Urge Overkill "Saturation"

 

  1. Sister Havana
  2.Tequila Sundae
  3.Positive Bleeding
  4. Back On Me
  5. Woman 2 Woman
  6. Bottle Of Fur
  7. Crackbabies
  8. The Stalker
  9. Dropout
 10.Erica Kane
 11.Nite And Grey
 12. Heaven 90210

 

 1990年代前半の米国といえば、オルタナティブ・ロックの全盛期であった。そこに属すると目されたバンドの多くは轟音ギター・サウンドを特徴としていたのだが、それ以外にはあまり音楽的な共通性は見当たらない。強いてあげるならば、60年代や70年代のロックに共感していたことだろうか。彼等はパンクやそれに続くハードコアに影響されて音楽を始めてはいるが、その延長線上にただ乗っかった音楽をやっていたわけではない。元々、パンクとハードロックは根源は同一(好例はザ・キンクスやザ・フーだろう)でありながら、70年代後半以降全く別のものとして扱われてきた(AC/DCやモーターヘッドは例外だと思う)。それが90年代に入って両者を融合することが成し遂げられたのである。この90年代というのが重要であって、パンク台頭から、それ以前を気兼ねなく省みることが出来るようになるまで、それだけの年月を要したということだと思う。更には、80年代から90年代初頭の米国が、経済的にも最低の状態であったことも大きく作用しているだろう。

 ところで、当時はオルタナティブ・ロックという呼び方の他に、グランジ・ロックという呼び方も存在した。元々は身なりが汚い(グランジー)ということから付けられたようだが、そもそもは服装に無頓着な連中がロックをやっていただけなのだろうが、彼等が売れたことによって、汚い服装がファッションと化してしまった。これは、ポップ・カルチャーの視点に立てば、ある意味当然のことである。自己主張が自己完結することを許さないのがポップ・カルチャーなのだから。

 そういう時期にメジャーに浮上してきたアージ・オーヴァーキルというバンドは、スーツに身を包むなど、とにかく異質な存在であった。彼等は服装も大事な要素だと語り、プロモーション・ビデオでは米国産のオープンカーに乗るなど、およそ「オルタナティブ」とは関係なさそうなバンドにも見えたのである。

 しかし、そういうことを抜きにして本作を聴いてみると、アージ・オーバーキルは、一面でオルタナティブ・ロックの一派に属するように思えたのである。それは、ノイジーなギター・サウンドという面だけでなく、いわゆるメインストリームと呼ばれるロックが、過剰な感情表現の演出や過剰な音を特徴としていたのに対し、本作からは素の感覚が得られたからである(逆に、パール・ジャムのエディ・ヴェダーのボーカルは感情過多な気がして、個人的には初期の2枚は好きになれなかった)。ただし、一面はあくまでも一面であって、真ん中ではない。やはり異質な存在と見るべきなのだろう。

 それでは、何が異質だったのだろうか。第1には、70年代ソウルからの影響であろう。同時期の他のバンドからは、70年代のロックの匂いは感じられても、ソウルの要素はあまり感じられない。それは、音楽的な面でM12に顕著であるが、それだけでなく、外見にも影響を及ぼしているようだ。まず、彼等の服装はスタイリッシュであり、それは、エンターテインメント重視につながる。ニュー・ソウルのミュージシャン達は、確かに社会問題に言及した曲を作ったりしていたようだが、同時にエンターテインすることにも長けていたと思う。その点が、アージ・オーヴァーキルと他のオルタナティブ・ロック・バンドとの大きな違いである(そういえば、彼等がAC/DCのファンであることも、エンターテインメントを重要視していることを裏打ちしているのではないか)。とはいえ、やはり今は70年代ではない。彼等の服装はどこか「まがいもの」のように見えてしまう。それは、彼等が単なるバカなのではなく、ひねくれ精神の現れのような気がしてならない。この「ひねくれ精神」というのが、彼等の第2の特質だと思える。

 次に、歌詞について述べる。本作の歌詞は、自分自身かまたは彼女に関することを唄ったものが殆どであり、しかも、決して上手く行っていないことが大まかな特徴である。しかし、例えばニルヴァーナのような不信感や絶望感はあまり感じられないし、逆にポジティブに生きるという姿勢に貫かれているわけでもない。まるで、自分や彼女を見ているもう一人の「誰か」が書いたような歌詞なのである。透徹という言い方も可能だし、現実感が希薄と言ってもいいかもしれない。それは、60〜70年代のロックの歌詞、しかも今となってはチープとしか言いようのない言葉が散りばめられているという点にも現れている。しかし、文脈上からは、かつてのロックの歌詞に多かった「強がる男」、ある意味女性を自分より下のものとして扱う視点は殆ど感じられない。この点がややこしいのであり、これもまた彼等のひねくれ精神の現れと見ることも出来る。

 何だか主旨不明の文章になってしまったが、上記の文章は決して本作の歌詞をけなす目的で書いたのではない。そもそも現実感が乏しいというのは、極めて現代的感覚である。それに対して、全くのファンタジーを唄うか、無理してポジティブな歌詞にするという方向に行くことも出来たであろうし、そういう歌詞も多々書かれてきた。しかし、それこそが欺瞞であるように思える。、

  

 なお、アージ・オーヴァーキルのメンバーは以下の3人である。
   ナッシュ・ケイト(ボーカル、ギター)
   エディ・"キング"・ローザー(ベース、ボーカル)
   ブラッキー・オナシス(ドラムス)

 最後に、楽曲面について述べる。

 M1"Sister Havana"は、アップテンポでキャッチーな曲。シングル・カットもされているが、当然だろう。ボーカルは、最後にシャウトするのだが、全体としては抑え気味で、80年代のメインストリーム・ロックとは大きな隔たりを感じる。一方、ペンタトニック・スケールのギター・ソロが入るあたりは、60〜70年代のロックンロール直系という感じでもある。

 M2"Tequila Sundae"は、グランジ風のギター・リフが特徴的な曲。少しばかりサイケデリックでもある。初期のアージに近いようだ。ドラミングがタイトなのも良い。だが、そういったことよりも、この曲におけるコーラスの掛け合いが、アージ・オーヴァーキルの音楽的な特質なのではないか。当時のアメリカのロックは、あまりコーラスを重要視していなかったのだから。

 M3"Positive Bleeding"は、一聴するとオーソドックスなロックだが、一寸ひねくれたギター・サウンドが面白い。アコースティック・ギターを上手く使う点などは、ザ・フーからの影響だろうか。エンディングの逆回転テープのような音は何なのだろう。

 M4"Back On Me"は、ミッドテンポな心地よい曲で、アコースティック・ギターがメインに使われている。R.E.Mを連想したりもする。なお、ボーカルはエディが取っているようだ。

 M5"Woman 2 Woman"は、パンキッシュな縦ノリの曲。後のメロコアにつながっているような曲である。しかし、パンクというと叫ぶボーカルが多いのだが、彼等の場合はクールなスタイルを崩していない。

 M6"Bottle Of Fur"は、ブギー調の曲で、ストーンズやT.Rexを想像させる。クリーンなギター・サウンドは、彼等がオルタナティブ界の異端児であることを如実に表していると思う。

 M7"Crackbabies"は、オルゴールのような音色を持つキーボードが特徴的な曲。だと思っていたら、突然アップテンポなロックに変わったりする。一筋縄では行かない連中だ。

 M8"The Stalker"は、喩えて言えば、AC/DCがサイケをやるとこうなるのだろうか、という見本である。故意にボリュームを下げたようなボーカルは、アメリカのインディ・バンドっぽい。

 M9"Dropout"は、中近東やアフリカの音楽に近いリズム、サウンドを特徴とする曲。一方で、70年代前半のシンガー・ソング・ライターが書いたようなメロディである。この曲は一旦終わると見せかけて、再開し、M10へと突入する。

 M10"Erica Kane"は、アップテンポな曲。ギター・ソロはトリルを多用し、練習段階のメタル・バンド風である。70年代のソウルの影響も垣間見える。最後はラジオCMのようなSEがあって終わるのだが、まさかザ・フーの「セル・アウト」を真似してみたのではないだろう(有り得るかも)。

 M11"Nite And Grey"は、レニー・クラヴィッツの「自由への疾走」のようなリフを持った曲。ギターのアンサンブルは70年代末のストーンズに近い。

 M12"Heaven 90210"は、テンプテーションズからモロに影響されたストーンズのような曲。こういったソウル好きというのが、初めに書いたように、アージ・オーヴァーキルの特徴なのである。

 M13はシークレット・トラックである。1990年代前半は、ニルヴァーナが「ネヴァーマインド」で始めた(本当に初めてなのか確信はない)シークレット・トラックが流行したものだが、これもその1つであろう。曲はロカビリー、ブルースがごちゃ混ぜになったようなもので、即興で録音したものだと思える。ギター・フレーズは、ザ・フーの「マイ・ジェネレーション」に近い。

 

 

(2000-12-6)

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