The Ultimate Collection
◆またベスト盤かよ、という人のために
"my Best Of The Who"にも書いたことであるが、これまでに発売されたザ・フーのベスト盤というのは、「UK版シングルA面曲集」に近いものであったと言ってよい。これは、甚だ残念なことである。何故なら、ザ・フーの多面性は、決してシングルA面曲だけで味わえるものではないからである。実際、シングルA面曲よりも素晴らしい曲だってあるくらいだ。
ところが今年の6月になり、米国のMCAから"Ultimate Collection"というタイトルを冠したアルバムが発売されたのである。これは、3枚組構成になっていて、うち2枚がベスト盤、3枚目がボーナス・ディスクになっている。確かにボリュームは大きいが、価格はそれほど高くはないので(タワレコでは税抜き3190円であり、邦楽CDと比べても高いとは思えない)、初心者にも薦められると思う。
クレジットによると、本作は、ミックスはオりジナルのままで、デジタル・リマスタリングを施したものである。担当したのはジョン・アストリーである。従来出回っているCDが「リミックス・リマスター」といって、ミックスから修正を加えているのに対し、本作ではミックスに手を加えていないのである。そういえば、「リミックス・リマスターCD」の制作には、クリス・チャールズワースが深く関与しているのだが、本作には氏のクレジットは見当たらない。元々、氏はオリジナル作品のミックスに相当不満があったようで(特に「トミー」)、つまりリマスターだけのCDでは出す価値がないと思っているフシがある。だから、本作に関与していないのも当然なのかもしれない。
しかし、それら「リミックス・リマスターCDシリーズ」に関しては、勿論歓迎できるリミックスに仕上がっている曲もあるが、逆に「いじり過ぎ」と思える曲もある。しかも、聞き手個々によってその感想はマチマチであろう。
よって、ミックスはオリジナルのままで、リマスタリングだけ施したCDが世に出るという価値は、充分にあるのである。
とはいえ、マスタリングのレベルが低くては話にならないのだが、本作はその点は心配無い。非常によく出来ていると思う。ボックスセットに比べても、こちらの方が質が上ではないかと思えるくらいだ。もちろん、機材の進歩などがあるから、後に出た方が勝って当然とも言えるのだが。
◆選曲とバージョン
従来のベスト盤と異なり、選曲という点では大幅な改善が見られる。これには、1枚に収めるという制約が撤廃されたことが関係しているのだが、同時に米国でシングルとして発売された曲を中心に選曲されたことが、良い方向に作用したと思う。もちろん、個人的には注文を付けたい点はあるのだが(適宜後述)。
同時に、本作で採用された、バージョンあるいはミックス(ステレオ/モノラルを含む)に関しては、どうも70年代に発表されたベスト盤"Meaty Beaty Big And Bouncy"を基準にしているように思える。それを言い出すと、選曲に関しても、"Meaty Beaty ... "を基準にしていると言えなくも無いが。恐らく編集スタッフが、"Meaty Beaty ..."を「ベスト・オブ・ベスト」と認識しているのではないか、と推測される。
◆各論
[1]ディスク1
1 I Can't Explain
2 Anyway, Anyhow, Anywhere
3 My Generation
4 Kids Are Alright, The
5 Legal Matter, A
6 Substitute
7 I'm A Boy
8 Boris The Spider
9 Happy Jack
10 Pictures Of Lily
11 I Can See For Miles
12 Call Me Lightning
13 Magic Bus, The
14 Pinball Wizard
15 I'm Free
16 See Me, Feel Me
17 Seeker, The
18 Summertime Blues - (live)
19 My Wife
20 Baba O'Riley
21 Bargain
M1〜M3は、英国でのシングルA面曲を発売順に並べている。妥当なところであろう。続くM4は、彼らの米国デビュー作"The
Who Sings My Generation"に収められた「ギターソロを大幅にカットしたバージョン」である点が残念である。次のM5だが、何故この曲が選ばれたのだろうか。"My
Generation"収録曲の中で特にM5が秀でているとも思えないのだが。しかし、"Meaty
Beaty..."やボックスセットにも収められたことからして、スタッフ受けが良いことは確かなのだろうが。
なお、M1、M2はモノラル、M3〜M5は擬似ステレオになっているようだ。
M6、M7、M9は英国のリアクション・レーベルから発表されたシングルA面曲。M6は擬似ステレオだが、M7、M9は完全ステレオのようだ。特に、M9のステレオ・ミックスは正規版CDでは初めてである。M7は、"My Generation --The Very Best Of The Who"とは異なり、イントロのコーラス・パートが復活している点が嬉しい。
M8は、英国での2ndアルバム"A Quick One"に収録された、ジョン・エントウィッスルの作品で、本作ではステレオ・ミックスが収められている。最近のライブでも演奏されているので、収録されたのも当然なのだろう。しかし、2ndアルバムからはいつもこの曲しかベスト盤に選ばれないというのも、納得し難い。"So Sad About Us"は是非とも入れて欲しいのだが。
M10は、英国のトラック・レーベル移籍第1弾シングルのA面曲。この曲の場合、ミックス違いがクレジット無しに平然と出回っているのだが、今回は、"The Very Best..."とは異なるバージョンの方が収録されている。個人的には、こちらのバージョンの方が好きだ。ただし、今回も擬似ステレオである。
M11〜M13もシングルとして発売された曲。ただし、M12は英国ではB面、米国ではA面に収録されていた。M12が選ばれたことは、個人的には納得し難いが、米国でのシングルA面曲という点が、大義名分(?)としてはあるのだろう。だが、M12を入れるくらいならば、やはり3rdアルバム"The
Who Sell Out "収録の"Tattoo"を入れて欲しかった。この曲はライブでも頻繁に演奏されたのだし。
なお、M11は音質の良さが特に目立つのだが、他の殆どの曲が英国で録音されているのに対し、この曲が米国で録音されていることが強く影響しているのだろうか。また、M13のミックスは従来のベスト盤のそれとは異なるようだ。
M14〜M16は、アルバム"Tommy"から選ばれた曲。米国ではいずれもシングルA面曲として発表されている(ただし"Tommy"では、M16は単独ではなく、"We're Not Gonna Take It"の後半として収録されている)。「当然」というべき選曲であろう。
M17はシングルとして発表された曲。"The Very Best..."にも収録されていた。恐らく、近年になって人気が出てきたものと推測される。
M18はアルバム"Live At Leeds"から選ばれた唯一の曲。できれば、"Young man Blues"も収録して欲しかったのだが。
M19〜M21はアルバム"Who's Next"から選ばれた曲。3曲ともシングル・カットされていないが、これは単なる偶然だろう。
[2]ディスク2
1 Behind Blue Eyes
2 Won't Get Fooled Again
3 Let's See Action
4 Pure And Easy
5 Join Together
6 Long Live Rock
7 Real Me, The
8 5:15
9 Love Reign O'er Me
10 Squeeze Box
11 Who Are You
12 Sister Disco
13 You Better You Bet
14 Eminence Front
M1、M2は、ディスク1の続きで、"Who's Next"から選ばれた曲。この2曲は、やはり続けて聞きたい。
M3〜M5は、本来は"Lifehouse"の一環となるはずだった曲。今回初めてM4がベスト盤に収められたことは、個人的には非常に嬉しい。なお、収録されたバージョンは、アルバム"Odds & Sods"に収められている方であり、"Who's Next +7"のボーナス・トラックの方ではない。結局、M4とM6が"Odds & Sods"から選ばれた曲ということになる。確かに、この2曲が選ばれて当然と思うが・・・
M7〜M9はアルバム"Quadrophenia"から選ばれた曲。米国ではいずれもシングルA面曲として発表されている。これも当然の選択かと思う。
M10はアルバム"The Who By Numbers"から選ばれた唯一の曲である。この曲が"... By Numbers"のベスト・トラックだとは思えないが、シングルA面曲になったことからすれば、妥当なのだろう。
M11、M12はアルバム"Who Are You"から選ばれた曲。もっとも、M11はシングル・バージョンである。"By Numbers"以降で、アルバムから複数曲が選ばれているのは、"Who Are You"だけであるが、このあたりはファンによって相当意見の相違があると思う。
M13はアルバム"Face Dances"から選ばれた曲。今でもライブで演奏されていることからしても、当然の選択であろう。
M14はアルバム"It's Hard"から選ばれた曲。ボックスセットでもこの曲が選ばれていた。ザ・フーというよりはピート・タウンゼンドのソロ作品という趣が非常に強い曲であるが。
[3]ディスク3
1 Substitute - (Rare U.S. Single Version)
2 I'm A Boy - (early version)
3 Happy Jack - (Acoustic Version)
4 Magic Bus - (U.K. Single Version)
M1は、米国向けに歌詞を変えて録音されたもの。人種問題に過剰反応した米国デッカの「差し金」であろう。ロジャーのボーカルがもう一つという印象がある。
M2は、"Meaty Beaty Big And Bouncy"に収録された別バージョンから、イントロを省いた形になっている。ボーカルにやや難があるが、ジョンのフレンチホルンなど聞きどころもある。
M3は、アコースティック・バージョンで、「初お目見え」とのクレジットがあるが、"A Quick One"のリミックス・リマスター版にボーナス・トラックとして収録されたものと殆ど差が無い。ミックスが若干異なるだけだと思う。
M4は、「UKシングル・バージョン」となっていて、今日簡単に入手できるベスト盤に収められているのは、こちらの方である。
◆終わりに
あれこれ注文を付けてはいるが、従来のベスト盤に比べれば、格段の改善だと思う。自分で編集するのが億劫な人にもうってつけである。