母は十七、息子は十八

 遠い昔、ある処に十四五歳になる少年がいた。父も母もなく、ずうっと地主の豚の番をしていたので村人はみんなこの少年を“豚飼い”と呼んでいた。“豚飼い”は一人ぼっちなので新年になっても何処にも行けず地主の家で働いていた。
 ある年の暮れ、地主の家では爆竹と新年の祝いの絵を買い、地主の女房は“豚飼い”に壁の去年の絵をみんな剥がして新年の絵を貼るように言いつけた。

 “豚飼い”は去年の絵を剥がしていくと、まだ汚れていない新しいような絵が一枚あった、それはにこやかに笑った綺麗な娘の絵でまるで生きているようだった。“豚飼い”は喜んで自分が寝起きしている小屋の壁に貼り、翌年の正月も剥がさなかった。こうして娘の絵は“豚飼い”の小屋に貼りつけられたまま何年か過ぎた。

 ある日、この絵の娘が絵から抜け出して“豚飼い”の小屋を綺麗に掃除をすると、料理の支度を始め鍋に温かい料理を作りまた絵の中に戻った。“豚飼い”が仕事から帰ってみると、小屋の中が綺麗に掃除され、鍋の蓋をとるといい匂いのする美味しそうな料理ができている、“豚飼い”は不思議に思ったが、それを見ると急にお腹が空いてきて、どっちみち俺の小屋にあったんだからいいやと、残らず食べてしまった。翌日も“豚飼い”が帰ってみると小屋の中は綺麗に掃除してあり、鍋にはいい匂いのする美味しそうな料理ができていた。こういう事が三日も続き、“豚飼い”は誰がこんな優しいことをしてくれるのだろう、明日はそれを見届けようと思った。

 四日目、“豚飼い”は朝早く起きて豚を山に放し、まだ日の暮れないうちに放した豚を集めて囲いの中に入れてしまうと急いで戻り、自分の小屋の戸を細めに開けて中をうかがっていると、絵の中の娘が目を瞬かしたと思うと、絵の中からすらりと抜け出して、素焼きの皿を持ち髪に挿した簪で皿をサッと撫でると、皿の上に白いホカホカのご飯ができた、鍋の中を簪でかき回すと鍋の中にいい匂いのする料理ができた。娘はできたてのご飯と料理に蓋をした、そして袖を振ると、小屋の中は塵ひとつなく綺麗に片付いた。

 “豚飼い”は嬉しくなって素早く戸を開けると小屋の中へ入り娘を抱いてしまった。娘は顔を赤くして「放して」と言ったが“豚飼い”は手を放さず「あなたがこんなに優しくしてくれるなら一緒に暮らして下さい」と言った、娘は「わたしは壁に貼ってある絵の中の娘です、何年か前、地主のおかみさんがあなたに壁の絵を剥がさせた時、あなたはわたしを引き裂かないで助けてくれました、それでわたしは一人ぼっちで苦労しているあなたにお礼がしたくてお世話したのです、でも早く放して」と言った、それでも“豚飼い”が手を放さないでいると娘は「わたしはあのおかみさんに見つかれば殺されます、昼間は絵の中に戻りますが夜になったらまた抜けて来ますから」と言うので“豚飼い”は娘から手を放した、それで娘は人のいない時に食事の支度をしたり、小屋を片付けたりして終わったら絵の中へ戻り、夜になったらまた出て来ることになった。

 翌年の夏に絵の中の娘は可愛い男の子を生んだ。地主の女房は“豚飼い”の小屋から赤ん坊の泣き声がするので不思議に思って入ってみると、寝床に赤ん坊が寝ているが誰もいない、この子は何処の子だろうとあたりを見回し、壁に貼ってある絵の中の美しい娘を見つけた、意地悪な女房は、アッ!この絵の娘が妖精となり“豚飼い”の子を生んだに違いないと、髪の簪を抜いて絵の中の娘の目を無残にもグサリと刺し、「こうすればお前はどうやってこの子を育てるんだい」と言った。すると娘の目から涙が流れ、しばらくして、タラッ、タラッと赤い血が垂れはじめた、地主の女房は絵の中の娘の目から血の涙が流れると、ドキッとして逃げ出してしまった。女房がいなくなると絵の中の娘は赤ん坊の背中に『三日で別れる不運な吾が子、母に逢うなら揚州においで』と二行の文字を書いて姿を消した。   

 夜、“豚飼い”が帰ると小屋は静まりかえり、赤ん坊はぐったりしていた。壁を見ると絵は一枚の紙になっていて、二つの穴がえぐられそこから流れた一筋の血の涙がまだ乾いていなかった。“豚飼い”は赤ん坊を抱いて絵の娘を探したが見つからない、やっと赤ん坊の背中の文字を見つけた。翌日、“豚飼い”は手間賃を清算すると赤ん坊を負ぶり、乞食になって食べ物を貰いながら揚州へ向かった。九九八十一の山を越え、七七四十九の河を渡り、十八年かかってとうとう揚州城にたどり着いた。赤ん坊はすでに十八歳になっていた。

 ところで、揚州に十里八村を持つ長者がいた。長者には十七歳になる美しい一人娘がいたが、どんな身分の高い家から縁談があっても嫁ごうとはしなかった。長者が無理に嫁がせようとすれば首を吊って死のうとするので、長者夫婦は可愛いい娘の思うままにさせていた。

 さて、揚州にたどり着いた“豚飼い”の父子がある日、この長者の屋敷の門前に立って食べ物を求めた、長者は日頃から乞食が来れば家に入れて食事をさせる優しい人柄で、今日も乞食の父子が来たので家の中に入れ食事をさせ、乞食の父子と言葉を交わした。「なんで揚州に来たのかね」「人を探しに来たのです」「誰を探しているんだ」「この子の母親を探しているのです」 すると、二階の部屋にいた長者の娘が耐え切れないように泣き出した。娘が泣くのを聞いて不思議に思った長者が二階の娘の部屋へ行って「なぜ泣くのか」と聞くと、娘は「下で食事をしているあの二人はあたしの夫と息子です」と一気に言った、「お前、夢でも見ているのじゃないか、あの二人が、結婚もしないし屋敷の門から出たこともないお前の夫と息子だなんて」 「いいえ、これは本当の話です」と娘は自分が長者の家に生まれる前の身の上を一つ一つ筋を立てて話し出した。

 長者は娘の話を聞き終わると“豚飼い”の父子を娘の部屋へ呼び入れ、息子の着物を脱がして背中を見ると、娘が話した通りの二行の文字があり一字も違っていなかった。長者は「してみるとお前たちはもとから結ばれていたんだねえ」と言った。娘は息子を抱きしめて顔を見たり撫でたりして、二つの目から涙を流した。“豚飼い”は「やっと、あなたに逢えた、『縁あれば千里離れていても逢え、縁なくば近くにいても逢えない』と言うが私たちは二人は結ばれていたのだ」と言った。 長者は真面目な婿と利口な孫を喜び、酒席を設け、親戚友人隣近所の人々を呼んで“豚飼い”と十七の妻、十八の息子の睦まじい家庭を祝い、それから“豚飼い”と十七の妻、十八の息子は幸せな日々を送った。  

   姜淑珍故事選                                       92・9・11   01・4・26校正  

<注> 『親が二十で子が二十一』(昔話十二ヶ月・一月の巻)

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