ザ・フーの1stアルバム「マイ・ジェネレーション」 は、プロデューサーのシェル・タルミーとの確執から、ずっとCD化されないでいたが、このほど(2002年)ようやくCD化された。しかも、 デジタル・リマスタリング、リアル・ステレオ、そして2枚組CDとしての発売である。 また、表ジャケットには当時(1965年)の英国盤ジャケットがそのまま使われている(内ジャケットには米国盤のジャケット写真も使われている)。
1枚めのCDには、英国盤の"My Generation"に加え、米国盤にのみ収録された"Circles"、そしてボーナス・トラックとして3曲が収められている。2枚目のCDは、全編がボーナス・トラックであり、当時発表されたなかった曲やバージョンそして、お馴染みのモノラル・バージョン2曲が収められている。
まずステレオ化であるが、クレジットによればシェル・タルミーが担当したとのことである。1960年代前半の未熟なステレオ技術ではなく、21世紀のステレオ技術が使われていることは、本作を聴けばすぐに分かるであろう。つまり、シェル・タルミーは今までミックス前の録音テープを所有していたのである。これも不思議なことだ。シェル・タルミーとザ・フーは1966年初頭には決裂していたのだし、商業面から考えても、ミックス後のテープだけ所有していれば充分だったはずだ(30年先の技術的進歩を予想していたなんていうのは、冗談としても話にならない)。シェル・タルミーのウェブサイトでは、ザ・フーに対する彼の愛着が語られていたりするが、案外正直な思いなのかもしれない(ナルシシズムという見方も可能ではあるが)。
次にデジタル・リマスタリングであるが、これはエリック・ラブソンというユニヴァーサル・グループ所属の人が担当したそうである。つい先日発表されたベスト盤"Ulitimate Collection"ではリマスタリングをジョン・アストリーが担当していたのに対し、本作ではザ・フーと直接関わりの無い人が担当したことになる。つまり、本作を発表するに当たり、シェル・タルミーが出した条件とは、「音に関わる部分は全てシェル・タルミーの意向に沿ったものとする」ということであったと推測される。それでも、こうして発表されたということは、ザ・フーのマネージャーや再発推進者のクリス・チャールズワースが妥協したのであろう。経緯はどうであれ、こうして発表されたことは何よりも喜ばしい。
さて、本作を聴いた人は、どのような感想を持つのであろうか。曲ごとにはミックスや音について不満を漏らす人も相当数いるであろう。かく申す筆者もそうである(後述)。しかし、既発のCD("The Who Sings My Generation"、"Who's Missing"、"Two's Missing")のひどい音質を我慢するしかなかったことを思えば、大歓迎であると強く主張しておきたい。
なお、本稿では主としてサウンド面について述べる。歌詞の解説はこちらを参照のこと。
◆マイ・ジェネレーション再考
本作、特にディスク1を聴いてみて改めて気付いたある。それは、 アルバム「マイ・ジェネレーション」は過渡期の作品である ということだ。従来、このアルバムに関しては、「ビートバンドとして云々「まさにマキシマムR&B」、「モッズ・バンドとして云々」といった風に語られてきた。しかし、本作をそういった言葉で一括りにするには無理があるのではないか、と思ったのである。
どういうことか説明しよう。ディスク1のM1〜M12がオリジナル英国盤の収録曲だが、レコーディングされた日付は、1965年4月と1965年10〜11月に2分されている。4月分はM1、M2、M8、M10であり、10〜11月分はM3〜M7、M9、M11、M12である。また、4月にレコーディングされた曲としては、ディスク1のM16、ディスク2のM1〜M7もそうである。
4月にレコーディングされた曲を聴くと、ディスク2のM1とM7を除くと、R&Bあるいはブルースの影響下にあるものばかりである。ディスク1のM1以外はカバー曲であるから、当然といえば当然かもしれないが。
一方、10〜11月にレコーディングされた曲を聴くと、こちらは全てオリジナルということもあるが、R&Bやブルースから積極的に脱却を図っているように思える。コード進行はR&Bやブルースと同様であっても、そこには大きな隔たりが感じられる。
結局、4月から10、11月の間にザ・フーというよりはピート(およびキット・ランバート)の中で変化があったのであろう。それは、ライブでの評判もそうだし、ビートルズやストーンズの音楽性の変化とは無縁ではないはずだ。それを一枚のアルバムに同居させたことに対しては、とやかく言うつもりはない。第一、当時アルバムはそれほど重視されていなかったのだし。
ところで、1965年4月にレコーディングされた曲のうち「BBCセッションズ」に収められたものは、ディスク2のM1とM7なのである。つまり、4月録音分のうちで比較的オリジナリティが強いと思われる曲だけが選ばれているのである。これは、先ほど書いたように「ライブでの評判」が関係していると考えていいのではないか(せっかくラジオで放送するのだから)。
個人的には10〜11月にレコーディングされた曲の方に魅力を感じるが、それは遅れてきたファンだからこその意見かもしれない。
なお、ライナーノーツには、4月にレコーディングした曲でアルバムを作製し発表することを取り止めた理由として、ジョン・エメリーの「オリジナルが少ない」という意見を参考にしたと書かれているが、どうも腑に落ちない。当時オリジナル作品を作れる若手ミュージシャンがどれだけいたというのだろうか。レノン=マッカートニーとレイ・デイヴィスくらいではなかったか。後世の目から見れば、キットの判断は正しかったことになるのだが・・・・
◆各曲解説はこの後↓
1. Out In The Street
2. I Don't Mind
3. The Good's Gone
4. La La La Lies
5. Much Too Much
6. My Generation
7. The Kids Are Alright
8. Please Please Please
9. It's Not True
10. I'm A Man
11. A Legal Matter
12. The Ox
13. Circles
14. I Can't Explain
15. Bald Headed Woman
16. Daddy Rolling Stone
1. Leaving Here [alternate version]
2. Lubie (Come Back Home)
3. Shout And Simmy
4. (Love Is Like A) Heat Wave
5. Motoring
6. Anytime You Want Me
7. Anyway, Anyhow, Anywhere [alternate version]
8. Instant Party Mixture
9. I Don't Mind [full length version]
10. The Good's Gone [full length version]
11. Me Generation [instrumental version]
12. Anytime You Want Me [a cappella version]
13. A Legal Matter [monaural version with guitar overdubs]
14. My Generation [monaural version with guitar overdubs]
Out In The Street
まるでコーラスというエフェクタを使ったかのようなピートのギターが印象的な曲。これが1965年録音だとは、正直言って驚きである。なお本作では、ヒスノイズのような音が聞こえるのだが、これは何なのだろうか?
I Don't Mind
ロジャーお気に入りの歌手であるジェームス・ブラウンの曲のカバーである。ピートのギターは、1964年あたりのキース・リチャーズのスタイルに似ているような気がする(例えば、「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」や「ハート・オブ・ストーン」)。
The Good's Gone
比較的スローテンポな曲で、ピートのイントロでのギターは、このバンドが既にブルースから脱却を図ろうとしていたことが表れている。ただし、ロジャーのボーカル・スタイルだけは、ブルースを追いかけているようだ。だが、ミスマッチというわけではないところが初期ザ・フーの不思議さでもある。
La La La lies
キースのドラミングといえば、ドラム・キット全てを使った荒々しいスタイルにばかりが注目されがちであるが、この曲のように、タムだけ(シンバルも後ろの方で響いているが)に終始したドラミングにも唸らされる。また、ニッキー・ホプキンスのピアノも素晴らしい。また、ロジャーのボーカルにもブルース色は見られず、「ポップス風」である。
Much too much
コーラスで幕を開けるというスタイルからして、ビーチ・ボーイズからの影響を感じさせる。だが、ここでもロジャーのボーカルはブルース風である。この曲での一番の聴きどころはニッキー・ホプキンスのピアノであろう。メロディを弾いているようで打楽器のようでもあるという個性的なスタイルである。
My Generation
あまりにも有名な曲である。もちろんThe Whoの代表曲の一つであることは疑いの余地が無いだろう。60年代のライブでは、好例の楽器破壊パフォーマンスによって締めくくられていたことが多い。もちろん、例外もある。
この曲ではなんといっても、ジョンのベース奏法が特筆される。普通ならギターのパートであるだろうが、それをベースで弾いているのだ。リード・ベースの走りと言える。ベース音が抜けてしまうと、なんとも閉まりの無いサウンドになってしまうものだが(ドアーズはベースレスだが、あれは例外中の例外ではないか)、ベース音はそれ程はっきり聞える代物ではないのが通常である。しかし、ここでのジョンのベースは目立ちに目立っている。
もしもジョンの指が細かったら、ロック界はどうなっていただろうか?
ボーカルが入っているパートでは、ピート、ジョン、キースによるアンサンブルは、「音の締め方」が素晴らしい。荒々しい音から急転して残響音もしくは無音に移るのである。このコントラストが縦ノリのグルーブ感を更に際だったものにしている。
後半はギター、ベース、ドラムによるインストである。ピートのギターはフィードバック奏法であるが、ハウリングをコントロールしている点はいまだに新鮮に響く。
だが、このバージョンでは、間奏部においてピートのギターが入っていないという問題がある。何だか間が抜けたような気がして残念だ。ライナーノーツによれば、件のギターはピートが後からオーバーダブしたそうで、ギター・パート単独のテープが見つからなかったらしい。
アルバム中、最もメロディアスな曲である。コーラスを含め、ビートルズやビーチ・ボーイズからの影響が窺えることからして、キースは相当気に入っていたのではないだろうか。タイトルもザ・フーの精神的基盤とみなされており、これも代表曲と言える。しかし、この前発売された"Ultimate
Collection"では間奏部がカットされていたり(元々カットされた方が米国では正規バージョン扱いだったからという点もあるが。しかし、ギター・ソロとドラムのバッキングが素晴らしいというのにカットするというのは何事か!)、ベスト盤に収められることも少なかったりして、不遇をかこっている曲でもある。
サウンド面ではピートの単音バッキングが秀逸である。これは対位法の一種なのか。筆者には分からないことだが。そういえば、ロジャーボーカルも本作中では比較的ソフトタッチである。
ところで、2ndヴァースの歌詞のごく一部が、既発表バージョンと異なっているのだが、これに関する説明は一切ない。
ちなみに、違っている部分は以下の通りである。
既発表: Bell chimes, I know I gotta get away.
いずれにしても意味は変わらないのだが。
今回 : Bell chimes, I know I got to get away.
Please, Please, Please
M2と同じくジェームス・ブラウンの曲。ロジャーのボーカルは熱が入っているが、少々空回り気味である。しかし、この点は評価の分かれるところであろう。「そういう若さが良い」という意見があってもいいと思う。また、ピートのギターが珍しくブルースっぽいのも特徴である。
It's not true
ロックンロールにビーチ・ボーイズの味付けを少々加えた曲と言えばいいのだろうか。イントロはアカペラのコーラスであり、M6とよく似たバッキング・リフが使われている。
I'm A Man
ボ・ディドリーのカバーである。ロジャーのボーカルは本作中一番にブルースっぽい。カバーとは言いながら、後半のピートのフィードバック・ギターは、彼のオリジナル以外の何者でもない。
A Legal Matter
本作中ピートがリード・ボーカルを取る唯一の曲である。M6に次いでベースが目立つアレンジ/ミックスになっている。フレーズのつなぎ方に一寸だけぎくしゃくしたものを感じるのは、筆者が保守的なのだろうか?
The Ox
インストゥルメンタル曲。ピート、ジョン、キースにピアノでニッキー・ホプキンスが加わっている。ホプキンスのピアノはちょっとロックンロール調であるが、全体としては暴力的なロックサウンドに仕上がっている。この当時ボーカル無しで聞き手を惹き付けるということが、同世代の他のロックバンドに出来ただろうか?
なお、今回のバージョンは、従来に比べて10秒くらい長く、エンディングまで収められている。
Circles
長いこと謎であったタイトルの件だが、"Circles"ということで決着するようだ。
今回のバージョンは、"The Who Sings My Generation"に収録された方(もう一つは"Who's Missing"、"Rareties"に収録)が使われているが、残念なことにジョンのフレンチホルンが入っていない。その理由はM6と同様だと思われる。
I Can't Explain
個人的に何十回、何百回と聞いた曲だが、ステレオ・バージョンを聴くと、また新たな発見がある。それは、キースのドラムである。リズムをしっかり刻みながら、その一方で自由にキットを叩いているのだ。まるで、ドラムをオーバー・ダブしたかのようである。
Bald Headed Woman
キンクスの1stアルバムにも収録された、シェル・タルミーの作品である。元々は、"I Can't explain"のB面曲である。メロディは古典ブルースからの借用だと言われている。今回初めてジミー・ペイジが正式にクレジットされた。
後のザ・フーの曲に比べれば物足りないのは明らかだが、躁状態のハーモニカなどは聴いていて楽しい。
Daddy Rolling Stone
元々はオーティス・ブラックウェルというブルースマンの作品で、第2弾シングル"Anyway, Anyhow, Anywhere"のB面曲として発表された。しかし、ファルセットのコーラスからしてブルース色は薄く、どちらかといえばモータウンあたりに類似性が見出せる。ライナーノーツによれば、オリジナルではなくデレク・マーティンのバージョンを参考にしているらしい。
Leaving Here [alternate version]
モータウンの作曲家チームである、ホーランド=ドジャー=ホーランドの作品で、ザ・フーのスタジオ録音としては幾つかのバージョンが存在する。例えば、「オッズ・アンド・ソッズ+12」にもそのうちの一つが収められている。このバージョンは、「フーズ・ミッシング」に収められたもののような気がするが、本当のところはどうなのだろうか。
それはともかく、ザ・フーが他人の曲をカバーしたもののうち、個人的に一番好きなのが、この曲である。その理由は、ザ・フーの魅力が最も出ていると感じるからで、それはキースのドラミング然り、ピートの変則的なリズム・ギター然りである。R&Bのカバーだとはとても思えない、まるでオリジナル作品のようなアレンジだ。他でも書いたことだが、R&BやR&Rからロックが独立したことを証明するような作品とも言える。ただ、惜しいことにこのバージョンでは、キースのドラミングが走りがちである。だが、逆に素晴らしいリズム・パターンもあるので、価値を否定する気には全くなれない。
Lubie (Come Back Home)
これもカバー作品で、「フーズ・ミッシング」で陽の目を見た曲の一つである。「リービング・ヒア」に比べると、オリジナリティという面ではレベルが低いような気がする。決して出来が悪いとかそういうことは無いのだが。
Shout And Simmy
ジェームス・ブラウンの作品で、ライブ映像ならば、「ザ・キッズ・アー・オールライト」(ビデオ版)で見ることが出来る。バスドラだけで流す箇所を聴くと、「キースは天才」としか言いようがない。
(Love Is Like A) Heat Wave
元々はモータウンの女性グループ、マーサ&ザ・ヴァンデラスが唄っていた曲で、ザ・フーとしては「ア・クイック・ワン」に収められたバージョンが知られている。それと比べると、こちらのバージョンはテンポがややゆったりめで、どこか牧歌的な印象を受けるし、オリジナルに近い雰囲気を出している。
Motoring
これもM2と同様に、カバーとして見た場合決して悪くはない。ただ、どうしてもM1やオリジナルと比べると、「まだまだ」と感じてしまう。
Anytime You Want Me
スローテンポのバラードだが、何と言ってもロジャーのボーカルに尽きる。一般にボーカリスト・ロジャーの評価が上がるのは、「ライブ・アット・リーズ」以降ではあるが、1965年においても、こんな素晴らしい歌唱を披露してくれていたのである。
コーラスワークを含めて考えると、初期ビートルズの影響が出ているように思える。
Anyway, Anyhow, Anywhere [alternate version]
CDケースの表記に間違いがあるが、この際それは置いておく。通常耳にするバージョンとはボーカル・パートが差し替えられたものだが、こちらの方が出来が悪いと思う。こちらのバージョンが、かつてフランスで発売されたのは、単なるテープの送付ミスではないか。
Instant Party Mixture
元々は、この曲こそ「インスタント・パーティ」として発表される予定であったらしい。シェル・タルミーが何を勘違いしたのか、「サークルズ」を「インスタント・パ−ティ」として発表してしまったようだ。かつて、ゴールド・ワックス誌に載ったキースの発言は、でまかせではなかったということである。ただし、曲の出来ばえとしては大したことはないと思う。
I Don't Mind [full length version]
The Good's Gone [full length version]
これら2曲はフル・レングス・バージョンとのこと。エンディングがフェイド・アウトしないバージョンである。
Me Generation [instrumental version]
ディスク1のM6のインストゥルメンタル・バージョンである。したがって、間奏部のギター・パートも存在しないのであろう。冒頭に話し声が入るが、恐らくレコーディング時の会話だと思われる。ボーカルの入ったバージョンと比べると、若干迫力に欠けるが、これはつまり、「ジ・オックス」とは異なり、初めからボーカルを乗せるつもりであったことの証左であろうだろう。
Anytime You Want Me [a cappella version]
M6のアカペラ・バージョンであるが、M6比べて、バック・コーラスのヴォリュームを上げたミックスになっている。
A Legal Matter [monaural version with guitar overdubs]
My Generation [monaural version with guitar overdubs]
2曲ともお馴染みのバージョンそのままである。つまり、単純に「デジタル・リマスター版」ということである。
2003-6-8 訂正