Wilberry "Never Had No One Ever"
Wilberryは、昨年メジャーデビューした日本のバンドである。私が初めて彼等の存在を知ったのは、昨年の夏頃である。CD屋で2枚目のミニ・アルバムがただ並べられていたのだ。なんだかよく分からないが、CD屋の店員が勧めているのだろう。その時はそのまま店を後にしたのだが、ある秋の日のこと、思い立ってそのCDを買ってみた。初めは何も感じなかった。しかし、何回か聞くうちに、「これはとんでもないバンドではないのか」と思い始めた。
そして、今年の2月満を持してというべきか、1stフルアルバムが発売された。発売日前に雑誌などを読んで期待していたので、発売日当日にアルバムを買って聴いてみた。確かに期待通りの出来である。今のところ、CD屋あるいは評論家によるプッシュくらいしかないのだが、プロモーションのやり方によっては、ブレークする可能性大のバンドだと思う。
このバンドを評してよく「無愛想」という言葉が使われるが、確かにそうである。例えばジャケット。新人ならばメンバーの顔写真を表に持って来そうなところを、水面に球体が落下した写真を使っている。メンバーの写真は中ジャケには使われているのだが、わざとはっきり写っていないカットを使っている。
それはおくとしても、ジャケットのコンセプト自体が完全に洋楽志向なのには少々驚く。前述の表ジャケット写真から曲タイトルの並べ方まで、完全に洋楽のそれである。それで良いのかなという気もしないではないが。
サウンドは80年代のUKロックやREM(*)に影響を受けていることは容易に分かる。ギターはネオサイケ色が強いようだが、ベースとドラムのコンビは明らかに90年代以降のグルーブ感を出している。勿論例外はあるのだが。従って明らかに単なる懐古主義バンドではないし、今のロックバンドなのである。そういえば、このアルバムではドラマーが全曲を作曲しているが、そんなバンドも珍しい。
さらに、80年代UKロックと一線を画すものとして、キーボードの存在が挙げられる。ロックにはタッチの強いキーボードがしばしば求められてきた(私が知るところでは、例えばニッキー・ホプキンス)が、このアルバムで聴けるキーボードのサウンドはむしろ柔らかである。別に女性だからというわけではなかろう。むしろ積極的に穏やかなタッチのサウンドを使っていると考えた方が良さそうだ。それによって繊細さや奥行きが出ているのだから。
また、このバンドの魅力にボーカルの特異性が挙げられる。REMのマイケル・スタイプに似たような声(これが基本らしい)から、ファルセット、太い声までを使い分け、バックのサウンドに負けないインパクトがある。
各楽器のアンサンブルあるいはボーカルとのマッチングなどは、とても新人とは思えないほど、よく練られている。逆にこういった完成度の高さが「無愛想だ」という評価を後押ししているのかもしれない。
歌詞は英語と日本語の両方を使っているのだが、リズムへの乗りがいいから1フレーズだけ英語を使うという傾向はあまりない。とはいえ、英語詞と日本語詞を比べてみると、やはり日本語詞の方が遥かにレベルが高いような感がある。日本語詞では、まさしく韻文としか思えないような言葉使いが頻出するし、作詞家(ボーカルが全曲担当)としてのレベルは相当高いようだ。であるならば、何故英語詞を使うのだろうか。このあたりはよく分からない。
では、各曲について見て行く。
M1 "Rocket Lunch"は、アルバムの構成を意識したような、軽快な曲。とはいえ、シングル向けではないような気がする。こういうのを新人がやること自体が驚きでもある。歌詞は英語。
M2 "Cellophane Dream"は、スロー〜ミディアム・テンポの曲。一瞬WINOのボーカルかと思うような声で唄っている。サビはやはり特徴的なあの声(マイケル・スタイプ似)になるのだが。アコースティック・ギターがずっと後ろで鳴っているのだが、これも新人バンドのアレンジではない。歌詞は詩的表現が多用されている。
M3
"Harvest"は、これもミディアム・テンポの曲。ベースのノリが非常に良いと感じさせる。ストリングス(本物の弦楽器では無さそうなのだが)のアレンジも良く出来ている。
蛇足だが、後半の"You're my star"というフレーズは、歌詞カードを見ないでいると、「山下〜」と言っているように聞えてしまうのだが。
M4 "Our Relationship"は、前半はアップテンポだが、後半でテンポが遅くなるという展開を見せる。このアップテンポ部にしても、妙なタメがあって中々面白い。全体的に攻撃的な曲だが、キーボードは柔らかい質感を持っている。また、ベースのノリは凄いなと感じさせる。
M5
"The Sun"
は、これもメジャー調の曲でスローテンポな曲である。 ピアノがメインの楽器を占めていると言っていいだろう。太いトーンの声はM2と同じ(サビメロでは、例の声になるが)。何と言っても、歌詞の言葉の区切りが一風変わっている。第一音節が半拍くらい早く出るのだ。
エンディングのコーラスにどことなくREMを髣髴させるものがある。それよりも驚きなのは、この曲を5曲目に持ってきたことにより、まるでアナログ・レコードのA面の終わりという印象を聴き手に持たせてしまうことだろう。
M6
"Below Normal"は、M5に関連して、「B面の始まり」という印象を与える、ミディアム・テンポでキャッチーな曲である。サビのベースラインは複雑とは思えないが、不思議なノリがある。キーボードも閃光をイメージするかのような音で、前の曲群とは異なっている。後半の方で、ドラムが単純な4ビートであるのにノリを出している箇所がある。
エンディングの少し前で、80年代のU2風ギターが聴ける。
M7
"(I Will) Unmask You"は、 アルバムの先行シングルにもなった曲。今までとはうって変わって、70年代初期のR&R調で始まる。キーボードはハモンド・オルガンに近い音色を出しているが、本当のところはどうなのだろうか。サビは何故か70年代後半のディスコ調になっているが、ストーンズを思い浮かべてしまった。ファルセットでのエンディングなども同様である。
歌詞もどことなくミック・ジャガーが書きそうな内容であるが、それはともかく、2番の歌詞を読んで、筆者は「これは小渕(前)首相批判なのではないか」と思ってしまった。
M8 "(Read) Between The Lines"は、 昔の歌謡曲風メロディを持った曲。正直言って、他の曲に比べてクエスチョンマークを付けたくなってしまったのだが。
M9 "Alright"は、ポップでアップテンポな曲で、シングル・カットしても良いかもしれない。ただし、英語詞である。途中でエレクトリック・ギターでアルペジオを弾いているのは、ジョニー・マーからの影響なのだろうか。でも、全体としてはREMがやりそうな曲にも思える。
M10 "In My Soul Of Souls"は、イントロでのストリングスがとても良い雰囲気を出しているためか、入りこみ易い。この曲は殆どでストリングスが使われているが、エンディングでのエレクトリック・ギターとの絡みは聞きものであろう。ところがドラムは変則的。この組み合わせもあまり普通ではない。
M11
"Here And Now"は、キーボード、ストリングスが穏やかな曲調を表現しており、アルバムの最後の曲であることを強く意識させる。逆にギターはサイケ色が強いのだが、これはアクセント役に回っているような感がある。
エンディングでは、シンバルがガンガン鳴っているが、キース・ムーンとの関連性はあるのだろうか?
(2000-4-5)
(*)個人的な意見であるが、REMはアメリカ南部(ジョージア州アセンズ)出身であるのに、英国風の匂いが強いような気がする。もちろんどこか牧歌的に思えるところもあって、生粋の英国バンドとも思えないのだが。そういえば、REMは米国よりも英国での人気が高い。