Karen Golden-Biddle and Karen Locke論文の概要
Appealing Work: An Investigation of How Ethnographic Texts Convince, Organization Science, Vol.4, No.4, 1993, pp.595-616.

「研究成果をアピールする:エスノグラフィック・テクストはどのようにして説得力を有するかを調べる」

 

 本論文は、エスノグラフィー(民族誌)に基づいた記述研究報告書の読者がそれら報告書を説得力のあるものと見るようになるために、それら報告書が読者にアピールする方法を調査する。特に、報告書と読者との相互作用、そして報告書の解釈における言葉の使い方/修辞学の役割に光を当てる。組織研究、民族学、文芸批評の文献における関連研究を本論文は拡張し、説得プロセスの中心にある三つの次元−信憑性(authenticity)、もっともらしさ(plausibility)、批判的な見方(criticality)−を開発する。

 さらに、本論文は幾つかのエスノグラフィック論文のサンプルの分析を通して、読者にそれらテクストへ関心を寄せさせ、これら三つの次元が達成さたことをそれら読者に受け入れるよう要求する、特別な執筆実践様式と一般的な戦略を明らかにしている。

 解釈主義視点が採用されるとき、エスノグラフィーに基づく仕事の多くがそうであるように、執筆と査定のための一般に受け入れている標準や実践様式(実証主義的研究のそれ)を適用することが難しくなってきている。

 本論文は、解釈主義視点にたち、エスノグラフィック研究がどのように説得するかを調べる。解釈主義視点は、意味を付与するために、また人が社会的経験を構造化するために、観念や概念のような記号形態を人が使用するという前提に立つ。研究者は、コンテクストに根付いた社会的経験の意味を、アクタの視点から理解することに焦点を合わせる。つまり、研究者は、状況を考慮して構築された意味を調べ、アクタが彼らの経験をつじつまが合うようにするそのやり方を解釈する。伝統的研究(実証主義)が主に行為に焦点を合わせていたことからすると、この解釈主義視点は観念、概念、信念、すなわちアクタが意味を伝えるために使用する言語により大きな重要性を与えている。

 この10年間、哲学(Rorty)、人類学(Clifford Geertz, Marcus & Fischer)、心理学(Bruner)、組織研究(Van Maanen)などの異なる分野で、書かれたテクストにおける説得の修辞的な次元を開拓するために、文芸批判における仕事を採用する研究者が増えつつある。彼らは、説得することがいかに行われるかを、テクストがどんな(what)メッセージを伝えたかという結果としてだけでなく、そのそのテクストがそのメッセージをどのように(how)伝えたかという結果としても調べている。

 書かれた作品をテクストとして見ることは、どのような修辞法が、また研究者-テクストと読者-テクストの対話的関係が、説得することの議論から分離できないことを明らかにする。このメタファーから、研究成果物は、研究者が開発し読者が解釈する、テクストとなる。エスノグラフィー研究者は現場状況に入ることで、そして現場経験の流れを書き物形態に変換することでテクストを開発する。読者は、自己の背景と経験のもとテクストの中にある意味を明らかにすることで、能動的にテクストを解釈する(Berger & Luckmann)。この意味で、著者によって創造された意味は外在(out there)するのではない。すなわち、意味は読者がそれを理解するためにテクストの中でモノ的に(objectively)、しかも人から離れて独立にそこに存在するのではない。そうではなくて、読むプロセスの中でそれは明らかにされるのである。

 読者がテクストを能動的に解釈する事実は、読者とテクストの間に根本的な非対称性を作り出す。すなわち、一度作り出されたならば、筆者と読者の間にテクストは介入し、著者からある種の独立性を作り出すのである。著者が意図した意味と同一の意味を読者は必ずしも明らかにする(disclose)ことはない(Ricoeur, 1976)。

 

説得すること(convincing)

 実証主義という伝統科学では、正確性、普遍性そして研究者独立を促進する方法論が標準として確立されており、それに従うことが、真でしかも研究者に代わってみずから主張する事実結果を生み出すことになる。それに対し、解釈主義では研究者が自らの研究知見が注目に値すると、読者に説得できることが重要となる。

 何人かの研究者は、書き方が読者にある種の方法論的正確さを伝え、そして知見の真実性を訴求するということを明らかにし始めている。例えば、明確な進行形カテゴリ(例えば、導入、方法、結果、議論)としてテクストを組織化することで、(実証主義研究における)方法論的正確さは科学的原稿に宿ることとなる。それは注意深く概念化され、秩序付けられ、誤りなく実行されたという線形的な研究プロセスのイメージを読者に作り出してきた。

 

説得することにかかわる次元(Dimensions of Convincing)

 次に、説得プロセスの中心にある三つの次元−信憑性(authenticity)、もっともらしさ(plausibility)、批判的な見方(criticality)−を取り上げる。

1.信憑性

 研究者が本当に現場に現れ、しかも現場メンバが現実世界をどのように理解しているかをその研究者が把握した、という二つのことを読者が受け入れるように、エスノグラフィック・テクスト(民族学的研究方法によるテクスト)は「信憑性」を通して読者に訴求する。信憑性を達成する戦略には次がある。

(a) 著者はその現場にいたのか?

・日常生活を詳細に記述する。

・研究者と組織メンバとの間の関係を描写する。

(b) 著者はその現場の経験に対して誠実(genuine)であったか?

・データの学術的追求とデータ分析を言葉で表す。

・個人的バイアスを緩和する。

 なお、ここでこの次元を記述する用語として、正確性ではなく、信憑性を選んでいる。正確性という言葉は現場メンバの世界について1個の定義的な説明を作り出すことを含意するためである。しかしながら、1個の定義的な説明、例えば、絶対的なあるいは普遍的な型の知識を得ることはできない。

2.もっともらさ

 研究で得られた知見が共通の関心問題に顕著な貢献をしているということを読者が受け入れよう、エスノグラフィック・テクストは「もっともらさ」を通して主張する。もっともらしさは次の戦略で達成される。

(a) これは私にとって意味がある(make sense to)のか?

・非正統的な方法論を正規化する。

・読者を募る。

・非定型的状況を正当化する。

・問題となる主張を滑らかにする。

・劇的な期待(anticipation)を作り出す。

(b) いくつかの独特なものを提供しているか?

・研究の知見を差別化する。

 「もっともらしさ」、説得することのこの第二の次元は、記述された世界と読み手の個人的な経験世界の二つの世界を結びつけるテクストの能力に関わる。信憑性の次元が研究者と現場との関係に焦点を合わせているのに対し、もっともらしさの次元は読者の共同体とテクストの内容との関係に焦点を当てる。この観点で、読者の能動的な役割に明確に光を当てる。テクストの内容と読者の知識や経験との間には距離を置かなければならないが、しかし読者がそのギャップを埋められる手だてもテクストは提供しなければならない。

3.批判的な見方 

 研究結果に内在する当然視した前提を再検分するよう読者自らを探らせようと、エスノグラフィック・テクストは「批判的な見方」を通して努力する。「批判的な見方」を達成する戦略には次がある。

(a) このテクストはその研究成果に内在する前提を再度調べるよう読者をし向けているか?

・熟考する余地を切り拓く。

・差異に気づかせ、差異を調べさせる。

・読者に新しい可能性を想像できるようにする。

 説得することの「批判的な見方」のこの次元で、筆者は現場メンバの世界の豊かで複雑な理解を伝えなければならないが、それと共にその分野における既存知識に追加し、普及している理論にある前提と組織研究の一連の考えに文化批評を加えなければならない。この次元は、伝統的思考に研究者を挑戦させ、組織現象が関知・研究される様式を再構成する立場にエスノグラフィック研究者を位置付ける。

 

 経験的(empirical)分析は、つまり説得の修辞的な側面と実質的な側面の両方に光を当てる経験的分析は、エスノグラフィック・テクストが、「信憑性」と「もっともらしさ」の両方を最低限達成する必要があることを示唆する。すなわち、エスノグラフィック・テクストは、現場状況の活気と独自性を伝えなければならない。しかも、共通の利益の研究分野に知見を提供する独特な貢献のための事例を作り出さなければならない。

 また、これら分析は、最も刺激的な課題とエスノグラフィーの有望な可能性が、現場メンバの世界を反映するためにためだけに密接地(richly-grounded)データを使用することではなく、読者に広く行き渡っている前提と信念の吟味を挑発するためにその密接地データを使用することがより重要であることを示唆する。

 

 エスノグラフィック研究は現場を豊かに描くだけでは十分ではない。よい物語は読者が読み終えても長く憶えているところのものだが、ジャーナル査読者を納得させる(convince)には査読者のかかわる理論的世界にその豊かな記述が結び付けられねばならない。

 エスノグラフィック研究者にとって、メンバの世界を反映するためだけではなく、より重要なのはその研究者の世界を内省するために、そのデータ使うことが挑戦的な仕事となる。この世界への貢献は理論や概念の合成や精緻化だけでなく、読者の仕事に横たわる蔓延った前提や信念を再度調べるよう読者を導くことでもある。このようにして、我々はエスノグラフィー研究者として、他者を理解し、自分自身を異なった風にそしてよりよく理解する人間研究者として自らを位置付け、また他者の生活と自らの生活をより理解する能力のある読者にもなる人間研究者として自らを位置付ける。