ママレイド・ラグ

 

01. 悲しみにさようなら  Say Good-bye To Sadness
02. 彼女のタペストリー  Tapestry For Her Own
03. カフェテラス  Cafe Terrace
04. 向こう側  The Other Side
05. 夜汽車  Night Train
06. ワトスン  Watson!
07. Her Life  
08. 春雨道中  Spring Rain Keeps FallinOn My Head
09. 感情 Sweet Emotion
10. 目抜き通り Main Street

 

 ママレイド・ラグは、今年(2002年)春にミニ・アルバム「春雨道中」でデビューした3ピースバンドであるが(その前に、「喫茶ロック」という企画ものに「春雨道中」で参加している)、バンド結成は1995年ということだから、デビューまでに7年が経過していることになる。

 なるほど、前述のミニアルバムや、今回取り上げる1stフルアルバム(セルフタイトルを冠している)を聴いても、とても新人とは思えないほどの緻密さが感じられる。

 CDの帯には「ロック」と書かれているが、しかし、一般に流布しているロックのイメージとは全く異なるのが、本作である。むしろ「ポップ」と言った方が誤解を招きにくいであろう。このCDには、「初期衝動」だの「圧倒的パワー」という類は存在しないからだ。

 だからといって、ロックファンが敬遠する必要はない。元来、ロックの根源的特徴には「多様性」があるからだ。例えば、「『ペット・サウンズ』などはロックではない」などと強情なことを言わない人であれば、全く問題はない。

 前置きが長くなったので、本論に戻そう。本作は、ボーカル兼ギター担当の田中紘邦が作詞作曲を全て担当している。一人で全曲を作るというのは、別に珍しいことではないし、特にデビュー期ではそういうことは往々にしてありがちなのだが、曲を聴く限りでは、そのポップ職人ぶりからして、今後とも田中一人がソングライターであり続けるような気がする。

 本作を聴いてまず感じるのは、やはり田中の作るメロディではないかと思う。売れ線のメロディから外れたフレーズが多々あるのだが、決して強引には感じられず、非常に聴きやすい。そして、そのメロディを際立たせているのが、他ならぬ田中自身の透明感のある「声」だとも言える。ただし、惜しむらくは高音に難があることで、草野マサムネあたりと比べると、「まだまだ」と感じてしまう面は否定できない。このあたり、ファルセットを上手く使いこなせるようになることが、課題といえるかもしれない。

 次に挙げたいのが、「アレンジやサウンドの絶妙さ」である。詳しくは各曲ごとの解説に譲るが、全ての楽器の鳴り方が、本当に素晴らしい。無茶な使い方や新しい使い方というのは皆無だが、ギター、ベース、ドラムといった基本楽器だけにとどまらず、ヴィブラホーンやハモンド・オルガンに始まって、トライアングルやカスタネットといった、今では殆ど省みられることのない類の楽器まで、配慮が行き届いている。そういった徹底さは、楽器の定位にまで及んでいるような気がする。

 そういったサウンド面での徹底振りを支えているのは、バンドメンバーの音楽的バックグラウンドのように思える。表面的には「ポップス」だが、その背後にあるものは、ボサノヴァであったり、ジャズであったり、ブルースであるようだ。決して彼らが、はっぴいえんどを21世紀によみがえらせるだとか、そういう目的で音楽をやっているのではないことは、本作でより一層明確になったと思う。もっとも、「ポップスはあらゆる音楽から抽出されたものによって作られねばならない」という命題(?)もあることはあるのだが。

 では、歌詞はどうだろうか。こちらも全て田中が担当しているのだが、映像描写的な表現が多いのが特徴のように思える。ファインダーを通して見える光景とでも言えばいいだろうか。よって、メッセージ性は希薄である。直接的な表現も少なく、周到に言葉を選んでいる感がある。また、いずれの曲においても、「別れ」、「旅立ち」や「君との心理的・物理的距離感」がモチーフになっているように思える。

 ただし、「旅立ち」といっても、本作に登場する主人公は、「田舎での因習に嫌気の差した若者」ではない。都会に独りで暮らし、金銭的にもそれほど貧しくなく、もはや「若者」とは呼べない年齢に差し掛かった者(作者の田中よりは数年年長?)という印象がある。紅茶、コーヒー、カフェといった喫茶関連の単語が頻出するなど(なんとM1〜M4、M8、と5曲にも渡る)、TVドラマ的な軽薄な印象を聴き手(の一部)に与えてしまいそうなきらいはあるが、それほどおめでたい歌詞ではないと思う。

 

 それでは曲別解説に移る。

 M1 は、ラテン音楽風のパーカッションにアコースティック感覚のポップスを乗せたものである。隠し味としてのキーボードが良い。蛇足ながら、「安全地帯」のヒット曲とは無関係である。

 M2 は、ボサノヴァを基にした曲である。トライアングルとヴィブラホーン上手く使われていると思う。

 M3 は、ポップなボーカル・メロディのバックで変則的なドラムが鳴っている点が面白い。ストリングスやクラリネットが後から登場してくるが、これらも上手く使われている。

 M4 は、ギター、ベース、ドラムのサウンド・プロダクションが実に緻密である。ベースやドラムは、決して目立つアレンジにはなっていないのに、存在感がある(変な表現だが)。また、カスタネットの使い方も絶妙である。

 なお、「夢が記憶に変わるだけ」という歌詞はM8で再登場するのだが、田中の好きな言葉なのだろうか。

 M5 は、シングルカットされた曲でもある。左右のチャンネルをいっぱいに使ったギター・サウンドが良い。シンバルのグシャッとした音は、ハードコア系ならともかく、彼らのようなバンドが使うのは珍しいと思うが、これがまた良い。一方ギター・ソロは、「まあ普通でしょう。」

 M6 は、個人的にはスティーヴィー・ワンダーの「愛するデューク」を思い浮かべてしまったのだが、まあそういう類の曲である。ドラムは本作中一番の良さだと思う。また、ブラス楽器とベースの絡みも素晴らしい。

 本作中では異色とも思えるのだが、決して居心地が悪い存在ではない。歌詞も他の曲と比べると少し違うように思える。

 ところで、タイトルの「ワトスン」って何なのだろうか。歌詞との関連性が全くなさそうなのだが。だって、ホームズが口先だけの奴の代名詞ということは全く無いんだし。

 M7 は、ボサノヴァ風のイントロで始まるインストゥルメンタル曲。ギターの一音一音、シンセサイザーの一音一音がきめ細やかである。

 M8 は、本作のハイライト曲と断言していいだろう。短いベースによるイントロに続いて入ってくるボーカルが素晴らしい。他にも、ノイジーで歪んでいるのに納まりの良いギター・サウンド、ボトルネック奏法によるギター・ソロ、ジャズ風のドラミングなどなど、素晴らしいアレンジが満載である。

 M9 は、田中のボーカルとアコースティック・ギターのみからなるアレンジになっている。ボーカルとギターの定位が分離されているので、あまり弾き語りという印象は強くない。

 M10 は、初シングルとして発表された曲(M8はミニアルバム扱い)。その割には、アルバムのラストを飾る曲という雰囲気がある。他の曲に比べて音が分厚い。エンディング間近で突然アコースティック・ギターだけになってしまうのは唐突だ。初めて聴いたときには違和感があったが、今ではそうでもない。

 歌詞も、他の曲が修復不可能な関係を唄っていることが多いのに対し、「君を待ち続ける僕」がテーマになっている点が異なる。

 

 

(2002-10-13)

 

 

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