Live at Royal Albert Hall on 2000

 

 1999年から2000年にかけて、ザ・フーは何度目かのライブ・ツアー活動を行った。その模様は、例えば、"The Who the blues to the bush"というCDで聴くことが出来る(筆者はディスクユニオンで入手した)。今回のツアー演奏の特徴は、このところ大編成であったのに対して、5人だけの編成であったり、またそれに伴ってか、ピート・タウンゼンドがエレクトリック・ギターを弾きまくっていることであろう。難聴と言われるピートだけに、近頃はもっぱらアコースティック・ギターを弾いていたのだが、やはりロック・サウンドを出すときには、ピートにはエレクトリック・ギターを弾いてもらいたいものだ。

 そういった、最小人数の編成にしたことにより、バンドのサウンドは明らかに引き締まったものとなっている。これはザ・フーの特質とも言って過言ではないものであり、今回のツアーは、多くの人が認める通り、1982年や1989年のツアー以上の出来だったと思う(もちろん、殆ど見聞きしていないのだが)。なお、今回のバンド編成は以下の通りである。

ピート・タウンゼンド(エレクトリック・ギター、ボーカル)
ロジャー・ダルトリー(ボーカル、ハーモニカ、ギター)
ジョン・エントウィッスル(ベース、ボーカル)
ジョン・ラビット・バンドリック(キーボード)
ザック・スターキー(ドラム)

 そして、ツアーの最終は、2000年11月27日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われ、しかも日本ではWOWOWでその一部が放映されたのである。結論から言うと、「米国でのライブ(CD化されたもの)よりも素晴らしい出来であり、もちろん、1980年代以降では最も良い出来だ」と思った。

 しかし、何故今ごろになってこのようなライブが出来たのだろうか。それは、「ドラマーが当たり」であったからだと思う。キース・ムーン死後、ザ・フーはケニー・ジョーンズ、サイモン・フィリップスといったドラマーを採用してきた。もちろん、彼らは有能なドラマーであり、テクニックやタイム感という面ではキースよりも上だと思う。しかし、そういったタイム感の正確さがザ・フーの魅力を減じていたのも事実だと思う。何よりも、ザ・フーのサウンドはキースのスリリングなドラミングに負うところが大であったのだから。そういう面で、ザックの採用は大正解だったと思う。

 

 では、順を追って解説していくことにする。

 中継録画の幕開けは、"Pinball Wizard"だった。何故かピートはサングラスをかけている。あれは、老眼用なんだろうか、などと野暮なことをふと考えてしまうのだが、そんなことはどうでもいい。赤のストラトキャスターを抱えたピートが「あの16ビートのイントロ」を弾き始めると、観客の歓声が一段と大きくなった(いつものことだが)。その一方で、ロジャーはマイクを振り回す、振り回す。昔ほど大きく旋回させはしなかったが。ザックはというと、スティックの握り方が心なしかキースに似ている。やはり「弟子」だけのことはある。

 演奏が終わると、サングラスを外したピートのMCが入る。このライブはチャリティ目的なのだが、相変わらず皮肉屋である。

 次は"The Kids Are Alright"だった。ロジャーがアコースティック・ギターを弾いている。元々自作ギターから音楽活動を始めたロジャーなのだが、ギターを弾く姿を見るのは、筆者としては始めてである。リラックスしたボーカルスタイルである。50代の人がこの曲を唄うと、「君達はそのままで構わないんだよ」と若者を諭しているようにも聞える。

 そのまま、筆者の知らない曲に流れ込む。ある人によると、"Little Billy"と同時期に出来た曲だそうだ。それにしては、ピートがソロ活動を始めてから作ったような作風に聞こえるのだが。ピートとロジャーがリード・ボーカルを分け合っている。エンディングには、ピートがロジャーの方に目配せをしたりしていた。こんなこと、昔のザ・フーだったら絶対に有り得なかっただろう。それはともかくとして、ピートのギターの音色は明らかに70年代のそれとは異なっている。真空管アンプを使った太い轟音ではなくて、もう少し線の細い音色である。これは、ジョンのベースの音についても同様で、メタリックな音色であった。

 次は"Magic Bus"。ロジャーが観客にマイクを向けている。これも、昔は絶対やらなかったことである。ピートは、メンバーに対しても、観客に対しても非情だった。見せかけだけの連帯感を拒絶し、自主性を重んじていたと思う。だがピートは、そういった哲学的な面よりも、エンターテインメントを重視する姿勢に転じたのだと思う。個人的にはこういうパフォーマンスは好きではないが、まあよしとしよう。この曲での最大の聴きどころは、ロジャーのハーモニカ演奏だと思う。こんなにもハーモニカが吹ける人だったのだろうか。

 さて、観客の方を見ると、客層は結構若い。どう見ても20代としか思えない人が大勢いるようだ。男女比については分からないが。

 演奏が終わると、しばしのMCが入って、"Who Are You"の演奏となった。難しいリズム・パターンの曲だが、ザックは難なくこなしている。途中ピートは椅子に座って速弾きを披露した。ミストーンも若干あったが、ピートのギターのテクニックは70年代よりも遥かに向上している。もっとも、一体感のあるバンドサウンドがさらに素晴らしいのであるが。エンディングには、ピートのウィンドミル奏法も披露してくれて(8回転?)、嬉しいことこの上なし、であった。

 次は"Baba O'riley"だ。あのループ音のようなイントロは、ラビットが弾いていたのだろうか。それは分からないが、ロジャーのハイトーン・ボーカルが復活していたのには本当に驚いた。例のCDを聴く限り、ロジャーの出来はあまり良くなかったのだが。ゲストとしてナイジェル・ケネディがバイオリンを弾いている。荒っぽい弦の動かし方だが、出てくる音は繊細だ。その横ではジョンがタッピングを披露している。ベースでタッピングをやるのを見たのは始めてだ。メタルの人達はどうなのだろうか。

 この後は第二部であったらしい。ピートのアコースティック・ソロから始まった。曲はロニー・レインとの共作である"Heart To Hang On To"である。ザ・フー向けではなく、ソロ用として作ったことが明確な曲調である。アコースティック・ギター演奏については、言うまでも無いほど「上手い」そして、ボーカルにも説得力があった。

 ここからは主としてゲストとの共演コーナーとなった。まずはポール・ウェラーである。ピートと二人でアコースティック・ギターを弾きながら"So Sad About Us"(ザ・ジャムもカバーしている曲)をデュエットしていた。ピートは12弦ギターを弾いていたが、両者のストロークのタイミングが若干ずれるため、音の位相ずれが聴ける。しかし、それゆえに良く響くのだろう。それにしても、ポール・ウェラーのボーカルは、現代の黒人R&Bシンガーなどに比べると、ずっとソウルフルだと思う。

 次は、パール・ジャムのエディ・ヴェダーが登場して、ロジャー以外のメンバーと"I'm One"を演奏した。エディ・ヴェダーのボーカル・スタイルは、パール・ジャムの初期の頃("Jeremy"など)は、感情過多のため、個人的にはあまり好きになれなかったのだが、最新作でも聴かせてくれたように、感情を込めすぎないという歌唱法を会得したようだ。そして、このライブにおいても、ひときわ素晴らしいボーカルを聴かせてくれた。

 ここでまたザ・フーだけの演奏に戻り、"You Better You Bet"が演奏された。ピートのMCでは「79年のヒット」となっていたが、これは81年の間違いである。この辺から、ザックのドラミングが最高潮になって来たと思う。続いて、"5.15"が演奏されたのだが、ザックのドラミングは更に素晴らしくなっていた。ロジャーもハイトーンが良く出ていたし。しかし、この曲での最大の聴きどころは、ジョンによるベースソロである。これは数分間も続いたのだが、さすがは「世界最高のロック・ベーシスト」のことだけはある。しかも昔以上にテクニック面で向上している。演奏が終わると、ロジャーがジョンのことを「サンダー・フィンガー」と称していたが、「神の指」などと言わないところは「ロック」である(?)

 続いて、オアシスのノエル・ギャラガーがレス・ポールを抱えて登場し、"Won't Get Fooled Again"を一緒に演奏した。ブリッジではボーカルも取っていたが、元々声量のある人ではないだけに、あまり聞こえなかった。ギターの方は、音色そのものは良かったのだが、ミスをしないで演奏することを強く心がけたためか、ネックの方ばかり見ていたり、表情が一寸おどおどしていたりして、余裕が感じられない。ザ・フーが全体として余裕のある演奏を見せていただけに、ちょっとミスマッチな感があった。元々、年上のミュージシャンに対して礼儀を正すような気質の持ち主だけに、それがマイナスに作用したような気がする。

 ただし、バンド演奏全体としては申し分ない出来であった。特にザックのドラミングの締め方は、「これなんだよ」と強く思わせるものであった。やはりザ・フーは、音を垂れ流さないバンドだから良いのである。

 次はステレオフォニックスのケリー・ジョーンズが登場し、"Substitute"を一緒に演奏した。ケリーはギブソンSGを抱えていたが、これは彼がAC/DCの根っからのファンだという証なのだろう。前半は歌詞を間違えたりして、どうなることかと思ったが、後半のボーカルの出来は良かった。なお、どうでもいいことだが、ケリーはロジャーよりも身長が低いことに始めて気付いた(MCでもロジャーがそう言っていた。ロジャーは自身の身長のことがコンプレックスであったのだろうか)。

 これ以降はアンコールであったらしい。まずは、"My Generation"である。パワフルでグルービーなところは相変わらずだ。70年代のライブと同様に、2コーラス演奏した後はミディアム・テンポに落して、アドリブになるのだが、ロジャーのボーカルが非常に良かった。ただし、カメラ目線は止めて欲しかったが。

 最後は"See Me, Feel Me"であった。ロジャーのボーカルが特に良い。最後はエディ・ヴェダーとブライアン・アダムスが加わり、このチャリティのスタッフも加わって大合唱となった。ところで、スタッフは何故か全員女性であった。謎である。

 

 中継録画を見終わって感じたことは、演奏の出来の素晴らしさもさることながら、終始リラックスした雰囲気のライブだったということである。1970年代前半までの緊張感はそれほど感じられず、年月の隔たりを感じさせる。しかし、1980年代前半のような、ヘトヘトになり、義務感にかられて演奏しているという印象の強かったライブや、1989年のゲストが多く豪華ではあるが、どこか遠くの人になってしまったライブに比べたら、遥かに良かったと思う。TVで見ているのに、とても身近なバンドに思えたし(しばしば「リアルな」と表現される)、何より、年を取るということは何も悪いことではないし、新たな面を見せることも可能なんだ、ということをザ・フーは見事に見せてくれたと思う。 

 

 

(2001-2-24)

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