月老配婚

  昔、鎖柱という若者がいた。もう所帯を持ってもいい歳なのだがまだ嫁の話はない。
 ある晩、鎖柱は月の光りに照らされながら歩いていると、道端の柳の木の下で白髪の老人が座って拳ほどの石やそれより小さな石をいじっている。その横を通り過ぎると老人は手にした石を持ち、口の中で「お前たち二人が一組、こっちの二人も一組」と言っている、鎖柱はしばらくそっと見ていたが何をしているのか分からなかった。

  何日か経った晩、また鎖柱が柳の木のそばを通るとあの白髪の老人がやはり月の光りの中で小石を並べているのを見て不思議に思い「お爺さんは何時も小さな石を並べているが何をしているんだい?」と聞いた、すると老人は鎖柱を見て「縁結びだ」と答えた。

 「縁結び?」「そうだ、これで夫婦の縁組みを決めているのだ」と並べた大小の石を指して「見てみろ、この一組の石がこの世の一組の夫婦になるのだ」「本当?」「本当だとも」「そんなら俺と俺の嫁さんになる石の一組をみせてくれ」「よし見せてやろう」 老人は一つの石をとって転がし、また一つの石を転がしてから小さな石をとると、土の上に転がった石を指して「これがお前さん、この小さな石がお前の嫁さんだ」と言って、その二つの石を一組にした。 

 「え、こんな小さな石が俺の嫁さん?」「そうだ、小さくてまだ揺りかごの中の赤ん坊だ」「お爺さんはその子がなんという名で何処に住んでいるのか知ってるのか」「知ってるよ、お前の嫁さんの家はな、この丘の道を行き山を越えた杏花村の東の端にある小さな茅葺きの家だ」と言った。鎖柱は爺さんの話し振りが如何にも自信たっぷりなので、本当かどうかそこへ行って確かめてみようと思った。

  鎖柱は爺さんの言ったとおりに丘の道を行き山を越えると本当に村があったので聞いてみるとそこが杏花村であった、村の東の端に行くと確かに小さな茅葺きの家がある、庭に入ってみると誰もいない、家の窓に近づいて中を見ると、揺りかごで二つか三つぐらいの女の子が寝ている。鎖柱はこれが自分の妻になる赤ん坊かと思うと何だか腹が立ってきた、俺はもう十八なのにこの子はこんなに小さい、とてもこの子が大きくなるまでなんて待っていられない、俺とこの子の縁は釣り合っていないのだと腹が立った。
 あたりを見れば誰もいない、鎖柱は“俺はこんな赤ん坊の女房なんぞいらない”と夏の暑い盛りで開けっぱなしになっていた窓から揺りかごに向けて石を投げつけ、女の子がワーと泣くのを振り向きもせず一気に村を駆け抜けると道端に座り込み、ハアハア息をつくとあの子はどうなったかと怖くなり、そのまま逃げて旅に出てしまった。

 さて、鎖柱の投げた石は女の子の瞼の上に当たり血が流れ女の子は泣きやまない、裏の畑で野菜の苗を植えていた母親が泣き声を聞いて戻ると、女の子の瞼の上が切れ血が流れ揺りかごの中には石が投げ込まれていた。「どんな奴が石を投げてこの子にこんな大きな傷をつけたのだろう、顔に傷の跡が残ってしまう」と母親は怒りながら傷の手当てをした。
 やがて、十五、六年経ち、あの揺りかごの中だった女の子も年頃の娘に育った。けれども瞼の上には深い傷跡が残った。ある年、杏花村は不作でこの母娘も食うや食わずの暮らしに落ち込み仕方なく別な土地での暮らしを求めて村を離れた。

 ある日、母娘は小さな町にたどり着き、一軒の雑貨屋を見つけると戸をたたいて食べ物の施しを求めた。すると三十を過ぎたくらいの男が出て来た、男は何か心が動き幾らかの食べ物と一緒に「これも持ってお出でなさい」と銀二十両を差し出した。母娘は「いいえ、あたしたち母娘は食べ物を頂ければ十分です、それだけでも尽きせぬ御恩と有難く思っております、その上お金まで頂戴することはできません」と受け取らなかった。

 男が「いいや、私は一人ですから何とかやっていけます」と言うと母は少し驚き「エ、あなたはお内儀さんも子どももいないのですか」と言った、男は「ええいません、両親は早く死んで私独りでどうにか今日まで暮らしてきました」と答えた。
 娘の母親はそれを聞くと“この人はまだ結婚していないらしいが真面目そうだ、うちの娘とは歳が離れ過ぎてはいるが、もし結婚できれば幸せに暮らせるかもしれない、それにこれから生きて行く所を探さなくてもすむ”と考え、娘にそれを話すと娘も「おっかさんがそう思うなら結婚してもいい」と答えた。

 そこで、母親は男と外に出て「あなたが聞いてくれるかどうか分かりませんけれど、あたしの娘と結婚してくれませんか」と言うと、すこし間をおいて「もし嫌ならあたしたちは何もなかったように出て行きますから」と言った。「私はもう三十を過ぎていますが、それでも娘さんがいいなら、私は嫌どころか嬉しいです」と答え、男と娘は簡単な式を挙げて結婚した。

 ある日、夕飯を食べてから夫婦はお喋りをはじめた。「お前、瞼の上はどうしたんだ、何か物でも落ちた傷跡かい」「これはあたしが三つの頃、揺りかごで寝ていて母が裏の畑で野菜の苗を植えている時、誰だか分からない悪い人に窓の外から石を投げられた傷なの」夫はそれを聞くやいなや「まさかお前の家は杏花村では」と慌てて聞いた」「そうよ、どうして。あなたその悪者を知ってるの」「知るも知らないもない、遠い天より近い目の前にいるこの俺だ」「え、嘘でしょう?」「すまない、本当に俺だ」
 そして夫は白髪の老人が月夜に柳の木の下で、石を転がして夫婦の縁結びをしていたこと、その老人に教えられた杏花村に行き赤ん坊に石を投げたこと、それからのことをすっかり話した。

 妻はそれを聞いて驚き少し悲しんだが、もう過ぎてしまったことだし、今は夫も後悔しているのだから「もともとあたしたち二人は棒で叩かれても切れない縁だったのよ、それで夫婦になったのだわ」と言って夫婦で笑った。  それで人々は今でも月の下で白髪の老人がこの世の夫婦の縁結びをしているのだと伝えている。  

    姜淑珍故事選                                        01・3・19校正

<注> 李占春故事選 『石頭配婚』     日本昔話事典 『夫婦の因縁』

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