私が緊急入院することになり、ふうちゃんは実家のじいじ・ばあばのところでしばらく預かってもらうことになりました。
これまで夜、ふうちゃんと離れたのは、ふうちゃんが心臓の検査や手術で入院していた時を除けば、私が流産の手術のために入院した一日だけ。その時は家でパパと過ごしたので、“ママがいない”こと以外、ふうちゃんの生活自体にはあまり変化がなかったわけです。
実家には毎週土曜日の音楽教室の後必ずと言って良いほど寄っているので、ふうちゃんは我が家と同様に馴染んでいます。「じいじ」のことは世界で一番好きだし(少なくともママより好きだろう・・・笑)、多分それほど大きな問題は起きないはず・・・。
それでも大好きな幼稚園はずっとお休みになってしまうし(実家から通うには遠すぎる距離です)、ママもパパもいないという状態をどうやって受け止めるのか、大変不安でした。
これまで事ある毎に「ママのお腹には赤ちゃんがいてね・・・」とか「ふうちゃんはもうすぐお姉ちゃんになるんだよ」とか繰り返し話しては来たし、絵カードでは「赤ちゃん」や「お姉ちゃん」を知ってはいるけれど、「ママは赤ちゃんを産むために病院に入院している」というような状況は現在のふうちゃんには理解できないでしょう。ふうちゃんにとっては理由もわからずに“ある日ママが突然消えて、じいじとばあばのお家に来た”ことになってしまうのです。
ただ、理解はできないとわかっていても、きちんと説明はしておきたいと思いました。ふうちゃんは“テレパシーでもあるんじゃないの?”と思うくらい私の心を読む時があります。私が誰かとお話しているのも本当に良く聞いています。行動からふうちゃんの能力を判断する限りそれほど難しい話は理解できるとは思えないけれど、もしかしたらわかっているのかもしれない、と思う場面は結構あるのです。そこでその夜、ふうちゃんと二人でソファに座ってお話しました。
「ママね、明日から病院に入院するの。ふうちゃんはじいじのお家に行くよ。しばらくじいじとばあばと待っててね。ママはふうちゃんの所に必ず戻ってくるよ。パパも毎週ふうちゃんに会いに行くって。ふうちゃんはね、もうすぐお姉ちゃんになるんだよ」
・・・もちろんリアクションが返ってくるわけではないのですが。

翌朝は、ふうちゃんを幼稚園に送ってその足で病院に向かわなくてはならなかったので、パパの運転する車で行くことにしました。車で幼稚園に行くのは、この時が初めてでした。幼稚園のカバンをかけているのに車・・・?とちょっと戸惑ったような表情を見せましたが、車には慣れているので自分の席にスッと乗り込みました。
幼稚園に着くと、ふうちゃんはサッサと上履きに履き替えて教室に行ってしまいました。
・・・子離れ出来てないのはワタシの方ぢゃん(ToT) 。
ふうちゃんのことが心配で心配で仕方ないけど、実はしっかりと状況に対応していけるのかもしれない。ふうちゃんの力を信じてあげなくちゃね。。。
翌朝病院から実家に電話を入れてみると、ふうちゃんは幼稚園に迎えに来たじいじと実家に戻り、普段と変わらない表情で遊びに熱中、夕食もたくさん食べ、ばあばの添い寝でスンナリ寝たとのこと。
上手く行っているのは嬉しいけど、あ〜あ、何だか面白くないぢゃん(笑)。

入院した3日後の日曜日は、通っている音楽教室の発表会でした。本番に強いふうちゃんは元気いっぱい、楽しみながら上手に踊ったり演奏したりしたようです。
その翌日の月曜日に「ことちゃん」出産になってしまったので、それからの一週間は正直言ってふうちゃんのことを心配する心の余裕はなくなってしまったのですが、夜、寝入りばなに「ママ」とベソをかくことはあっても昼間は結構淡々としていたようです。ま、もともとあまりベッタリしていない、クールな母子関係なもので。。。(苦笑)
長丁場になると予想していたのに、意外にも二週間で退院が決まりました。「ことちゃん」は未熟児なのでしばらくNICUに入院です。
退院となるとやはりふうちゃんをすぐに手元に呼び戻したくなりました。大好きな幼稚園をこれ以上(親の都合で)休ませたくなかったことと、「ことちゃん」が帰ってくる前にふうちゃんとパパとママ、3人での今まで通りの生活に一度戻す必要があると思ったからです。じいじのお家から戻ってきたらいきなり「ことちゃん」がいて、ママがその世話にかかりっきりになっている、という状況を作りたくなかったのです。
出産後しばらくは“障害児ホームヘルプサービス”という行政の制度を利用してふうちゃんの幼稚園の送迎を業者さんに依頼することは以前から決まっていました。早速手配すると、退院の翌日から来てくれることになりました(このホームヘルプサービスについては次のページに詳しく書きます)。
そこで退院の日の朝、じいじに実家から幼稚園に連れてきて貰い、午後私が幼稚園に迎えに行くことにしました。退院にはパパが半休を取って付き添ってくれたのですが、仕事の都合で午後は出勤しなければならなかったからです。ちょっと無謀でしたが、これから「ことちゃん」の面会に毎日病院まで通うのだから、お迎えだって大丈夫、と言い聞かせて。
入院中、毎週土曜日か日曜日にはパパがふうちゃんを面会に連れてきてくれていたので、ふうちゃんとは全然久しぶりではありませんでした。最後に会ったのは3日前で、特に甘えてくるでもなく、いつものようにクールな表情で持参したオモチャで遊んでいました。ですから幼稚園に私が迎えに行くのも、ふうちゃんはごく自然に受け止めるのだろうと思っていました。
ところが・・・。私を一目みるなりふうちゃんはいきなり口をヘの字に曲げ、目を真っ赤にしました。しばらくするとこらえきれなくなったのでしょう、涙をポロポロ。
えええっ、どおして〜(@_@)!
ふうちゃんは一見平静を装いながらも、内心はずっと不安だったのではないでしょうか。いつも一緒だったママが突然いなくなった。会うときはパパの車に乗って長時間移動して、見たことのない場所に行くし、ちょっと会ったらまた別れて帰らなくてはならない。じいじもばあばも大好きだけど、ママは一体どうしちゃったのかな・・・。もう今までみたいに一緒の生活は出来ないのかな・・・。
幼稚園に私が迎えに来ることは「いつもの空間」に「いつも通りの場面」が戻ってきたことを意味していて、それまで張りつめていた気持ちが一気に弛んだのかもしれません。
周りの状況がこれだけ変化したのに、ふうちゃんが極めてマイペースで冷静に行動していたから、大人たちはすっかり安心してしまっていたけれど、ふうちゃんは小さな心で色々感じていたんだね。
普通の子供と違って言葉がない分、不安な気持ちを心の中にしまい込んで我慢してしまったのでしょう。
会話は出来ないながらも自己主張のハッキリした子なので、こういう場面で感情を内に秘めてしまうとは夢にも思わなかったのですが・・・。

久しぶりに戻った家は案の定ひっくり返っていて(笑)、片づけていると、ふうちゃんがここ半年くらいずっと触っていなかったオモチャを次々引っ張り出しては遊んでいるのに気がつきました。
私だけじゃなく、ふうちゃんも2週間ずっとこの家に戻っていなかったんだ・・・。
懐かしいオモチャを一つずつ確認していたのでしょうか。実家でじいじやばあばにとても良くしてもらっていたし(ベタベタに甘やかされてもいたし)、不自由は感じていなかったのでしょうが、ふうちゃんにとってもきっとこの家は、どんなに散らかっていようが汚かろうが、安らげる場所なんだな、と思わせた出来事でした。

その日から何事もなかったようにまた親子3人の生活が再開しました。変わったのは、ふうちゃんの幼稚園の送迎を“障害児ホームヘルプサービス”の業者さんにお願いすることになったことと、ふうちゃんが幼稚園に行っている間に私が毎日「ことちゃん」に会いに大学病院のNICUに通うようになったことでしょうか。
送迎のヘルパーさんは優しそうな女性ばかりで、ふうちゃんは(最初は嫌がって泣いたりしたものの)割とすぐに慣れました。
ワガママな“じょおーさま”状態は相変わらずで(というか、実家に行って強化されてしまったかもしれない・・・)、ベタベタしないクールな母子関係も復活しましたが、一つだけ大きく変わったことがありました。それはものすごく私の顔色をうかがうようになったことです。
ふうちゃんが一人遊びしていて、私が「それはダメよ!」などとちょっと言おうものならその場で固まってしまうのです。上目づかいに私を見上げ、それまでしていた遊びを止めて動かなくなり、指をパチパチ弾きます(この指パッチンはストレスを感じた時に最近出る仕草です)。そんなに強い調子で言ったわけではなく、叱ったつもりもないのに。慌てた私が「怒ってないよ」というサインで笑いかけると、緊張が解けるのでしょうか、「ふえ〜」と泣き出してしまいます。
正直言って、大変困りました。入院前はもっと強い調子でものを言ったってヘラヘラしていたのに。こんな過剰反応をされて、毎回泣かれたのではふうちゃんに対して何も言えなくなってしまうぢゃん。
でも、もしかしたらふうちゃんは、「自分が悪い子だったから、ママはしばらくいなくなってしまった。また今度悪いことをしたらまたママがいなくなる」って思っているのかもしれない。
普通の子供のようにストレートに感情を表現しないけれど、ふうちゃんは不安になってたくさん傷つき、一人で色々考えたのでしょう。この2週間、私と離れて暮らしたことがトラウマになってしまったことは間違いないようです。
こんな状態で「ことちゃん」が帰ってきたら、ますますふうちゃんは不安が強くなってしまうんじゃないだろうか・・・。
なるべくスキンシップをするようにし、言葉でも「ふうちゃんのことを大事大事に思っているよ」とか「大好きだよ」などときちんと伝えるようにしたのですが、一朝一夕で解消できるものではないようです。
そうこうしているうちに一ヶ月が過ぎ、「ことちゃん」が退院する日がやってきました。退院はとても嬉しいことだったのですが、ふうちゃんの心理状態だけは不安なままその日を迎えたのでした。
|