シ ロップ16g 「My Song」
01. My Song
02. タクシー・ドライバー・ブラインドネス
03. 夢
04. イマジン
05. テイレベル
シロップ16g、というよりは五十嵐隆は多作
である。2001年秋から2003年の春までに4枚のフルアルバムを発表している。もちろん、若手であり、トップ10に入るほどの売れっ子
ではないという要素も絡んでいるし、4枚中1枚は、1stの「コピー」より以前に書かれた曲から構成されたものであったのだが、それにしてもハイペースで
ある。
だが、2003年春に"Hell
See"を発表後の彼らは、フルアルバムではなく、シングル「パープル・ムカデ」、そして本作(ミニアルバム)と、フォーマットを変えてCDを出してい
る。本作がシングルとして出されたのなら、プロモーションの点でアルバムよりも有利だと判断したのだとか、それなりの理由が考えられるのだが、そういう面
で最も得にならない、ミニアルバム
というフォーマットを選択した理由が分からない(このフォーマットでは、オリコンのチャートに載ることはないはず)。
本作は、上に書いたように5曲からなるミニアルバムである。"Hell See"にあった80年代英国ニュー・ウェーブからの影響は、M2に見えるくらいで、5曲がバラエティのあるアレンジになっている。
しかし、何と言っても本作の特徴は、タイトル曲でもあるM1と他の4曲が全く異な る印象を与えることであろう。M1は、これまでのシロップ16gの曲群からは程遠い作風である。詳細は後述するとして、充分トップ10ヒッ トを狙える仕上がりになっている。であるからこそ、ミニアルバムという選択が奇異に感じられるのである。
では他の4曲は、これまでの作風に近いのかというと、実はそうでもない。これまでの彼らの作品とい
うと、「社会不適応者の開き直り」がベースとなっていた感があるのだが、M4は、本質は不適応者であっても、社会に適応せざるを得ない人の、アンビバレン
トな感情が吐露されている。M5にしても、「若干クズだが/人間としてはまあザラ」であり、こ
れまでの「どうしようもない奴」ではない。
全体を見渡すと、本作には、五十嵐による、バンドの方向性を考えた時の迷いがストレートに
出たものと言えなくはないか。つまり、「やりたいことを全てやってみるしかないだろう」である。となると、次作において彼らは、過去の作風と決別するかも
しれない。
では、各曲ごとに述べる。
M1は、アコースティック・ギターをメインに
したスローテンポの穏やかな曲である。アコースティッ
ク主体のサウンドは、今までに見られなかったことだ(「パープルムカデ」はタイトル曲しか聞いたことがないので、不正確かもしれないが)。ドラムも、ハイ
ハットの音を含めて、非常にいい。
そして歌詞である。俗に言う「女言葉」で書かれているのだが、「どんな思いも/必ず私は胸に刻むから/遠ざ
かっても/必ずあなたに会える」なんて歌詞を
五十嵐が書いたことに驚きを禁じえない。言葉を取り出してみると、大したことは言っていないし、過去にも散々唄われてきたフレーズに過ぎな
いのだが、何故
か説得力があるのである。
ところで、「あなたを見ていたい」と「言葉はすぐに色褪せる」は、それぞれポリスの「見つめていたい」と「ドゥ・ドゥ・ドゥ・デ・ダ・ダ・ダ」からヒン
トを得たのだろうと考えてしまうのは、邪推だろうか。
ちなみに、この曲のPVは五十嵐がアコースティック・ギターを弾いているシーンと、ポケットに手を 突っ込んで立っているシーンとで構成されている。この辺のセンス、やはり天邪鬼である。普通なら、女性を登場させ、舞台は雪の降る夜に設定しないか?
M2は、タ
イトルはマニック・スト
リート・プリーチャーズの初期の曲である「享楽都市の孤独」の原題"Motorcycle
Emptiness"のもじりのような気がするが(五十嵐はマニックスのファンでもあったらしい)、サウンドは明らかに80年代英国ニュー・ウェーブ風である。もっとも、"Hell
See"にあったような、ポリスの確信犯的パクリとは異なるが。
歌詞は、読み手に一見、「無理して言葉をつなげているな」と思わせておいて、実は工夫されたものになっている。冒頭には、「ニュースは毎朝見る/ところ
で思うんだが/占いのコーナーってあれ 何?」という、笑えるフレーズを置いておいて、これが、「未来は無邪気に割り振られ/人は黙ってそれを待つ」とい
うフレーズに結びついているのである。
M3は、ヘビーなエレクトリック・ギターと、アコースティック・ギターを使ったマイナー調
の曲で、本作中最もシリアスな内容の歌詞を持っていると
言える。例えば、
「何てことはない/俺は夢を全て叶えてしまった」
という歌詞は、バブル崩壊後の日本人の代表的な気分とも言える。また、
「そんなに そうやって/自由なんか
欲しがる/悲しいくらいに/満たされたこの世界で」
といった歌詞は示唆に富んでいる。「満たされた世界には自由などありえない」というパラドクスがここでは唄われているように思える。もっとも、こういった
物言いは、非常に危険な方向に転化される恐れがあるのだが。
M4は、90年代
以降のギター・ロックといってしまえば、そうかもしれない。
歌詞は、まるで雑誌に出てくるような、ステレオタイプな将来像と、ロクで
もない現実生活とを対比させた内容になっている。ただし、ステレオタイプな将来像を、この主人公(サラリーマンらしい)が欲しているかといえば、そうでは
なく、むしろ嫌悪しているニュアンスがある。いや、嫌悪していることはしているのだが、それしか選択肢がないという諦めが、ここには描かれている。先に述
べたことの繰り返しであるが、「本質は不適応者であっても、社会に適応せざるを得ない者の感
情」である。
歌詞の最後は、
「空はこの上/天国はその上/そんなの信じないね/空は空の色のまんまで/人は人のまんまで/そのままで美しい」で締めくくられている。M1と同様に肯定
的なコミットメントである。天国、空、人は、社会階層のメタファーなのであろう。
M5は、フィードバック・ギ
ターから始まる、ドライブ感溢れたハードロック調の曲である。シロップ16gの場合、どうしても歌詞偏重で聴いてしまうのだが、この曲は歌詞世界にあまり
浸らなくとも、楽しめるアレンジになっている。なお、M4でもそうなのだが、ドラムにジャズの影響が垣間見える。
歌詞の舞台は高校である。何だか不真面目な内容で、斎藤君だとか速水と
いった個人名は、モデルがいるのだろうかとつい詮索もしたくなる。
(2004-1-12)