♪ばなな組でのふうちゃん♪

 ばなな組、というのは2歳児クラスのことです。
 0歳児はさくらんぼ組、1歳児はいちご組、など全部フルーツの名前で統一されています。私自身が通っていた幼稚園のクラスは花の名前だったので、フルーツというのは結構違和感が・・・(ま、どーでもいいけどさ)。ちなみに先生がクラス全員に向かって何か言うときは「ばななさーん」です。
 ここでは入園から4ヶ月間を過ごしたばなな組でのふうちゃんの様子について書こうと思います。

 前のページにも書きましたが、ばなな組ではふうちゃんは主にS先生が担当してくださいました。
 このS先生は、園長の次に偉い“主任”さんで、保育士のベテランでした。送迎のちょっとした時間で見る限りでも、遊びの幅がとても豊かなのです。
 例えば、ある子がS先生のところに小さな葉っぱを見せに来ました。するとS先生は即座にその葉っぱを吹いて音を出しました。子供の目がキラキラしました。一般レベルの保育士さんなら「あー、可愛い葉っぱだねー」などとお話して終わりだと思うのです。S先生は子供の遊びに深く一歩踏み込んで、その遊びを一段階上のものに変えていく力を持った人でした。

 ふうちゃんも、最初の4ヶ月間、S先生についていただけたことは本当に大きかったと思います。
 入園当初、我が家はふうちゃんが放ったらかしにされてしまうことをちょっと心配しました。ふうちゃんは一人遊びが上手で、遊びに関しては「手のかからない」子なんです。私が忙しくて構ってやれなくても、平気でずっと一人で遊べてしまう。ただこだわりは強いので、大人が関わって遊びの幅を広げてあげないと、ひたすら同じ遊びを繰り返しているだけで発展しないのです。
 クラスの他のお友達とは既に遊びの質が全く違ってしまっています。クラスのお友達はお人形遊びやおままごとなどの“ごっこ遊び”に夢中ですし、保育士さんが介入しなくても、子供同士で遊べます(よくケンカもしてましたが)。
 ふうちゃんはまだ“ごっこ遊び”などとても出来ませんし、お友達との会話も成立しません。丸いものを回転させるのが大好き(以下、回転遊び)で、家でも放っておくと何時間でもやっています。ある朝、登園後すぐおままごとのお皿を持ってきてテーブルで回転させはじめた時にはイヤーな気持ちがしました。ま、まさか一日中お皿回しを一人でやっているのでは・・・。
 ところが、S先生はやはりふうちゃんの一人遊びの中に割って入って、さりげなく他の遊びにふうちゃんを導いてくれました。入園したばかりのふうちゃんにとって精神的に安定する遊びも必要。落ちついたところでさりげなく他の遊びに移らせると、ふうちゃんもスムーズに頭を切り替えられたようです。
 これには私もびっくりしました。家で回転遊びに熱中している時私がジャマをするとすごく怒るのです。ふうちゃん一人の世界にはママといえど寄せつけない、という感じなので、回転遊びはイヤダなぁ、と思いながら何も出来ずにいたのですが、S先生はふうちゃんの気持ちを推し量りながら、ふうちゃんの世界に上手に介入していくのです。
 ある時、ふうちゃんが園庭にチョークで殴り書きをしていました。ふうちゃんはお絵かき(といっても殴り書き)は好きなのですが、やはりあまりママの介入を好みません。ところがS先生は、隣で「ぞうさん」を歌いながらふうちゃんの大好きなゾウの絵を描きました。ふうちゃんはチラッと見ただけで無視。先生はめげずにもう一匹描きました。もう一匹、もう一匹、と描いていくうちに、いつの間にかふうちゃんはS先生の目の前に座り込んで、目をキラキラさせながら先生の右手をつかんで一緒にゾウを描いたのです。「13頭も描いちゃったわー」と先生は笑っていらっしゃいましたが・・・。
 私なら、きっと一頭描いて無視されたところで諦めてしまうでしょう。“無視”していても、実はとても惹かれている。S先生はふうちゃんの微妙な仕草からそれを読みとったのです。本当の“保育のプロ”とはS先生のような方のことを言うんだなぁ、と思ったのでした。

 4ヶ月間、S先生がほぼマンツーマンでふうちゃんと向き合ってくださったせいで、ふうちゃんはずいぶん変わりました。
 まず、家に戻ってきて遊んでいても、うるさいくらいママにつきまとうようになりました。一人遊びをしていても、しょっちゅう「ママ」と呼びに来ます。お風呂を掃除していて姿が見えない時などは家中探し回り、見つかると遊んでいるオモチャの所に引きずっていかれます。そばで見ていて、言葉をかけてほしいのです。
 これはものすごく大きな変化でした。それまではふうちゃんの世界にママが割って入ろうとすると「来ないで!」という感じでしたから・・・。夕方は忙しいので痛し痒しではあるのですが、他人と向き合おう、触れ合おう、という姿勢がきちんと出てきたことはとても嬉しいです。
 また、ものまねもたくさんするようになりました。といっても、多分よその方が見てもものまねだ、とわからないくらい不完全なのですが、本人にやる気が出てきたのは確かのようです。
 S先生は今まで障害児を扱った経験はなく、ふうちゃんが障害児だからといって特別な対応をしたわけでもないようです。。S先生を見ていると保育の基本は健常児でも障害児でも変わらないんだな、と感じます。障害児は自分で張っているバリヤーが高いし、学びとる力も健常児より弱いけれど、大人が上手に介入して手助けをしてやれば、すくすく伸びていくのだと・・・。S先生のようにうまくふうちゃんの力になれないハハは淋しいです・・・。

 S先生は3歳児クラスに上がった時、主任業務に専念するということでクラス担任を外れてしまいました。もちろん手が空いている自由遊びの時間は遊んで下さいますが・・・。ふうちゃんはやはり今でもS先生が大好きで、登園時にS先生が園庭にいると真っ先にS先生のところに駆けて行きます。もちろん今度の担任の先生も大好きなのですが、やはり4ヶ月間みっちり培ったS先生との信頼関係はなかなかゆるぎないもののようです。

 保育園に行きだしてから、ふうちゃんはやはり集団生活の刺激をフルに受けました。小さい頃から療育センターや音楽教室などで集団には入れていたのですが、やはり毎日同じ場所で同じお友達と生活する、というのはずいぶん違うものです。
 ばなな組の4ヶ月の間に、ふうちゃんはこんなことができるようになりました。

●食事の時間に、子供用の椅子にずっと座っていられるようになった
●言葉をかけたときの反応がとても早くなった(今までは何度も言わなければ動かなかったことが、一回言っただけでさっと動いてくれるようになった)
●走るのが上手になった
●生活のリズムが安定した
●自発的に色々なことをやってくれるようになった(今まで受動的な態度があまりにも強すぎた?)
●自分の好きなものはスプーンを自分で持って食べてくれるようになった(下手だが・・・)

 また、ふうちゃんは保育園の雰囲気には早く馴染みましたが、過敏なので、園庭や教室などでお友達がピューっと側を横切っていったり目の前で飛び蹴りしていたりするのがとても怖く、目をバチバチさせていました。そういう“視覚的”な刺激にも最近はずいぶん強くなったような気がしています。ま、ずーずーしくなった、といえばそれまでなんだけどさっ・・・。