隠身衣

 昔、ある処に母親と息子がいた。息子の敖頓太が毎日柴を刈ってそれを市場で売り、その金で米や塩を買って母親と暮らしていた。

 ある年の暮れ敖頓太が柴を刈り山から下りて来ると雪の上に狐が倒れていた、まだ息をしているが今にも死にそうである。そこで敖頓太は狐を担いだ柴の上にのせて家へ帰った。母親は「お前、犬を担いで来たのかい」と聞いた、「いいや、狐だよ、凍えて死にそうだったので助けて来たんだ」と敖頓太は答えた。

 母子が夕飯を食べていると、白い髭の老人が来て「お前さんが拾って来た狐をわしに売ってくれないかね、金は幾らでも出すが」と言った。「凍えて死にそうなので助けたのだから売りません、でもあなたがこの狐を殺さないというなら持って行っていいですよ」と敖頓太が言うと老人は「わかった」と言って狐を背負って出て行ったが、また戻って来て「お前さん、暇ができたらわしの家を訪ねてくれ、わしの家はここから東へ行った黒松林の中で、林の中の一番大きな木の前で『胡さん、犬がいる!』と言えば迎えに出るから」と言って帰った。

 何年かして敖頓太は老母が死に毎日淋しく暮らしていたが、ある日ふと、あの白い髭の老人のことを思い出し老人の言った黒松林に行ってみた、林は行けば行くほど深くなり、暗くなるばかりであった。栗鼠が目の前を跳び、鳥はバタバタ飛んで「チイチイ」と鳴き、山はこだました。敖頓太はあちこち歩き回り、やっと七抱えも八抱えもあるような大きな木を見つけ、その前で「パン、パン、パン」と手を叩き「胡さん、犬がいる!」と叫んだ。

 すると「どうぞお入り下さい」と声がして松の木は扇のように開いた、敖頓太は思い切って松の木の洞に入って行くと明るい広い道の向うに青い瓦の大きな屋敷があり、白い髭の老人が何人も人を従えて立っていた、老人はまさにあの狐を背負って行ったその人であった。 老人は前に出て「恩人が来た、わしの息子を救ってくれた恩人が来た。さあ、早く入って下さい」と言った。

 敖頓太が助けたあの狐はこの老人の息子であの日酒を飲んで酔い、道端に倒れて凍え死にそうだったのである。息子は胡二と言い、命を救ってくれた恩義で敖頓太と義兄弟の縁を結んだ。老人は毎日毎日、山鳥や熊の掌、猿の頭(茸)、木くらげなどの山の珍味で敖頓太をもてなした。こうして敖頓太は老人の屋敷で何日も過ごしていたがだんだん厭きてきた。

 さて、四月十五日は街の千仏寺の縁日である。錫伯族はラマ教を信仰していて、この日はお寺へ行ってお線香を供えたり、願い事をしたりする老若男女の大勢の人が出て、たいそう賑やかになる。胡二は敖頓太に「兄さん、今日は千仏寺の縁日へ行きましょう、とても賑やかで楽しいですよ」と言った。

 二人は新しい着物に着替えて出かけ歩き始めると間もなく、化粧をした若い娘とお供の女中が乗った車に出会った、暖かい日で幌がかけてない、つぶらな瞳、紅い頬の娘はまるで蓮の花ように見え、敖頓太は一目で心を奪われた。娘も男らしい濃い眉、澄んだ目をした端正な敖頓太をじっと見ていた。

 胡二は敖頓太の気持ちを見抜いて「兄さん、あの娘をお嫁さんにしたら」とそっと敖頓太に囁いた、敖頓太が喜んで頷くと胡二は黒い緞子の肩掛けを出して敖頓太にかけ「これは隠身衣でこれをかけると誰にも姿が見えません」と言った。そして胡二と敖頓太は素早く娘の車に乗ってしまった。

 街に着くと娘と女中は車から降りて買い物をするのか商店に入った。すると胡二は「兄さんは何処でも娘の行く所へについて行きなさい、わたしは用事を済ませて後から行きます、隠身衣は決して脱いではいけません」と言って消えた。

 やがて娘は店からお線香と蝋燭を持って出て来ると千仏寺へ行った。寺の門前はたいそう賑やかで娘はまず前殿に入り釈迦牟尼像にお線香を供えて拝むと、高さ一丈あまりの千手千眼仏が安置される後殿に入った。千手千眼仏は千の手と千の眼がある女神像(一つの掌ごとに一つの眼がある)で赤い台座の蓮の花の上に座している。敖頓太は街に来たことも、こんな大きな仏殿に入ったこともなかったので、見るものが何でも珍しかった。 娘は千手千眼仏を拝み、自分で刺繍した花模様の手拭きを蓮の花の台座の上に置いて “どうかよい夫に巡り逢わせて下さい”と祈ると、いま台座の上に置いたばかりの手拭きがなくなっていた、不思議に思ったが“きっと仏様がお納め下さったのだ”と思った。

 娘は千仏寺を出ると、また五色の刺繍糸などを買って車に乗った。敖頓太はまだ胡二が 戻ってないので慌てたが仕方なく車に乗って娘と一緒に行った。娘が屋敷に着き部屋に入ると敖頓太も部屋に入り、娘が食事すると一緒に食べた。娘は“今日はどうしてこんなに食べられたのかしら”と思い、女中を呼んでもっと料理を作らせようとした。
 その時、敖頓太は思わず「もう沢山です、私のお腹はもう一杯です」と言ってしまった、娘はすぐ人の気配を感じ「あなたは誰、神様それとも幽霊」と言った、「神でも幽霊でもありません、人間です」「人間ならどうして見えないの」そこで敖頓太は隠身衣を脱いで娘の前に姿を現わした。

 娘は敖頓太を一目で街へ行く途中で見たあの格好いい青年だと気がついた、敖頓太は娘が千手千眼仏に供えた花模様の手拭きを取り出して「これはあなたが仏様に上げたものではありませんか」と言うと、娘は恥ずかしそうに顔を染めた。そして娘は敖頓太を自分の部屋に住まわせることにした。

 十日あまり過ぎて娘は敖頓太を隠し続けることはできないと思い、この事をそっと母親に告げた、娘の母も父も心の狭い人で結婚するには貧乏な敖頓太では釣り合いがとれないと悪い考えを起こし、翌日の朝食が済むとすぐ母親は娘の部屋の前に立ち「お婿さんや、娘とあんたの事はわかりましたよ、もう隠さなくてもいい、あんたの隠身衣とやらも娘に渡しきちんとしまって置いたほうがいい、そしてあんたをあたしが娘の父親に会わせるから」と言った。敖頓太と娘は騙されたとは知らず、隠身衣を脱ぎ母親と屋敷の母屋へ行った。母屋の前で母親が叫ぶと屋敷の下男たちが出て来て敖頓太を捕まえ、天井に吊るして死ぬほど叩いた。

 さて、胡二はあの日、用事を済ませて街に戻ってみると敖頓太がいない、あちこち捜し回り胡二は娘の乗った車が北へ行ったと聞いて北に向かい、娘の屋敷を捜しあてると、胡二は狐の法術を使い人からは見えないように娘の部屋へ行ってみると敖頓太は娘と楽しそうにしているので安心して帰った。ところが、今日また来てみると、敖頓太は叩かれて血だらけになっている、驚いた胡二は敖頓太を背負って胡老人の家へ帰り、傷の手当てをした。こうして敖頓太はまた何ヶ月か胡老人の家で過ごしそれから家へ帰った。

 さて、娘は敖頓太と十日あまり一緒に暮らしているうちに身ごもり、やがて月満ちて男の子を生んだ。『良馬に二つの鞍なく、烈女は二夫に見えず』という、娘の両親は娘の思うようにしてやるしかなく、車に娘と赤ん坊を乗せて敖頓太の家へ送り、敖頓太に嫁がせた。その後、敖頓太は隠身衣を胡老人に返し、敖頓太夫婦は幸せに暮らしたそうだ。    

        中国民間文学集成遼寧巻沈陽市巻中              01・2・11校正

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