A Quick One

 2ndアルバム"A Quick One"は1966年12月にリアクションレーベルから発売された。当時1年ぶりのアルバムなんて、のんびり屋と思われそうだが、レーベル移籍にまつわるトラブルや、その訴訟の結果アルバム7枚分の印税の一部をシェル・タルミーに持って行かれるのが嫌だったという理由があったそうだ。
 アルバムは全10曲でモノラル仕様である。特徴が3点あるので、それを以下に記す。

(1)メンバー全員のオリジナル作が入っている
 これは後にも先にも本アルバムだけである。では、何故全員の曲を載せたのか。それは当時契約していた音楽出版者が、メンバー各々が2曲以上書いたら、相当額の前金を払うと約束したためで、金に困っていた(そりゃあ、あんなに楽器を壊したり、服に金をかけたりすれば、金もなくなりますよ)メンバーが飛びついたということらしい。しかし、ロジャーはこのアルバムに1曲しか提供していないのだが。

(2)ラスト曲の組曲展開
 ラストの"A Quick One While He's Away"は、9分を超える長い曲である。同年にはストーンズが11分にも及ぶ"Going Home"なる曲(アルバム"Aftermath"に収録)を発表しているが、これは単に曲を引き延ばしているだけである。それに対し、ザ・フーのこの曲は、6部構成の組曲という点で全く違う。これが後の "Tommy" で開花するのだが、当時は一部にしか評価されなかった可能性もある。この手法は、翌年にはビートルズが"A day In The Life"で使い、後のプログレでは常套となる。

(3)R&Bからの脱却
 一部に前作を踏襲した曲もあるが、全体としてはR&Bから脱却を図り、より白人ポップスに近づいている。それは当時の英国の自覚的なビートバンドにとっては、避けることの出来ない課題だったのではないか。
 同時に、レコーディングでは、色々なアイデアを試している。ただ、完成度という点では、後の作品に比べるとまだまだであろう。

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  1. Run Run Run
  2. Boris The Spider
  3. I Need You
  4. Whisky Man
  5. Heatwave
  6. Cobwebs And Strange
  7. Don't Look Away
  8. See My Way
  9. So Sad About Us
 10. A Quick One While He's Away
 

米国盤では、"Heatwave"の代わりに"Happy Jack"を収録。

Run Run Run

 前作を引き継いだ曲、つまりR&B色が濃い。ピートのギターが中心のアレンジであるが、バッキング、ソロともに良い出来だと思うし、シングル・カットしてもおかしくないと思う。
歌詞の大意は、「お前の現状は不運に見まわれているから、逃げ出せよ」なのだが、主人公は「俺が助けてやる。どこへ逃げようと付いて行く」とも言っている。何だか、不運から逃げ出そうとして、かえって変な男に出会ってしまった、という物語を想起させる。

 

Boris The Spider

 ジョンの初めての曲であり、このアルバムからは唯一ライブで後期まで生き残った曲である。本人によれば、もともとはスタジオで即興的に作ったとのこと。不気味な点はメロディも歌詞も同様である(ということはマッチしているということになる)。

 

I Need You

 キースの曲である。ボーカルもキースが担当していて、ファルセットで唄っている。ファルセットはビート・ボーイズからの影響だろう。また、ドラムの騒々しさは、アルバム中随一であり、キースのファンにとっては、非常に嬉しい曲だろう。
 歌詞の主題は、「僕に再び話しかけてくれ、君が必要なんだ」である。要するにラブソングの体裁をとっているのだが、その中に遊び心を入れている。例えば、@「シタール」という単語をわざわざ持ち出してきて、しかもバックでシタールの音色を模したギターを使ってみたり(あまり似ていないが)、A「音楽がラウドだと僕の耳が歪んでしまう」といった自己嘲笑的なフレーズを使っている。
 また、曲の途中でピートやジョンの台詞が出てくるが、何を言っているのか聞き取れないのが残念である。

 

Wisky Man

 ジョンの曲である。ウィスキー・マンは酒を飲んでいる時に現れる、もう一つの人格なのだが、本人はそうではなく実在するんだと言い張るところが、こっけいである。アルコール依存症による妄想を歌詞にしてしまうところはジョンらしいが、後にピートが作る"Dr. Jimmy"とは何らかの関係性があるのだろうか。
 この曲で初めてジョンはホルンを披露しているのだが、音色は象の声に似ている。

 

Cobwebs And Strange

 キースの曲でインストゥルメンタルである。キースは、少年の頃マーチング・バンドに在籍したことがあったそうで、それでこのような鼓笛隊のようなサウンドを思いついたのだろう。曲はマーチとドラムソロが繰り返して現れるが、マーチの方は次第にテンポアップして行く。喜劇映画のBGMに似合いそうな気がするが、やはりキースはコメディアン気質だったのだろう。

 

Don't Look Away

 ピートの曲で、リズムはカントリー調だが、メロディはポップス風である。ロジャーのボーカルはソフトに唄っている。ルーツ・ミュージックからの脱却を意図していることが窺えるが、まだ過渡期かなという気がする。コーラスを聞くと、やはりビーチ・ボーイズあるいはビートルズを思い浮かべてしまう。
 歌詞は、主人公が苦境に陥ったら、途端に彼女が主人公を見捨てるような態度に出たので、「見捨てないでくれよ」と頼む場面を歌にしたものである。苦境に陥ったことを「ライオンに食われそうだ」と表現するあたりはユーモラスである。

 

See My Way

 唯一のロジャーの曲。デモ段階のテープをいきなり本番に使われたという説があるが、キースのシンバルの音を聞くと、素直に頷けない面もある。
 歌詞は別れようとする女性に宛てたもので、結局は「またいつか会おう」と男の方には未練があるようである。

 

So Sad About Us

 アルバム中1番というだけでなく、The Whoの歴史中でもかなりの名曲だと思う。ピートのギター・リフ(バーズの"I Feel Like Whole Lot Better"と同様に、9th、sus4を使ったもの)もいいが、キースのドラムがやたらと派手であり、基本的にはポップスなのだろうが、非常にパワフルに仕上がっている。
 歌詞は恋愛の終わりを唄ったものなのだが、"us"という概念を用いたのは、これが初めてではないだろうか。お別れソングでは、どちらか一方が悪者にされることが多いが、この曲では「どちらかが悪いということではなく」という主張が込められているようだ。これまた、歌詞に前進が見られる。特に、
「君が太陽を消せないのと同じように/君は僕の愛を消せない」というフレーズは、賞賛すべきものだろう。しかも「消す」の意味で "switch off" という言いまわしを使っている点に唸らされるのだが、英国人はどう感じるだろうか。

 

A Quick One While He's Away

 冒頭に述べた通り、6曲をつないで一つにまとめた組曲である。その6曲とは "Her Man's Been Gone", "Crying Town", "We Have A Remedy", "Ivor The Engine Driver", "Soon Be Home", "You Are Forgiven."である(日本盤CDでは、"Soon Be Home"を独立した曲とみなさず、全体で5曲としている)。アイデアを出したのはキット・ランバートであるが、これは彼がクラシックの教育を受けていたことに由来するらしい。この曲はライブでも頻繁に演奏されていたようだから、彼等は演奏力に相当自信を持っていたと考えられる。

1. "Her Man's Been Gone"
 メンバー4人がアカペラで唄っている。「彼女の男は行ったきり1年間帰ってこない。昨日帰るはずだったのに。」ナレーション形式の歌詞と言える。

2. "Crying Town"
 ピートのアルペジオに乗せてロジャーの歌が始まり、
"Ooo"というコーラスで終わる曲。ロジャーの歌唱は前作に近い。このパートでは、語り手が主人公の女性を "you"と呼んでいる。また、主人公が少女であることが明かされるが、少女という設定自体はあまり重要ではないかもしれない。

3. "We Have A Remedy"
 「治療薬がありますよ」、と主人公に向かって、(具体的に名乗らない誰かが)勧誘する曲。一転ロジャーがソフトに唄っているが、誘い文句を表現する手段として中々考えていると思う。このパートでは更に、「あなたの寂しい時を紛らわすために、花や物を差し上げましょう」とか「彼に鷲の羽根をつけてあげよう。そうすればあなたの元に飛んで帰るだろう」と勧誘している。勧誘者は魔法使いか何かだろうか。

4. "Ivor The Engine Driver"
 機関士のアイヴァーが主人公の前に登場する。アイヴァーは年配らしい。アイヴァーは彼のことを良く知っていて、「あいつはきっと帰ってくる」と主人公をなだめようとする。そして主人公にアイヴァーの自宅に行こうと説得する。

5. "Soon Be Home"
 アイヴァーが「もうすぐウチだ」と少女に向かって唄う場面であある。

6. "You Are Forgiven"
 「チェロ、チェロ・・・」という擬音は、チェロを予算の都合で使えなかったために入れたらしい。何か笑えるエピソードである。ピートがボーカルを担当している。
 主人公が彼と再会する場面である。主人公は彼に向かって、「会えたなんて夢みたい」と喜びながら、すぐにアイヴァーとの浮気を告白する。しかし、反省するではなく、「あなたは許される」と続けるのである。ここら辺は理解しがたいものがある。浮気のことは黙っていそうなものだし、彼が約束通り帰ってこなかったことについて「あなたは許される」という言い回しも妙である。
"I would forgive you" あたりの表現が普通だろう。
 では、この台詞は主人公および彼以外の者が言っていることになるのだろうか。その可能性も高いような気がする。例えば、2曲目や3曲目に登場した者たちである。となると、この台詞での "you" は彼と主人公の二人ということになる。「あなたたちは許されます。」 要するにハッピーエンドということだろうか。そういえば、エンディングは短編劇の手法に共通するものがあるし(「チャン、チャン」という音で終わる)。