プロローグ
「じゃあ、また帰りに」
初めに言ありき。あまたありき。
1965年2月22日、月曜日、
メトロ・ゴールドウィン・メイヤー社はスタンリー・キューブリックの次回作「星々のかなたへの旅(Journey Beyond the Stars) 」製作への資金提供を発表した。
〔メトロ・ゴールドウィン・メイヤー社:MGM。1910年メトロ設立、その後ゴールドウィンとメイヤーのプロダクションを加える。スター中心の大作主義で知られたが、1974年にコングロマリットに吸収された後、現在はMGM/UAエンターテインメントとなっている〕
――〔新聞記事の切り抜き〕――
“スタン・キューブリック、MG、「星々のかなたへの旅」製作へ”
ニューヨーク、2月21日――スタンリー・キューブリックとMGMが「星々のかなたへの旅」を共同製作する。原作は監督とアーサー・C・クラークの小説で、まもなく刊行予定。莫大な予算を投じ、8月16日、シネラマ、カラーで製作を開始する。イギリス、スイス、アフリカ、ドイツ、アメリカでロケし、セット撮影はロンドンのMGM撮影所でおこなう。脚本はキューブリックとクラークの共同執筆。「旅」の設定は2001年、太陽系の探査と地球外知性の発見を扱う。国際的なキャストを組む予定。
〔シネラマ:シネマとパノラマの合成語。フレッド・ウォーラーが発明した大画面映画。当初は3台のカメラで撮影し、3台の映写機で特殊スクリーンに上映したが、その後1本の70oフィルムと6本のサウンド・トラック方式で上映されるようになった〕
――〔見開き〕――
“やめて下さい” “分るよ”
“お願いします” “感じるよ”
“やめて下さい” “もうダメだ”
“お願いです デイブ”
メイキング・オブ・
“やめて下さい” キューブリック:
「2001年宇宙の旅」
“恐ろしい”
膨大な調査にもとづく
“怖いよ デイブ”
“もうろうと してきた”
ジェローム・アジェル 編
“分るんだ” 山川コタチ 訳
“感じるよ”
双子座の太陽
“ぼやけてきた” アリエスの月
昇る蟹座
“はっきり分かる”
〔木原たけし氏の字幕による〕
ジェローム・アジェル――本書の編集者
12の主、共著がある『ハーマン・カーン的世界(Herman Kahnsciousness) 』(ハンフリー・オズモンドとの共著)、『コンタクト:異星人への視点(The Cosmic Connection: An Extraterrestrial Perspective)』(カール・セーガンとの共著)、『メディアはメッセージである (The Medium is the Message)』(マーシャル・マクルーハンとの共著)、『今日は明日?・べつの未来を考える(Is Today Tomorrow?[a synergistic collage of alternative futures])』、『動詞だろう (I Seem To Be a Verb) 』(バックミンスター・フューラーとの共著)『過激な臨床医、男・女らしさの拡張、そしてもう一つの世界――大統領の知らない世界 (The Radical Therapist, Expanding Your Sexuality, and A World Without――What Our Presidents Did'nt Know』
「バック・ロジャースのような宇宙大作にはならないだろう」
――MGM社長ロバート・オブライエン、「2001年宇宙の旅」の製作を支えつづけ、450万ドルも予算オーバーしたときですら中止させなかった。
〔バック・ロジャース:1929年に始まった米国初のSFマンガ。25世紀にめざめた20世紀人バックが、未来社会の女性とともにアメリカを侵略するモンゴル族と戦う。ラジオドラマやテレビシリーズ化もされた〕
〔 450万ドル:16億2千万円。当時は1ドル= 360円の固定相場制だった〕
「男の子にとって、映画の撮影所はかつてない最高の玩具だ」――オーソン・ウェルズ
〔オーソン・ウェルズ:1915〜1985、米、映画監督、俳優。火星人来襲を「実況中継」したラジオ番組でセンセーションを巻起こし、26歳で製作した「市民ケーン」で天才の名をほしいままにする〕
「スクリーンは魔法のメディアだ。感動や雰囲気を伝える際に観客の興味をつなぎとめる力は、他のどんな芸術様式も真似できない」
――スタンリー・キューブリック
「『ねえ、リッキィ』カレルレンがいいかえした。『わたしがこれでも昔は相当なものだった精神力を、こうしていまだに曲がりなりにも保持していられるのは、ただただ人類をあまりまじめに考えすぎないおかげなんですよ!』」
――アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』(福島正実氏訳)より
「『2001年宇宙の旅』は、宇宙における過去そして未来の人間の生命を扱うものだ。宇宙における人間の地位についても考えるが、たぶんかなり低いだろう。宇宙でより高い知性を発見したときの人間の反応も描く。謎設定のねらいを煮つめるところから始めた。最初からオデッセイになぞらえるつもりだったが、タイトルにしたのはずっとあとだ」――アーサー・C・クラーク
「『2001年』について語りたくないのは、これが本質的に非言語的な体験だからです。台詞は映画の半分もありません。この映画のねらいは知性よりもむしろ潜在意識や感覚に訴えることです。視覚をないがしろにする人たちは、基本的に問題があると断言できます。彼らは聴いているのです。この映画は聴いてもあまり得るところはありません。自分の目を信じない人は、この映画を正しく理解できないでしょう」――スタンリー・キューブリック
・・・そして見解はほかにも:
――〔マンガページ〕――
1コマ目〔モノリスを取り囲んで騒ぐ人猿たち〕 ヒトザルたちの会話
◇ 「あれを見ろ。何だ、先史時代のハンドボール・コートだぜ!」
◇ 「音楽を鳴らすハンドボール・コートなんて、聞いたことあるかよ?」
◇ 「ばかでかい、先史時代のトランジスタ・ラジオかもしれないぜ?」
◇ 「それとも人類の夜明け時代のテープデッキかな?」
◇ 「おまえらみんなアホか。こりゃ謎の黒い大物体だ。オレたちを刺激して、かしこくなりたいと思わせるものさ。」
◇ 「お前のいうとおりだ。おれはかしこくなりたくなったぜ・・・!」
2コマ目〔投げ捨てられた骨がモノリスに跳ね返る〕 ヒトザルの台詞
◇ 「こんなアホ映画やめちまえ――すぐにだ!!」
1コマ目〔宇宙空間を漂う骨。音楽が鳴り、星が光り、小鳥が驚いて見ている。〕
◇ デム、ボーン。デム、ボーン。上がっていく。〔背景に白ヌキで〕
◇ 自然史博物館の好意による〔骨への注記〕
◇ アトラス・タイヤ〔星への注記〕
2コマ目〔宇宙空間を飛行するスペースシャトル〕
◇ クモの糸の翼に乗って、月旅行。〔背景に白ヌキで〕
◇ 船体製造者はフィッシャー〔スペースシャトル船体への注記〕
3コマ目〔宇宙船オリオン号内。フロイドにチューブ食を勧めるスチュワーデス。船内の内装、スチュワーデスのヘルメット、ユニフォーム、船外の星、太陽にさまざまな企業名――以下、フロイドとスチュワーデスの会話〕
◇ フ「きみは信じないかもしれないが、誓ってもいい――いま誰かこの宇宙船に骨をぶっつけた!」
◇ ス「たぶん他のエアラインのサルですわ! 私どもは料金を“不良貨幣”では頂けませんわ! 召し上がりませんか、博士?」
◇ フ「いや、けっこう。満腹だから、吐き出すかもしれない!」
◇ ス「おやめください。無重力状態ですから!」
◇ フ「ああ――外にならどうかな?」
◇ ス「おやめになったほうがよろしいですわ。あと19時間、見つづけることになりますから!」