Soundtrack "Quadrophenia"

 

 ザ・フーのオリジナル作品である"Quadrophenia" は、1979年に映画化された。そのタイトルも"Quadrophenia"であるが、日本では「さらば青春の光」というタイトルで公開されている。今回取り上げるのは、映画のサントラ盤である。なお本項では、映画のストーリーなどについては、殆ど触れていない。

 オリジナルのサントラ盤は、アナログ2枚組として発売された。収録されたのは、 "Quadrophenia" から10曲、新録音が3曲、ハイ・ナンバーズとして発売された1曲(「ズート・スーツ」)、60年代初期のヒット曲8(内1曲はカバー)の計22曲であったが、デジタル・リマスターCD化された折に、ボーナストラックとして「アイム・ザ・フェイス」 が追加され、計23曲として発売された。

 まず、"Quadrophenia" からの10曲についてであるが、映画に使用されるにあたり、ジョン・エントウィッスルがリミックスを担当している。全体的に、派手なミキシングが施されており、ベース、ピアノ、シンセイサイザーなど後から追加されているパートがある。正直言って、このミキシングは、オーバー・プロデュース気味であり、独立したCDとして聴くと、つらいものがある。また、派手なミックスを施すことと引き換えに、キースのドラムの音が引っ込んでしまったことも残念である。これは長年オリジナルの"Quadrophenia"を聴き続けてきたからこその感想でもあるのだが。ただし、ジョンの名誉の為に述べておくが、映画の中で流れるぶんには全く問題無いと思う

 もう一点、ジョンを弁護することになるのだが、しばしば聞かれる意見として、「本作のリミックスは、ジョン好みに仕上がっている」というものがある。国内盤ライナーノーツにも同趣旨のことが書かれていたが、果たしてそうだろうか。仮にピートがリミックスを担当しても、本作と同様なミックスをしたような気がするのである(ベースをこれほど派手にはしなかっただろうが)。

 その根拠は、本作が制作された年代を考慮したことにある。本作は「フー・アーユー」と「フェイス・ダンセズ」の間に制作されているのだが、シンセサイザーの音作りなどは 「フー・アーユー」に良く似ているのだ。結論として、シンセサイザーのパートに関しては、ジョンだろうとピートだろうと、大体本作のようなミックスになったであろう、と筆者は推定しているのである。

 2番目に、本作の為に新録音された3曲についてであるが、これは各曲解説のところに述べる。一言だけ述べるとすれば、この3曲は、ミックスが派手ではない。

 3番目に、60年代のヒット曲(以下、オールディーズと記す)についてである。映画の中では、これ以外にも、ジョン・リー・フッカーの「ディンプルズ」が(カバーとして)使われていたりするのだが、その点についてはひとまず置いておく。モッズは50年代から60年代のR&Bを好んだとされているが、「悲しき雨音」もそうなのであろうか。これは少々以外なのだが。各自の好みがあるとは思うが、個人的に推薦するのは、M17、M18、M21、M22である。

 ところで、これらオールディーズ作品の歌詞を考えてみると、不思議なことが浮かび上がってくる。M20〜M22は、ガールズ・グループが唄っているのだが、全て、女性が男性に惚れる内容である。逆にM17とM19は男性が女性に振られてしまう内容であり、非常に未練タラタラになっている。M16は米国南部を列車で旅する内容であるが、これは故郷に帰る旅であり、母を求める息子の姿を、巧妙に隠して唄っていると言えなくも無い。

 つまり、積極的で未来しか考えていない女性と、過去にすがっている男性との対比である。本作で取り上げられたオールディーズ作品には、このような一貫性があるのである。

 となると、先ほど挙げた「ディンブルズ」が本作から外されている理由も分からなくは無い。この曲の歌詞は、「あの娘の歩き方が好きなんだ」、と男性が女性に惚れまくっている内容であり、上記のコンセプトには合わないのである。

 


01. I Am The Sea
02. The Real Me
03. I'm One
04. 5.15
05. Love Reign O'er Me
06. Bellboy
07. I've Had Enough
08. Helpless Dancer
09. Doctor Jimmy
10. Zoot Suit
11. Hi Heel Sneakers
12. Get Ou And Stay Out
13. Four Faces
14. Joker James
15. The Punk And The Godfather
16. Night Train
17. Louie Louie
18. Green Onions
19. Rhythm Of The Rain
20. He's So Fine
21. Be My Baby
22. Da Doo Ron Ron
23. I'm The Face
(Bonus Track)

 

 

01. I Am The Sea

02. The Real Me

 オリジナルCDとは曲間信号の入れ方が異なり、本作ではアカペラの"Can you see the real me..."の直前からM2となっている。ベースがオリジナルよりさらに大きな音になっている。

 

03. I'm One

 曲の初めから終わりまでピアノがフィーチャーされ、オリジナルより分厚い音になっているが、上述の通り、単独作品として聴くと、雰囲気を壊しているように思えてしまう。

 

04. 5.15

 この曲の場合、オリジナルも分厚い音であったので、本作でのりミックスにも違和感が無い。他の曲にも言えることだが、オリジナルにあった効果音(SE)は、本作では殆ど省かれている。

 

05. Love Reign O'er Me

 オリジナルでは最後の曲であったが、映画ではジミーが沈思黙考する場面を表現するためとしての役割を与えられている。だが、その割には音数が多く、フルート、ストリングス音、ブラスなどがオリジナルに追加されている。ストリングス音はシンセイサイザーで出しているのだが、「フー・アー・ユー」と良く似た音である。

 結局、楽器を追加し音を分厚くしたため、ボーカルが音の洪水に飲まれてアップアップしているように聞こえてしまう。

 

06. Bellboy

 ベース音がオリジナルより大きくなっている。 

 

07. I've Had Enough

 映画では、この曲は他の曲よりも大きな役割を与えられていると思う。「何もかも嫌になるジミー」、という場面は、オリジナルでは前半最後であったが、映画では最終場面直前になっている。

 M5と同様に、ミックスが派手であり、特にストリングス音において顕著である。

 

08. Helpless Dancer

 映画では、"You Stop Dancing"のたった1行しか出てこないのだが、ラストを飾るということで、M7と並んで重要な役割を与えられている。「君のダンスはお仕舞い」、すなわち今までの生活との決別を暗示しているのである。

 

09. Doctor Jimmy

 映画ではエンディング・テーマになっており、本編には使われていない。止むを得ないところだったと思う。

 

10. Zoot Suit

 アナログ盤ではここから2枚目に入るのであろうか。CD1枚組だと、M10と切れ間なく曲が始まるので、あまりの唐突さに面食らってしまう。曲間をもっと開けるなどの処置をして欲しかったところである。

 

11. Hi Heel Sneakers

 クロス・セクションというバンドによるカバー演奏。ごく普通のロックンロールである。

 それにしても、スニーカーはヒールの低い靴のはずだが、ハイヒールのスニーカーとは如何なるものなのだろうか。

 

12. Get Out And Stay Out

 リード・ボーカルをピートが担当しているせいかもしれないが、ピートのソロ色が強い曲調である。歌詞は、「出て行け、もう2度と戻ってくるな」を反復しているだけの、非常に単純であることから、場面間をつなぐ曲としての役割を持っているのだろう。 ドラムはケニー・ジョーンズらしいが、キットを使い分けて異なった音色を出すテクニックに関してならば、キース・ムーンより上手いと思う。

 

13. Four Faces

 ドラムはキース・ムーンのように聞こえる。恐らく、バック・トラックは1973年録音で、ボーカル・パートだけ1979年に録音されたと思う。根拠は、コーラス・ワークが「フェイス・ダンセズ」のそれと非常に似ているからである。なお、リード・ボーカルはピートが取っている。

 歌詞は、分裂した人格を抱えて悩むジミーが、友人(映画上だとステラ以外に該当しそうな者が見当たらない)にそのことを告白する内容になっている。可笑しいのは、人格が3つまでなら何とかやって行けるが、4つになると駄目だ、と言っている点で、何故だかさっぱり分からない。

 

14. Joker James

 これも、ドラムはキース・ムーンのようであり、M13と同様にボーカル・パートだけ1979年に録音されたと思う。メロディ・ラインからすると、最初に曲が書かれたのは、68年ごろのような気がする。なお、リード・ボーカルは冒頭がジョンで、後はロジャーが取っているようだ。

 歌詞は、ジェームス(ジミーはジェームスの愛称である)の所業を、彼の友人がからかい半分に唄う、という体裁を取っている。ジョーカーは異名だと思うが、この友人が「名前に追いついたね」、と言っていることからして、ジェームス自身が吹聴しているのではないか、と推測できる。

 さて、ジェームスの所業だが、ここでは恋愛のことが描かれている。サリー、リジー、アリスという3人の(恐らく)少女が順に登場する。ジェームスは彼女らとデートまではこぎつけるが、いたずらが災いして振られてしまうのである。だが、たびたび「ゲーム」という単語が登場することからして、この友人からみたジェームスは、振られても全く落ち込んだりしない性格のようである。 

 

15. The Punk And The Godfather

 いきなりドラムのフィル・インで始まるところと、ベースの音圧を上げているところがオリジナルと異なる。

 

16. Night Train

 ジェームス・ブラウンの曲だが、声が今と全く違って若々しい。しかし、ボーカルパートは少なめで、大半がインストゥルメンタルである。

 

17. Louie Louie

 ザ・キングスメンの曲。この曲のリフを聴けば、多くの人が「ユー・リアリー・ゴット・ミー」を思い出すことであろう。ただし、"You Really..."ほどの暴力性は感じられないが、キンクスに影響を与えたことだけは確かだと思う。その他にも、ギターソロはピート・タウンゼンドに影響を与えているようだし、ドラム・プレイを含め、ブリティッシュ・ビートに多大な影響を与えた演奏であることは間違い無いだろう。

 

18. Green Onions

 ブッカー・T・アンド・MGズによるインストゥルメンタル曲だが、曲名を知らなくても、どこか聞き覚えがある曲だと思う(断定は良くないが、敢えてそうさせてもらう)。オルガン、ベース、ドラムによって、非常に緊張感のある演奏がなされている。ブルース・ロックの先駆けとして評価してもいいのではないかと思う。

 

19 Rhythm Of The Rain

 カスケーズの大ヒット曲で、日本でも知らない人は少ないであろう。CMでも何回と無く使われたことだし。ロック・ファンにとっては、「甘ったるい」、と一蹴されそうだが、映画音楽とはどのようなものかを学ぶのに適した教材かもしれない。雷雨の効果音を、当時既に使用していた点に、今回驚かされた。

 ところで、キンクスの「レイニー・デイ・イン・ジューン」(「フェイス・トゥ・フェイス」に収録)の効果音は、この曲にヒントを得たのだろうか。

 

20. He's So Fine

 洗練されたアレンジだが、M21、M22のフィル・スペクター作品を聞いてしまうと、印象が薄い。

 

21. Be My Baby

 ロネッツの大ヒット曲。最近ではトラヴィスがカバーしているが、とにかく多くのカバー作品があると思う。フィル・スペクターが作曲からプロデュースまで絡んでいる。当時のモータウン・サウンドの例に漏れず、ドラムが強烈である。アレンジ面としては、マラカスが、曲のテンポに無関係に振られているようで、実は強弱だけをテンポに合わせている、という点に注目すべきであろう。リード・ボーカルが、一寸キンキンしていて聞きづらいのが難点だが、メロディ・ラインそのものは実に素晴らしい。

 

22. Da Doo Ron Ron

 これも、フィル・スペクター絡みの曲で、クリスタルズが唄ってヒットした曲である。まるでブリキの一斗缶を蹴飛ばしているかのようなドラム、そして音圧の強いベースが印象的である。

 ところで、ピンク・レディーがアメリカに進出したとき、この曲をカバーしていたのだが、レコード化されたのだろうか? 

 

23. I'm The Face

 デジタル・リマスター盤のボーナス・トラック。ボーナス・トラックが無造作に入れられてしまうことが多々あるが、これは違う。M22からの流れがスムーズである。ただし、歌詞を考えなければの話であるが。

                                                 (2001-4-29)

 

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