Who's Next - Deluxe Edition
2003年3月、ようやく「フーズ・ネクスト デラックス・エディション」が発売された。昨年8月に「マイ・ジェネレーション デラックス・エディション」が発売になった後、「出る」と言われながら、発売が延期されていたものである。日本盤も、4月下旬になってようやく発売されたところで、本稿を執筆することにした。
本作は、2枚組CDとして発売されている。1枚目は、オリジナルの「フーズ・ネクスト」9曲に加え、ニューヨークのレコード・プラント・スタジオで録音された6曲が収録されている。2枚目は全て、ロンドンのヤング・ヴィック・シアターでのライブ録音(14曲)である。
Disc1
01. Baba O'riley
02. Bargain
03. Love Ain't For Keeping
04. My Wife
05. The Song Is Over
06. Getting In Tune
07. Going Mobile
08. Behind Blue Eyes
09. Won't Get Fooled Again
10. Baby Don't You Do It
11. Getting In Tune
12. Pure And Easy
13. Love Ain't For Keeping
14. Behind Blue Eyes
15. Won't Get Fooled Again
Disc2
01. Love Ain't For Keeping
02. Pure And Easy
03. Young Man Blues
04. Time Is Passing
05. Behind Blue Eyes
06. I Don't Even Know Myself
07. Too Much Of Anything
08. Getting In Tune
09. Bargain
10. Water
11. My Generation
12. Road Runner
13. Naked Eye
14. Won't Get Fooled Again
[1]オリジナルの9曲
曲の解説は既に書いたことでもあるから、ここでは省略する。クレジットによれば、「オリジナルのマスターテープをデジタル・リマスタリングした」となっており、「フーズ・ネクスト +7」が、リミックスとリマスターが同時になされているのに対し、こちらはリマスターのみということになる。
実際、注意して聴いてみると、両者には若干の差異が認められる。「+7」の方は、ベースのボリュームが大きくなっていたり、「マイ・ワイフ」におけるジョン・エントウィッスルのボーカルがダブル・トラックで録音されていることがはっきり分かるのに対し、本作の方はそれほどでもない。音質は「+7」の方が幾らかクリアだが、その分ハードさに欠けるような気がするが、本作は逆にディストーションの懸かり方が大きいような気がする。
とはいえ、「フーズ・ネクスト +7」においても、「トミー」や「四重人格」における極端なリミックスは施されていないから、普通に聴く分には大差ないと言ってもよかろう。
[2]レコード・プラント・セッションの6曲
これらは、オリジナル版「フーズ・ネクスト」の録音に先立って、ニューヨークで録音されたもので、アンディ・マクファーソンとジョン・アストリーがリミックスとリマスターを行っている。本作の発売が遅れたのは、この6曲のミックスに時間がかかったせいかもしれない。録音時期は1971年の3月16日から18日にかけてで、プロデューサーは従来同様にキット・ランバートとされている。
(1)どちらが良いか?
一聴して分かるのは、ロンドン録音との差である。レコード・プラント・セッションの方は、どれも「ラフな仕上がり」になっている。リハーサル感覚と言ってもいいだろう(特にロジャーのボーカルがそうだ)。恐らくはこの6曲全て「一発録り」だと思う。
だが、このCDを聴いて、「レコード・プラント・セッションの方をそのままレコード化するべきだった」と思ったら、それは誤りであろう。もしも当時の彼らが、レコード・プラント・セッションでの録音をレコード化しようと考えたら、本作で聴けるサウンドのままで発表されていたとは到底考えられない。恐らく、ピートはギターを、ジョンは管楽器をオーバーダブしたことであろう。つまり、本作で聴けるレコード・プラント・セッションのサウンドそのものが、当時レコードとして聴けた可能性は、限りなくゼロに近かったと思うのである。
また、レコード・プラント・セッションでの6曲に、マーヴィン・ゲイのカバー("Baby, Don't You Do It")が含まれていることも、筆者が「レコード・プラント・セッションをレコード化しないで良かった」と思う点の一つである。演奏の凄さは認める。だが、R&Bのカバーをスタジオ録音盤として発表することは、ザ・フーにとっては、1966年で終わっているのである。これが、「トミー」中の"Eyesight
To The Blind"のように、歌詞がストーリーにマッチしているのならば話は別だ。だが、"Baby, Don't You Do It"の歌詞は、当時ピート・タウンゼンドが作り出していた歌詞世界とは全く異質なものである。ライブで演奏するにはいいが、スタジオ録音アルバムに収録すべきではない曲だし、実際収録されなかったことは、正しい判断だったと思う。
(2)ゲストの参加は単なる偶然?
ザ・フーの作品の特徴として、スタジオ録音であれライブであれ、ゲスト・ミュージシャンが非常に少ないことが挙げられる。キース・ムーンが死去するまで、デビュー・シングル"I
Can't Explain"を別とすると、ニッキー・ホプキンスがピアノでしばしば参加した程度である("Mary Anne..."の別バージョンにアル・クーパー参加というのはある。また、キース死後でもゲスト参加は非常に少ない)。ストーンズが「レット・イット・ブリード」以降に、多くのゲスト・ミュージシャンを使ったり、キンクスがRCA時代にメンバー、準メンバーを参加させたりしたのとは好対照である。
では、ザ・フーは1度たりとも、ゲストと供にレコーディングしようとは考えなかったのだろうか。「ザ・フーは4人のケミストリーによる云々」 などという物言いは「後付け」だろう。恐らくこの時期に、ピートまたはキットは、ゲスト・ミュージシャンを使うというアイデアを持ったのではないか。ただし、結果としては、どうもしっくり来なかったのであろう。
では、レコード・プラント・セッションの6曲について各曲ごとに述べる。
M10は、上記の通りマーヴィン・ゲイのカバーである。「フーズ・ネクスト +7」には編集バージョンが収録されていた。マウンテンのレスリー・ウェストがギターで参加している。演奏自体は凄いが、レスリー・ウェストのギターが流麗過ぎて、ザ・フーらしくないような気がしないでもない。
M11は、ピートのギターの音色は、ロンドン録音バージョンに比較すると、実験的で面白い。コード・カッティングよりもシングル・ノートを多用しているのは、この時期のピートとしては珍しい(ライブを除く)。
一方、ロジャーのボーカルは、こなれていない。本人もリハーサル気分で唄っているのではないか。
M12は、「オッズ・アンド・ソッズ」に収録されたバージョンよりも先に出来たもので、こちらの方がテンポが速い。ギター・ソロが無いことや、エンディングのリフレインなど、ピートのソロ・バージョンに近いのはむしろこちらの方だと思う。どちらのバージョンが好きかという問いに対しては、「オッズ・アンド・ソッズの方」と答えたい。反論はあると思うが、こちらの方は、ロジャーのボーカルが何だか気負い過ぎのように聴こえるのである。
M13は、オッズ・アンド・ソッズ+12」に収録されているバージョンで、ピートがリード・ボーカルを取り、レスリー・ウェストがギターで参加している。ロンドン録音バージョンがフォーク・ロック調であったのに対し、こちらはハードであり、ライブに近い演奏である。
M14は、ロンドン録音バージョンよりもアコースティック・ギターの音色がクリアだし、全体的にも音質は良い。アル・クーパーのオルガンも申し分ない。だが、ロジャーのボーカルがこれまたリハーサル・レベルである。
M15は、クレジットによれば、シンセサイザーはテープではなくて生演奏だったそうだ。ピートのデモ録音に近い演奏である。ピートが珍しくピッキング・ハーモニクスを披露しているが、ミス・トーンも目立つ。
[3]ヤング・ヴィック・シアターでのライブ
(1)背景をさぐる
2枚目のディスクは、全てヤング・ヴィック・シアターでのライブ録音をリミックスしリマスターしたものである。日付は1971年4月26日となっていて、オリジナル「フーズ・ネクスト」の録音が始まる前のライブということになる。
本作に収録されたのは全部で14曲だが、そのうち、1969年以降に作られたものがM1〜M2、M4〜M10、M13〜M14の11曲もある。その他は、定番の「マイ・ジェネレーション」と「ヤングマン・ブルース」、そしてボ・ディドリーのカバーの3曲に過ぎない。実際のライブでどれだけの曲が披露されたのか窺い知れないけれども、彼らの従来のライブとは全く趣の異なるものであったことは確実だろう(いわゆる「ライフハウス」構想の一環である)。
というのも、上に挙げた3曲のうち、「マイ・ジェネレーション」と「ロード・ランナー」では、当時彼らが得意としていたインプロビーぜーションが全く織り込まれていないのだ。どうもこれは、定番曲を演奏しない彼らに対して、観客が不満を漏らしたので、仕方なく演奏したとしか考えられない。
しかし、今日の視点からすれば、観客の不満は当然だったであろうし、また、もしも自分がその場に居合わせたら、きっと同じような行動に出たであろう。
(2)ミックスについて
本作を聴くと、ベースが前面に出て、反対にドラムスはやや奥に引っ込んだミックスになっているような気がする。別に、昨年のジョンの死とは関係ないとは思うが、ボリューム・バランスには少々不満が残る。
もう1点、曲間のMCだが、次の曲の紹介をしているのに、前の曲の終わりにくっ付いているのは、非常に奇異な印象を受けた。何故こんなことをしたのだろうか?
(3)演奏自体
前年の「ライブ・アット・リーズ」や「ワイト島」と比較すると、整然とした印象を受ける。パワーダウンしたということではなく、
@縦ノリ主体だった前年のスタイルに横ノリが混じったこと、
Aピートがアルペジオ奏法を多用したこと、
が原因であろう。横ノリの要素はジョンのベースに顕著で、とかく速弾きベーシストというイメージを持たれがちなジョンであるが、こういった独特のグルーブ感を生み出すことの出来るベーシストであったことがここで証明されていると思う。
ところで、ギター・パートに関しては、どう考えても2本のギターがほぼ同時に使われているとしか思えない箇所が多々ある。しかも音色や癖からしてピートが弾いたことは間違いない。オーバー・ダブなのか、別トラックに録音したのか分からないが、一体いつ録音したのだろうか?
いずれにしても、フーズネクスト期の曲は、キースがまだ調子が良かった頃のライブ演奏として聴ける機会は、ブートを除くと殆ど無かったわけであり、こうしたCDの発売は大歓迎である。
では、各曲ごとに述べる。
M1は、ロジャーがボーカルを取っている。レコード・プラント・セッション時と同様にハードな演奏である。当然ピートのギターもディストーションが深く掛かっている。
M2へは、M1から間髪入れずに入っている。レコード・プラント・セッションの時よりもロジャーのボーカルが良くなっているように思える。逆に、インプロビゼーションに入ってからのピートのギターは、あまり出来が良くない。ただし、ジョンとキースのコンビがそれを補って余りある演奏を聞かせてくれている。
なお、ここでは、ピートのソロ・バージョンと同じく、歌詞が追加されている。
M3は、「ザ・キッズ・アー・オールライト」におけるロンドン・コベント・ガーデン・コロシアムからの映像、「リーズ」、「ワイト島」に次いで、公式盤として三度のお目見えである。この曲をライブ演奏している時のザ・フーは、そのノリにおいて、やはり凄いとしか言いようがない。
この演奏での聴きどころは、ジョンとキースの絡みだろう。
M4は、スタジオ盤(「オッズ・アンド・ソッズ+12」)を聴くと、ロジャーのボーカルには似合わない曲だと感じていたのだが、この演奏を聴く限りでは、そうでもないようだ。むしろ、ロジャーのボーカルは非常に良い。
ハーモニカを吹いているのはロジャーだと思うが、このハーモニカとギターの絡みが非常に良いし、またピートのバッキング・ボーカルも良い。
M5は、冒頭に初めてピートによるMCが入る。この曲、個人的にはあまりライブ向きではないような気がしているが、ここでも正直もう一歩という気がする。ピートのギターとキースのドラムのタイミングが微妙にズレているように感じられる。
M6は、ジョンのベースの凄さがよく分かる演奏である。
M7は、筆者としては、本来ライブには向かない曲だと思っていた。もちろん、この曲が無ければザ・フーのライブではないとまでは思わないが、非常に良い演奏である。2コーラス目における反則としか表現しようの無いキースのドラムは、彼ならではのものだ。ロジャーのボーカルが高音域で苦しいのが玉に瑕だが。
M8は、ライブ演奏なのでピアノが入っておらず、ピートのアルペジオ奏法がその代役を務めている。これはこれでまた面白い。先にも書いたとおり、ザ・フーというと縦ノリのイメージが強いが、ここでの演奏はむしろ「横揺れ」である。これは主としてジョンのベース奏法によるものだろう。ここでの成果が「ジョイン・トゥゲザー」に結びついたのか分からないが。
M9に入る直前にピートのMCが入っている。
"song called virgin. ... bargain"
と言っているようなのだが、なんだか中学生が好みそうなジョークである。
M9は、M8と同様に、ジョンのベースによって横揺れっぽくなっている。他の曲と比べ、キースのドラムが単調に思えるのだが。
M10は、「フーズ・ネクスト +7」に編集バージョンが収録されている。8分以上に及ぶ長い演奏だが、長さを感じさせず、テンポアップとテンポダウンによってテンションが絶妙に維持されている。
M11は、定番曲なので敢えて書きたいことはない。引き続いてM12に突入するのだが、これもまたあっさりと演奏が終わり、テンポダウンしてピートのアルペジオ奏法が始まり、M13へと引き継がれていく。
M13は、「フーズ・ネクスト +7」に編集バージョンが収録されている。キースのドラムが凄い。ちょっとジョン・ボーナムっぽい箇所もあるのはご愛嬌か。途中でロジャーが歌詞を忘れる場面がある。
M14は、シンセサイザーのパートはテープを使ったそうだが、これが奥に引っ込んだミックスになっているため、一寸迫力に欠ける。スタジオ盤では、シンセサイザーとギターが交互に前面に出ることにより、迫力が倍増されているので、惜しいところである。
2003-6-8 訂正
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