Muse "Showbiz"
ミューズはイギリスの3人組新人バンドである。今回紹介するのは彼等のデビューアルバム「ショービズ」である。このタイトルはM6のタイトルから採られている。ファルセット多用のボーカルと轟音ギターをメインに押し出し、かつメロディアスな作風だと言えるだろう。基本的には、ギター、ベース、ドラムによるアンサンブルなのだが、ピアノやシンセサイザーを隠し味に使ったアレンジは、楽曲の良さも含め非常に良い出来である。このアルバムを聴くと、ニルヴァーナ、レディオヘッド、マンサンといったバンドが思い浮かぶ。ニルヴァーナとは轟音ギターという共通項があるし、、レディオヘッドやマンサンとは、曲調の展開の多さ、ファルセット・ボーカルという共通項がある。特に、レディオヘッドやマンサンに酷似しているという非難があるのも、分からないではない。とはいえ、新人を捕まえて「誰それに似ているから駄目」という論調に、大した意味は無い。
しかし、ミューズは本当にレディオヘッドやマンサンの物真似に過ぎないのだろうか。いや、そこには微妙な相違点があると思えるのである。まず、レディオヘッドのトム・ヨークのボーカルには、どこか冷めた視点が見られる。また、マンサンのポール・ドレイパーのボーカルは、トム以上に冷めた視点が見られ、また憎悪や不信といった感情がにじみ出ている。一方、ミューズのマシュー・ベラミーからは、そのような感覚はさほど得られない。むしろ、濃密な関係に対する希求があるように感じさせる。これは、年齢にもよるのかもしれない。もっとも、このボーカル・スタイルを「過剰だ」と嫌がる人がいることも容易に想像できるのだが。
では、各曲について見ていくことにする。
M1 "Sun Burn" であるが、キーボード(ピアノ?)のソロによってイントロが始まる。西欧のクラシックを元にしているようなフレーズを聴いただけで、早くもその世界に入りこんでしまえるような印象がある。続いて変則的なドラムが入ってくる。普通なら拍が入るところで入らないのだが、しかしリズムは何故かキープされているという、ロック界では変わった奏法である。これは、明らかにドラムン・ベース後のドラム・ビートであろう。本人達がどれだけ自覚的であるか不明だが。
M2
"Muscle Museum"は、メロトロンとベースを基調とするアレンジで始まる。特に、ベースラインはどこかバロック音楽を思わせる。メロディはこれもクラシック調である。
この曲も途中で調子が変わり、轟音ギターが登場するのだが、どこかHR/HMにありそうなリフが聴ける。しかし、HR/HMのそれを聞いたときに感じた「あーまたこれか」という感覚には陥らせないところが上手い。
また、この曲でのドラムの音は非常にヌケが良い。どうも、このバンドはドラムの音そのものにかなり気を使っているようである。
M3 "Fillip" は、ペイブメントが60年代UKロック(ゾンビーズあたり)に出会ったかのような、不思議な感覚を想起させる。ボーカルは息遣いまでをもうまく使っている。
M4 "Falling Down"は、今までとは一転して静かな曲調であるが、これが前曲とコントラストを成していて、自然と気持ち良く聴ける。メロディやファルセット歌唱から、ゴスペルやソウルを西欧人が解釈した曲のように思える。
M5 "Cave" は、グランジ・ロックを少し軽めにしたようなアレンジである。これなどニルヴァーナからの影響を思わせるのに一番良い例なのだろう。
M6
"Showbiz"
は、M5から間を置かずに始まるが、そのイントロはドラムだけであるし、凝ったリズムを叩いているわけではない。しかし、不自然ではないし、次の展開へと期待を持たせてくれるから不思議である。
ボーカルは、押さえ気味の所や感情爆発の所があることは、これまでと同様だが、エフェクトを多めに掛けているせいか、より陰鬱に聞える。
この曲で最も興味深い点がある。ボーカルとギターとドラムがあたかも三重唱しているかのようなパートだろう。ここでは、リズムは疾走感があるのに、そこに乗っているボーカルとギターのテンポがゆったりしている。
M7 "Unintended" は、フォーク調、懐かしめのメロディが冒頭と終わりに聞ける。これはガットギターのアルペジオをバックに唄われている。今までの曲と全く異なった印象の曲だが、中盤は他の曲同様にファルセットをふんだんに使ったボーカルが聞ける。
M8
"UNO"
は、イントロにエンジン音のサンプルが使われている。
ベースとシンバルの音がメインのアレンジで、どこか昔の映画のサントラを思わせるような曲調である。
M9 "Sober" は、マンサンを思わせるようなメロディが主軸となってる。シンセギターがメインの楽器として使われているが、ライブ感のあるサウンドである。
M10 "Spiral Static" は、日本盤のボーナストラックである。しばしば見られる、アルバムの雰囲気を壊す曲ではなく、他の曲とも相性が良い。
M11 "Escape" は、フォーク調の曲で始まる。コーラスの入れ方を聞くと、PPMを思わせるような感触がある。ところが中盤では一転してニルヴァーナ風の激しい音に変わる。ドラムはまるで、ジョン・ボーナム得意のフィル・インのようでもあったりする。
M12 "Overdue" は、轟音と静かな音が繰り返される点では、他の曲と同様だが、2分22秒という、短い曲であるせいか、他に比べてドラマチックな展開には感じられない。
M13
"Hate This & I'll Love You"
は、秋の虫の鳴き声がイントロに使われているようだが、サンプリングしたとは思えない。シンセサイザーで鳴き声を真似ているのだろうか。
それは置くとして、アルバムの最後の曲というためか、淡々とした曲調である。エクトリック・ギターとシンバルのレガート(らしき)音のコンビネーションが良い。
(2000-3-31)