撮 影
以下のページのキャプションはキューブリック、クラーク両氏、トランブル、ペダーソン各氏の協力でできあがった。(「マット」という言葉がしばしば出るが、これはあるシーンの上にべつのシーンを重ね焼きする際の光学的処理のことである。)
※ 以下原書では96ページに及ぶグラビアが続きます。ここからは原書のページごとに通し番号を振り、〔 〕書きで写真の説明を加えたのち、原書のキャプションを訳出します――訳者
1 〔冒頭のシーン。字幕「人類の夜明け」。フィルム4コマ(全面)〕
2 〔ヒトザルのぬいぐるみを着せるスタッフ(ほぼ全面)。上部にキャプション〕
アーサー・C・クラーク:「映画はまず過去からはじまる――ちょっと見せて――洪積世の時代からだ」
3 〔上:岩の窪みでおびえて身を寄せ合う3頭のヒトザル〕
そしてオデッセウスはイタケに帰還した「星々のうちにその光最も明るく、朝のまだきに生まれる曙の光の到来を告げつつ現れる明けの明星が昇るころ」(松平千秋訳『オデュッセイア』)
南西アフリカの原始的な光景を何千枚もカラー写真に撮り、ロンドン郊外のMGMボアハムウッド撮影所で背景に使用した。(どことはいえないが、アフリカの真ん中で「2001年」製作チームの車が接近するトラックと衝突、写真家2名が負傷した。)
1969年5月1日のニュース:「アフリカで新発見があり、人類の登場はいまから400万年前と判明しました」
クラーク:「1965年に人類の夜明けを400万年前と設定してたんだが、当時は年代がどんどん遡っていたから安全サイドをとっていたんだ。どうやら連中、われわれに追いついたみたいだな」
写真下:ヒトザルがパイプをくわえて口を開けっぱなしにしているが、これは息をしているうちにゴム製のアゴが緩み、口が自然に閉じるのを防ぐため。
〔下:セットのなか、ヒトザルが足を組んで岩に腰掛け、新聞を読んでいる。口にはパイプをくわえている〕
4 〔倒したシマウマの傍らで休むヒョウ。ヒョウの眼が光る〕
死んだ馬にペイントを塗ってシマウマに似せた。「シマウマ」と生きたヒョウのシーンは麻酔銃をかまえて撮影した。馬の悪臭がひどく、このシーンにはヒョウも撮影チームも閉口した。
「400万年ほど昔のある朝、奇妙な黒い直方体のブロックが現れ、怪しんだヒトザルたちが周囲に集まった」
この先史時代の物体はもともと四面体だった。特殊効果監督コン・ペダーソン:「四面体は記念碑的なものには見えないし、単純でも基本的な形でもない。大きさよりも先細りという形の印象のほうが強い。観客のなかにはピラミッドを連想する人も出るだろう」
計画でははじめ、この物体にサルが肉を食べる画像をスーパーインポーズして、ヒトザルに催眠学習効果をあたえるつもりだった。
キューブリック:「石板とストーンヘンジの関係については、なんの興味もない」
クラーク:「スタンリーとわたしがストーンヘンジについて語り合ったのは確かだが、こまかいことは覚えていない。スタンがストーンヘンジに行ったことがあるかどうかについても知らない」
キューブリック:「行く(god=神?)には遠すぎるよ」
5 〔上:モノリスの出現に驚き、遠巻きにするヒトザルたち〕
〔下左:数頭のヒトザルがモノリスに近づく。フィルム5コマ〕
〔下右:“月を見るもの”がこわごわモノリスに手を触れる。フィルム5コマ〕
6 〔上:透明なガラス板に囲まれたカメラ。後方にマスクをしたカメラマン〕
フロント・プロジェクト・ミラーが曇らないよう、マスクをつける。
〔フロント・プロジェクション:スタジオ内で、風景等を映写したスクリーンの前で俳優が演技し、これを前方のカメラで撮影する。スクリーンの背後から背景を映写する方式をリア・プロジェクション、前方から映写する方式をフロント・プロジェクションという。原理的には古くから知られていたが技術的に困難で、本格的に開発、使用されたのはこの映画からである〕
撮影には5個のモノリス、90センチメートルのもの数個と3.6メートルのもの1個を使用した。
「モノリスに触れると、リーダーの心のなかで意識がかすかに反応した。いま、敵意に満ちた世界を見わたすかれの眼差しには、どんなサルの力をも超えた何かが宿っている。この暗く落ちくぼんだ両眼が何かに気づきはじめたのだ――最初の知性が芽生えてから400万年間、それは成長をやめようとはしなかった」
〔下:骨の散乱する地面にしゃがみ込み、いぶかしげに1本の骨をいじる「月を見るもの」〕
7 〔モノリス、太陽、三日月が一直線に並ぶ。フィルム4コマ〕
8 〔上:右手で骨を振りかざし、死んだ動物の骨を叩き割る「月を見るもの」〕
キューブリック:「太陽と地球と月、あるいは木星とその衛星が一直線に並ぶ異様な光景は全編を通じて現れ、何か不思議で重要なことが起きる前兆を示す。このアイデアは、ストーンヘンジと太陽が一線に並ぶときの奇妙な感覚とどこか関連があるように思う」
〔下左:膝を折って崩れかける動物。フィルム4コマ〕
〔下右:崩れ落ちるバク。フィルム4コマ〕
9 〔上左:倒れるバク。フィルム5コマ〕
〔上右:横たわるバク。フィルム5コマ〕
キューブリックはロケーションを続ける。撮影所の扉のすぐ外では、動物の骨が人類の進化を象徴するようになる。空がリアルである。
〔下:口を開け、歯をむきだして骨を振るう「月を見るもの」。アップ〕
10 〔骨をもち、岩の上で右手に向かって威嚇する3頭のヒトザル。奥に多数のライトが光っている。セット撮影〕
サルは俳優、パントマイム俳優、ダンサーたちが演じたが、2頭のチンパンジーの赤ん坊はほんもので、調教師が突っついてニセのサルに怯えているように見せた。俳優は手足が細くて腰も小さな人を選び、ぬいぐるみを着てもかさばらず、人間がゴリラの衣装をまとったように見えないようにした。牙を生やしたり、唸ったり、飲み食いするためのこまかな関節をつけたサルのマスクを作るのは、とてつもなくこみ入った作業だった。義肢を作る会社と契約して指の長いサルのような手を作ってもらい、それよりすこしだけ長い筒状の手のなかに俳優の手を入れて、遠隔操作できるようにしてもらった(これはほんものらしく見えなかったので不採用)。頭部はプラスチックで頭蓋骨のベースを作り、それにアゴの蝶番を取付けた。顔は皮膚に合わせてゴムで精巧な型をとっている。髪の毛はかつらに毛を植えるのとおなじ方法だ。唇は作りものの舌と歯、それに小さなトグル(肘棒)を組合わせ、俳優が舌を動かすと唇が左右、あるいは両方向いちどにねじれるようにした。目は俳優のほんものの目だ。マスクは瞼にぴったり合うよう作った。サウンド・ステージの天井には、個別操作が可能なライト1500個を設置した。
コンピュータをプログラムして、俳優に着せるサルの衣装、必要数の製作所要日数を計算させてみた。連続作業と並行分業、いちばん時間のかかる部分、最適工程などのデータにもとづいて計算させると答えは9年とでた。多少こまかい手直しをしても、衣装の製作には3か月しかかかっていない。アーサー・C.クラーク:「『2001年』がアカデミー・メーキャップ賞を獲らなかったのは、サルを演じたのが俳優だってことが審査員には分からなかったからさ」
11 〔右手に動物の骨をもち、さまざまな姿勢をとる「月を見るもの」5態〕
ヒトザルのリーダー「月を見るもの」に扮したダン・リクター。
12 〔上:相手グループの一頭を骨で打ち倒す「月を見るもの」〕
大型(20p×25p)スライド用の特殊な映写機を製作しなければならなかった。俳優に当てる照明を弱め、背後の明るいスクリーンへの干渉を防いだ。大規模なフロント・プロジェクション方式は「2001年」が開発したものである。スライドの映写は通常、スクリーンの背後からおこなわれる。
〔中:倒れた一頭をなお骨で打つ「月を見るもの」〕
フロント・プロジェクション・スクリーンの大きさは 12m×27m もあり、反射率の高い素材で作ってある。
〔下:顔を空に向け、骨を放り上げようとする「月を見るもの」〕
13 〔骨が空に投げ上げられる。「月を見るもの」の腕と骨のアップ〕
14 〔落下しはじめる骨。フィルム4コマ〕
15 〔降下する核軌道衛星。フィルム4コマ〕
16 〔左半分に縦長の写真:上半分を覆う地球。その下縁から太陽が出ている。手前下方に前ページの核軌道衛星が地球を周回している〕
地球の日の出。
20世紀の終わりには核軌道衛星が地球を周回している。模型の大きさは約60センチメートル。
(ハリー・ラングが数多くの模型をデザインしたが、画面には出ていない。これらのミニチュアには、各種の用途に合わせた太陽電池つきの探子やさまざまなアンテナがついている。胴体の形は円筒や多面体のものがほとんどで、長さはおよそ90センチメートル。)
キューブリック:「ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮の『美しく青きドナウ』の魅力を見くびってはいけない。35歳以下の人たちなら、大多数が素直に聴いて美しい曲だと思うだろう。年配の人たちは、パームコート・オーケストラを連想して不幸なできごとに結びつけるだろうから、この音楽を映画に使うのはまず批判をうけるだろう。でも、この曲以上に優美で美しい表現をもつ曲を探すのはむずかしい。それにありきたりの宇宙音楽を使うよりはるかに効果的だ」
〔パームコート・オーケストラ:
17 〔上:画面の下半分に地球。地球の向こうから太陽が昇り、右手地球の表面近くを核軌道衛星が巡っている〕
黒く光る地球はアニメーション・スタンドで撮影。衛星は大型ホリゾンタル・カメラに映したスチール写真である。
〔下右半分に縦長の写真:機首を下に向けて飛行するオリオン号。その右に地球〕
オリオンの模型は、全長約90センチメートル。
特殊効果監督ダグラス・トランブル:「模型の基本材料は木、グラスファイバー、プレキシガラス、鋼、真鍮、アルミニウムだ。こまかい部分は、特殊な熱成形をした柔らかい金属薄片にプラスチック被膜をかぶせていろいろな質感や厚さを出したもの、針金、チューブ、貨物列車や戦艦から航空機、ジェミニ宇宙船まで何百というプラモデル・キットから何千という小部品をていねいにより分け、それらを使った。カメラがすぐそばに近づいても、細部の乱れや模型と分かるようなことはなかった。」
18 〔上:オリオンの客室セット。客席とテレビがずらりと並んでいる。手前に撮影用のライト・スタンド〕
ヘイウッド・フロイド博士(ウィリアム・シルベスター)を月に運ぶ、オリオン号の機内テレビには1台だけスクリーンを張り、番組をリア・プロジェクションしている。フロイド博士はアメリカ宇宙評議会の議長である。
〔下左:機内後方から前方を見る。うたた寝をするフロイド博士の左手が通路にはみ出して浮き上がり、そばを服から外れたペンがただよう。フィルム4コマ〕
〔下右:おなじ場面を前方からカメラ、ライト、スタッフが狙う〕
フロイド博士は寝入り、テレビのラブシーンを見逃している。デトロイトの撮影班が未来カーの部分を撮影し、イギリスのキューブリックが作り物の椅子に腰掛けた男女の俳優を撮影した。車とカップルの場面を合成し、テレビスクリーンに映写している。
19 〔上:スチュワーデスが左手を手荷物棚にかけ、前方からこちらにゆっくり歩いてくる。フロイドの左手は通路上に浮き上がっている〕
〔中:スチュワーデスが近づく。フロイドの席のテレビは車のなかのラブシーンを上映している。〕
〔下右:スチュワーデスかがみ込んで左手をシートにかけ、右手で空中にただようペンをつまみあげる。左側にキャプション〕
ペンはナイロンの糸で空中にただよわせたが、スチュワーデスが「大気圏外で」つまみ上げるところでは直径 2.4メートルのガラス板に糊づけし、ガラス板を回転させた。テレビでは劇中劇が続く。
20 〔全面:左下に地球、その上方やや左に宇宙ステーション、その右やや上方からオリオンが宇宙ステーションに接近する。上方の宇宙空間に白ヌキでキャプション。この写真は映画の画面を反時計方向に90度回している〕
4.7,SS 5+オリオン、地球 BG,#2
ショットの始め:軌道上の宇宙ステーションと地球が浮かんでいる。アニメーション・スタンドに置いた6インチのカラースライドを撮影し、ひとコマごとに0.06ミリメートルずつ動かした。星々のショットはうまく一致するように撮影し、その後すべての要素(エレメント)が鮮明に写るようにマットをかけた。宇宙ステーションの模型の大きさは1.8メートル。オリオンは後方から撮ったスチール写真で、カメラを後ろに引きながら撮影した。タイミングを測りながらあらかじめ撮影した宇宙ステーションの動きにすこしずつ追いつくように移動させ、見るひとにわずかなスピードの違いが分かるようにした。チェックは劇場で2台の映写機を使っておこない、1台は宇宙ステーションのオリジナルの画面を映写し、もう1台がオリオン号を映した。背景が黒だったので、強い光でスクリーンが消えることもなかった。
〔ショット:中断せずに一息で撮影されたフィルムの断片〕
21 〔中央右にやや小さな写真:シネラマカメラのそばで腰を落とし、前方を見ながらポラロイドカメラをいじるキューブリック〕
「学校教育の大きな過ちは何もかも子供に教え込もうとし、しかもその動機づけに恐怖をもちいることだと思う。進級できない恐怖、クラスから落ちこぼれる恐怖などなど。恐怖を尺度にして、興味をもって勉強することとこれを比較すれば、カンシャク玉と核爆弾くらいのちがいがある」――スタンリー・キューブリック
「『2001年』でいちばん注目を引くのは、大衆にまったく迎合していない点だ。キューブリックが『ポップコーンをもちこませようじゃないか』なんていったためしはない。妥協する姿勢がまったくないから、観客にはこれがたんなる科学を超えた、はるかに大きな問題を扱っていることが分かるわけだ」――アーサー・C・クラーク
「ばかばかしく聞こえるかもしれないが、若い映画製作者にとっていちばんいいことは、カメラとフィルムを抱えてありとあらゆる映画を撮ることだよ」――スタンリー・キューブリック
「SFのことをいい出したとたんに、ほとんどの人が目玉の飛び出た怪獣やら怪しげなオバケのことを連想する。地球外生命の可能性を扱った映画製作者にも、高尚な試みをやった人はほとんどいない。おかげで『2001年』がとてもユニークなものになったんだと思う。この映画は形而上学的な問題や哲学的な問題、さらには宗教的問題まで含んでいる。答えを見つけたというつもりはない。だが、たしかに考えてみる価値のある問題だと思う」――アーサー・C・クラーク
「レオナルドがモナ・リザのキャンバスの下にこう書いていたら、どんなにありがたいだろう。『このレディーは、恋人に秘密を隠しているのが楽しくて微笑んでいる』。だが、これは観る者の理解を限定してしまうことになる。わたしは『2001年』をそうはしたくない」――スタンリー・キューブリック
「目は魂の窓である」――レオナルド・ダ・ビンチ
22 〔見開き:回転する宇宙ステーションにドッキングするオリオン。操縦室の背後から正副2名の操縦士、計器板、
23 前方の窓をとおして、正面に宇宙ステーションが静止して見える。キャプションは白ヌキ〕
オリオンの両操縦士間にあるディスプレイ3面で、回転する宇宙ステーションとのドッキング状況を表示する。宇宙ステーションのドッキング区画に接近する状況を、中央のディスプレイがコンピュータでリアルタイム表示する。現代の宇宙飛行士の多くも、月着陸船をアポロ指令船にドッキングさせる際は、放射状の格子線と垂直水平線を組合わせたディスプレイで視覚的におこなう。ディスプレイは、ドッキングに接近する状況をシミュレーションして実際に撮影したものである。修正操作の指示も表示する。アニメーション(コンピュータ・グラフィックではない)で製作し、グラフィック表示を多重焼付けした。あと2面のディスプレイは、他の機内装置の通常な運転状況を示す。それらの表示によって「正常な」状態を保証するのだと考える人たちもいる――コンピュータがほんとうに操縦士の味方であると。
24 〔上:フロイド博士が宇宙ステーションに到着し、中央発着室の扉が開く。フィルム5コマ〕
オリオンと宇宙ステーションとのドッキングはうまくいき、この映画の開始からほぼ30分後、はじめての言葉が語られる――「到着いたしました」
25 〔上:宇宙ステーションの環状居住区のセット外観。多数の支柱、足場、壁や窓が見える〕
宇宙ステーションの湾曲した骨組み。長さ90メートル、端部の高さは12メートルもある。
〔下:宇宙ステーション内部のロビー区画。奥に向かってせり上がる廊下の奥から手前に、フロイドと保安部のミラーが歩いてくる。ロビーにはテーブルと椅子が配されている。左手にヒルトン・ホテルのクローク〕
宇宙ステーションがゆっくり回転すると遠心力が生じ、人間は床に押しつけられて正常な重力感覚が得られる。アメリカの企業がケープ・ケネディを経営し、宇宙でもおなじ状況が予測される。
26 〔上:TV電話で本人の姿を見ながら、地球に残した娘と会話するフロイド。側面の窓に巨大な地球が見える。〕
TV電話のデザインには通信衛星テルスターを設計した、ベル研究所のジョン・R・ピアースが協力した。地球の原画はジョン・ローズによる。さまざまなガラス状の雲がかかった部分を選んだ。スライドの露出には気をくばり、地球が明るい天体に見えるよう撮影した。スライド映写機を回転させながら宇宙ステーションの窓に張った大スクリーンに映写し、地球が回転しているように見せた。キューブリックの娘ヴィヴィアンがフロイド博士の娘「スクアート」を演じたが、配役にはクレジットされていない。あらかじめヴィヴィアンの部分を撮っておき、彼女の受け答えに合わせてシルベスターが演技した。この場面では翌日が彼女の誕生日で、プレゼントにブッシュベビーをねだっている。メイシー百貨店に似せたセットでブッシュベビーを購入する場面を撮影したが、最終的には使用されなかった。
〔ブッシュベビー:ガラゴ。アフリカ南部のキツネザルにちかい小型のサル〕
〔メイシーズ百貨店:ニューヨークにある世界最大のデパート。例年感謝祭の大パレードを主催する〕
〔下左:TV電話画面のなかの「スクアート」。右手を電話機のダイヤル部分にかけ、左手を後ろに回して父親と会話している〕
〔下右:ブッシュベビーの小さな写真。ブッシュベビーは、日本語字幕では『おサルさん』と訳されている〕
ブッシュベビー。
27 〔上:宇宙ステーション内、ロビーに集まるソ連人科学者の撮影風景。画面右半分に4人の科学者が椅子にすわり、その奥にカメラからの距離を測る担当者。左手に大きなカメラ。その横あいからキューブリックが顔をのぞかせている〕
宇宙ステーション・シーンの撮影準備。
〔下、右上:エレナ(右)と握手するフロイド。かれの左にスミスロフ博士(男性)が立つ〕
月から地球に帰還するソ連人科学者たちは、フロイド博士から米国地区の不可解な行動の理由を聞きだせない。
〔下、右下:アリエス号が画面左を左方に向かって飛行している。中央部下奥に太陽が輝く。右上には太陽光をうけて三日月形に光る地球。〕
フロイド博士を宇宙ステーションから月のクラビウス・クレーターに送り届ける、アリエス号はアニメーションのカットアウトである。
28 〔全面:アリエス内でスチュワーデスが食事をもって円形通路の壁を登る。フィルム3コマ〕
29 〔上:スチュワーデスは完全に逆さまになった〕
〔中:逆さま状態で、スチュワーデスは隣の通路に入る〕
MGMの公式説明:「無重力状態で、食事のトレーをもつスチュワーデスがアリエスの操縦室に入る。ベルクロ(マジックテープ)のついた靴を履いているので、これを張った床面ならどこにでも登れ、逆立ち状態になることさえある」
〔下右:撮影セット。水車のような回転構造物が組み立ててある。〕
撮影方法:前面の部屋が回転する――背景の部屋とは連結されておらず、背景の回転踏み車上を女優が歩く。カメラはセットの前面に固定され、180度回転できるようになっている。底部にいたスチュワーデスが壁を歩いて行くように見える。右の写真は、回転式調理室の外観。
30 〔上:アリエスの客室。座席に座るスチュワーデスと食事を運んだスチュワーデスが語りあい、前面のスクリーンでは柔道の試合がおこなわれている〕
キューブリックはスチュワーデスのおしゃべりの上に音楽を被せた。彼女たちが語るのは観客には既知こと、フロイド博士が眠っていることである。スチュワーデスの1人が操縦室に行き、フロイド博士は寝ていると告げる。キューブリックはここでも音楽を被せることにした。劇中劇に注意。
〔中左:アリエス客室のセットを外側前方から見る。多くのスタッフが入り、スタジオ天井から多数のライトが下がっている〕
〔中右:手前にあるカメラ等の機材のあいだから、奥で座席に座ったフロイドが膝に食事のトレーを置いているのが見える〕
「観客の多くがフロイドは惑星クラビウスに向かうと思ってしまう。どうして惑星クラビウスが存在するなんて思うのか、見当もつかないけどね。でも『どこに行くのか』と訊かれ『クラビウスに向かっている』とフロイドの答えを聞くと、多くの観客の頭のなかでこの言葉が鳴り響いて刻印され、15もある月のショットを見なくなる。月に向かうと思わなくなるんだ」
――キューブリック(モーリス・ラプフとの対談で)
〔下左:ストローで食事を吸い込むフロイド。〕
〔下右:無重力トイレの使用説明を読むフロイド〕
無重力状態でフロイド博士が食事を吸い込む場面には、技術的ミスがある。無重力状態なのに食物がストロー内にとどまらず、容器にもどっている。アーサー・C・クラークにいわせると、無重力トイレの使用説明を読むのはこの映画唯一の意図的ジョークだそうだ。
31 〔無重力トイレの使用説明書〕
無重力トイレ
ご使用のまえに、この説明をお読みください
1 このトイレは標準型無重力トイレです。必要に応じてシステムAおよび/またはシステムBが使用でき、詳細はトイレ室内に記載しております。システムAの使用は、レバーを押し下げてプラスチックのダルクロン排出器をすぐ下の溝に通します。接着式リップを締めるには、大きな「X」マークのついた接続器を出口ホースに取付け、接続部の下 2.5センチメートルにある銀色のリングを、カチリとロックするまで回してください。
2 これでトイレは使用できる状態になりました。ソノヴァック・クリーナーはリップにある小さなスイッチで作動させます。収納するにはリングを回して最初の状態にもどし、2本のオレンジ色の線を合わせます。切り離したのち、真空接続部のダルクロン排出器を後部に収めてください。
3 システムBの操作部は反対側の壁にあります。赤い解除ボタンは受尿器を所定の位置にセットするものです。青い手動解除ボタンを押すと手動で高さを調節することができます。開口部は自動調整されます。使用後、装置を緑のボタンで固定します。これを押すと蒸発器が作動し、同時に受尿器も収納状態に戻ります。
4 扉の上にある緑の出口灯が点けば、便所を出てもかまいません。赤ランプが点灯しているときは、便所設備のどれかが正しく固定されていません。扉右側の「スチュワーデス呼出し」ボタンを押してください。外側のコントロールパネルで、全設備を固定します。緑色灯が消えれば、扉を開けてお出になれます。出たあと扉をお閉めください。
5 音波シャワーを使う際はまず脱衣し、お召し物をすべてラックにお入れください。すぐ下のキャビネットにあるベルクロスリッパをお使いください。シャワー室に入ります。入って右上のコントロールパネルに「シャワーシール」ボタンがあります。それを押します。すぐ下の緑色灯が点灯します。ノブを回してお好みの強さにセットしてください。つぎにソノヴァック作動レバーを押し下げます。ふつうどおりにシャワーを浴びてください。
6 ソノヴァックは3分後に自動的に停止しますが、続けてご使用になる場合は「手動オフ」オーバーライド・スイッチを上方に倒してください。終了後、青の「シャワーシール」解除ボタンを押してください。扉が開いて出られるようになります。ベルクロスリッパを脱ぎ、容器に収めてください。
7 このパネル上部の赤ランプ点灯中は、トイレは使用中です。緑灯が点いてからお入りください。ただし無重力航行中に設備を使用するときは、指示はすべてきちんお守りください。内部には三つの設備があります:1 音波シャワー、2 ソノシャワー、3 トイレット。これらはすべて無重力状態で使用するよう設計されています。各設備の操作手順をよくお読みください。
8 顔、手を洗うソノウォッシングには二つのモード「濡れタオル」モードと「ソノヴァック」超音波洗浄モードがあります。モードを選択するには、ご希望のレバーを「作動」側に倒します。
「濡れタオル」モードにするには、表示のある黄色いボタンを押してタオルを引出してください。使用後タオルは真空排出機に捨て、緑色のランプが点くまでレバーを「作動」位置にしておいてください。緑のランプはローラーがタオルを完全に排出機に送りこんだことを示します。タオルを追加使用するときは黄色のボタンを押し、上の操作をくり返してください。
9 「ソノヴァック」超音波洗浄モードをご使用になるには、青のボタンを押してください。2枚のパネルが開きますので、リングAとBを前方に引いてください。手洗いはこの位置でおこないます。タイマーを10,20,30,40 いずれかの位置に設定してください。数字は洗浄時間・秒です。青いランプのすぐ左下のノブには設定位置、低・中・高があります。通常は「中」の設定での使用をおすすめします。
10 設定が終わりましたら、きれいな赤のスイッチを「入」にし、装置を作動させます。使用中に設定を変更したい場合は「手動オフ」オーバーライド・スイッチを「切」にしてください。設定が切り替わりますので、続けてご使用ください。
32 〔全面:月に向かうアリエス号。巨大な月の下半分が明るい昼の部分、アリエスは上部の夜の部分を、船体後部を見せて月に向かっている。夜の部分にアニメーション・スタンドの挿入写真。キャプションは月の下側、宇宙空間に白ヌキで。この写真は映画の画面を90度、時計と反対向きに回転してある〕
月は、実際の望遠鏡写真をアニメーション・スタンドで再撮影し、スライド化したもの。月シャトル、アリエスは直径60センチメートルの模型のスチール写真をホリゾンタル・カメラで撮影し、遠ざかるときの長い航跡を表現した。アリエスの動きは、背景に対する相対的な動きを視覚化することと、最初と最後のフレームで画面内を単純に移動させることで表現した。挿入写真は、20p×25pの月面を65oオクスベリー・アニメーション・スタンドで撮影しているところ。
33 〔上:月面上を降下するアリエス。向こうに半円形の明るい地球が見える〕
フロイド博士の38万4千キロメートルの旅が終わろうとしている。アリエスは写真で、窓のシーンはリア・プロジェクション。背景の地球は月面や星とともにアニメーション・カメラで撮影した。背景が「マスター」で、ホリゾンタル・カメラでアリエスの写真ととともに新しいネガに焼付けたが、このとき地表は自動的にマスクされる。
〔中:クラビウス基地ドームのパイ形パネルが開く。内部の正方形着陸帯の境界灯が明るく輝いている。〕
直径3メートルのアストロドームにアリエスが着陸――長さ90センチメートル、8枚のパイ形パネルが「地下」に引き込まれる。着陸台の照明は、西ドイツからとり寄せたきわめて明るい小型電球である。
〔アストロドーム:テキサス州ヒューストンにある、1965年に完成した世界最初のドーム型屋内競技場。直径197メートル、高さ63メートル、18階建てのビルに相当する。プロ野球、プロフットボールの試合などが催される〕
ロケット・エンジン内の空気ノズルによって埃が舞い上がる。この場面は高速度撮影によりスローモーション効果を出した。
〔下:着陸帯に着地するアリエス。埃が舞い上がり、背景には地球が光っている。〕
34 〔上:クラビウス基地内のエアロックを降下するアリエス〕
〔中:エアロックに着底したアリエス〕
クラビウス基地のエアロックを降下するアリエス−1B――セットの深さはおよそ4.5メートル、アリエスの直径は約60センチメートルである。未露光部分数カ所には、小部屋とそのスクリーンを同時に露光させた。エアロック・シーンのセパレーション・マスターも焼付けた。小さなガラス・ブース「内側」の場面――人びとが動き回る――は、遠近感を合わせたべつの場面を35oフィルム、フルサイズで撮影し、65oフィルムの未露光部分数箇所にうまく焼付けた。そして最後にエアロックのシーンを周囲につけ加える。これに使ったのは35oの「画面」すべてを合成したカメラ、リン・ダン・マットカメラである。
『ポピュラー・サイエンス』誌:「キューブリックは『博士の異常な愛情』のクライマックスで、狂いに狂った世界を核爆弾の饗宴で破壊しつくした。『2001年』でははるかによい世界を復活させ、そこでは月への往環飛行が日常茶飯事である」
写真下はクラビウス基地。フロイド博士が「基地に伝染病が発生したかのような噂を流した」ことを陳謝し「だが、科学史上最大の発見の可能性を考えるとやむをえなかった」と述べる。
〔下:クラビウス基地内、会議室。スピーチ台を前に基地職員に語るフロイド。左手前に右手に黒い手袋をしたストレンジラブ博士(!)〕
35 〔上:月面上を飛行するムーンバス。大きさと向きを変えたものが2機、写し込んである。〕
ムーンバスの切抜き写真で、窓には機内の人の動きがリア・プロジェクションされている。カメラを後方に引きながら遠ざかる軌道に沿ってバスを横に動かし、動きを出した。カメラをわずかに傾け、軌道と地平線を合わせてある。
〔下中:ムーンバス内でサンドイッチを手に、2人の僚友と語り合うフロイド〕
遠近感を作る方法は簡単だ。低い地平線と山並み、その手前に丘がある場面を思い浮かべていただきたい。平板な画面である。この画面を、傾けたテーブルの奥およそ1.8メートルのところに立てた、1.2×3メートルの平面に映写したと想像する。いちばん奥に厚紙を立て、それを、そこに写ったいちばん遠くの地平線の形に沿って切りとる。こんどはすこし手前に厚紙を置き、映写機の焦点を合わせてやや手前の風景を切りとる。それぞれの距離に合わせて丘などを順次切り抜いていく。うまくできたら画面要素の大部分が背景に使えるようになる。つぎにこれらの切抜きに倣って、同じ寸法で丘の模型を製作する。模型は最初の切抜きと同じだが、表面にほんものの凹凸をつけてあるのでどの角度からでも照明を当てられ、リアルに見える。ちがいはこの 1.8メートルの奥行きで作った光景を見おろしたとき、それがおそろしく押しつぶされてはいるが、もとはその3倍くらいの奥行きがあったように――そうだったにちがいない――見えることだ。だとすれば現実の風景と同じく、すべてに焦点が合うはずがない。
ムーンバス内でサンドイッチが配られる。