたらわたしがとても喜ぶ振りをして皇帝に買わせる。皇帝が『お前、何を喜んでいるのだ』と言えば、わたしが『あの人、あんなに長い韮と葱を持っている』と言い、わたしが皇帝にあんたを皇宮に入れるように言うから、あんたは皇宮の庭に入りなさい、あとはわたしがうまくやるから」と言った。
そして女房は無理に連れ去られ、皇帝は結婚式を挙げようとするが女房は聞かず、一日中不機嫌に顔をこわばらせていた。
さて、男は雀を打ち皮を剥いで百鳥衣を縫い、家畜の糞を集めて龍の頭を作り、韮と葱を植えて大きく育て天秤棒で担いで行き、皇宮の門に着くと百鳥衣を身につけ、龍の頭を壊れないようにそっと被り、大声で「一丈二尺の韮、八尺の葱」と叫んだ、女房はこれを聞いて、夫の声だとわかり、皇帝に「野菜売りの声をお聞きになりましたか、そんな長い韮や葱が本当にあるのかどうかわたし見て来ますわ」と言って、侍女を連れて皇宮を出た。
「あら、本当に一丈二尺の韮、八尺の葱だわ、お前見てごらん、龍の頭をつけ百鳥衣を着て、あんな人っているかしら」と侍女に言うと、皇帝も出て来て「姫、買いたいか」と言うと、女房は嬉しそうに「わたし欲しい」と言った、皇帝が「やつを皇宮の中庭に呼べ」と言うと召使たちはこの野菜売りを皇宮に入れた。
男が皇宮に入ると、女房は「一丈二尺の韮、八尺の葱なんて見たこともないわ、でもあの人の着ている服はもっといいわ」と嬉しそうに言った。皇帝は“姫がこんなに喜んだことはない”と、すぐ「姫、あの衣裳がいいのか」と聞いた、女房は「本当にいいわ、あなたの服よりもっといいわ」「ええ、本当か。それならすぐやつを参上させてわしの服と取り換えさせよう」「それはいいわ」と女房は人形のような笑顔を見せた。
女房は「お前、お上がり」と野菜売りの夫を皇宮に上がらせ、「とてもいい衣裳だわ、素晴らしい」と言った、皇帝は野菜売りに「お前、着ているものを脱げ、わしと取り換えるのだ、姫がいいと言うからな」と言うと、女房は皇帝に龍の頭を被せ、百鳥衣を着せ、男には金色の皇帝の礼服と玉帯をつけさせて、衣裳を取り換えてしまった。 そこで女房は「誰か早く、この妖怪を退治せよ。妖怪が皇宮に入って来た、妖怪を退治せよ」と大声で怒鳴った。家来どもが大勢やって来て、妖怪にされた皇帝を打ち殺してしまった。女房は「急いで埋めておしまい」と言い、野菜売りは皇帝になり、夫婦は幸せに暮らした。
これは四老人故事集〈百鳥衣〉の私の語りである。日本の昔話〈絵姿女房〉では男は桃うりになって来る。(日本昔話集成本格昔話1・204頁)