ミッ○ィー人形

 


 翡翠がぐしぐしと泣いている。

「何だ、翡翠、どーした?」

  翡翠の手にはUFOキャッチャーで取ってきたミッフ○ー人形が。

「この可愛らしいミッ○ィーさんのことでちょっと」

 何だか分からんが何も泣かんでも良いだろう。それにしても人形にまでさん付けか、流石翡翠。

「で、どうしたって?」

  ミッ○ィー人形に、親が捕まって手袋にされちゃったとか実はこの口は縫いつけられちゃってるとかいう悲しい設定はないはずだが。

「このバッテンの口でどうやって食事をするんでしょう」
「……何ですと?」
「やっぱりこの切取線に沿って放射状に開くんでしょうか? いえ、バッテンがいけないというのではありません。某サン○オキャラクターのように口がないよりも生物学上ずっと自然です!」

 そんな事言うたらミッ○ィーは鼻無いで。
 思わず突っ込みたくなるところをかろうじて堪える。
 いや、そうじゃなくて。そんな些末な問題じゃなくて。

「姉さんに聞いたら、『やだなー翡翠ちゃんったら。そんなの決まってるじゃない。寄生獣みたいに口のバッテンが顔まで裂けて獲物をバツンッと食いちぎるのよ』なんて言うんですよ!! この可愛いミッフ○ーさんになんてひどい……。違う、違いますよね志貴様!!」

 涙ながらに縋りつく翡翠。
 琥珀さん、アンタって人は。
 まいた種くらい自分で刈り取っててくれ。
 耐えきれずに鼻をかみ出した翡翠の肩に手を置き、非情な姉の仕打ちに涙する妹にいやいやながらアフターケアを試みる。

「翡翠、そんな事で泣くな。翡翠にはもっと他に考えなくちゃ行けないことがあるだろ?」
「そんな事だなんてひどいです志貴様! 私は真面目なんですよ!?」

 真面目だったらよけいまずいわ。こんな事を目に涙ためて聞かれた俺の立場はどーしてくれる。
 それに顔からハンカチを外すな。鼻が垂れる。

「……分かった翡翠、その点は良しとしよう。それよりもっと重要な点があることに気づかないか?」
「何でしょうか」
「寄生獣云々の話はさておき、翡翠と琥珀さんの間ではミッ○ィーさんは食事をすると言うことでは統一見解が取られているわけだな」
「もちろんです!」

 断言かオイ。

「……そうか。じゃ、翡翠が言うようにかわいらしくミッ○ィーさんが食事をとったとして、その後はどうなるんだ」
「えっ?」
「食べたものが出るのは当然のことだろ。で、ミッ○ィーさんはトイレに行くんだろう?」
「え、ええっ?」
「そこにバッテンは付いてるのか?」
「な、何を言って」

 狼狽える翡翠に向かって俺は非情に畳みかける。

 

「穴は付いてるのか? と聞いてるんだ」



「し、志貴様……」

 翡翠は俺の言葉にがたがたと震えている。俺は痛ましい眼差しを向けたまま翡翠の手の内にあったミッ○ィーさんを奪い取った!

「ああっ、志貴様、ひどい! 止めてください!」
「いいや見るんだ! その目でしっかりと現実を見ろ!」

 ミッ○ィーさんをつかんだ手を返して翡翠の眼前に差し向け、オレはぴこぴことしたしっぽをくわっと引っ張り上げた。

「いやーーっっ!!」

 翡翠が悲鳴を上げる。


 そこにバッテンは……無かった。
 翡翠はその場に崩れ落ちた。
 俺は内心ドキドキだった胸を撫で下ろした。
 良かった……。もし仮に付いてたりしようものなら恥ずかしさのあまり七つ夜でもって割腹だ。
 つーかそこまで付いていたらむしろ芸の細かさを誉めてやっても良いくらいだが、そんなミッ○ィーさんの需要があるかは疑わしい。

「志貴様の馬鹿ーっ!!」

 翡翠は玉のような涙をこぼしながら捨てぜりふを吐いて泣きダッシュ。
 追いすがろうとした手にはミッ○ィー人形。

「虚しい……こんな勝利が何だっていうんだ」

 掛け去る彼女の後ろ姿を俺は呆然と見送った。

 

 

 

fin 02.04.24


参考:メイドさん学科ログ(Thanks Mr.Inisanity)