Giddy Motors "Make It Pop"

 

01. Magmanic
02. Hit Cap
03. Bottle Opener
04. Cranium Crux
05. Sassy
06. Dog Hands
07. Venus Medallist
08. Whirled By Curses

 

 ギディ・モーターズは、南ロンドン出身の3ピース・バンドである。英国のファット・キャット・レーベルから発売された本作「メイク・イッ ト・ポップ」がデビュー作になる。内ジャケットの表記によれば、プロデュースはメンバーのうちの二人(ゲイブリック・デ・ヴィスとマヌ・ロス)が担当し、 レコーディングとミックスは、USパンク/ハードコアのファンなら恐らく殆どの人が知っているスティーブ・アルビニが担当したそうである。

 本作を一言で表せば、「USパンク/ハードコ アとジャズとの融合」ということになろう。日本盤の帯には、「カオス、エネルギー、アグレッシブという言葉がぴったりな」と書かれ ているが、これは恐らく、USパンク/ハードコアのファンに本作を買わせるための「仕掛け」である。確かに、そういった形容は、間違いではないが、本作の 魅力の全てを語っているとは言えない(念のためだが、モダンジャズはかなりアグレッシブな音楽であると思っている)。それだけでなく、USパンク/ハード コアをあまり好まない人からすれば、本作な
ど試聴してみる気にさえならなくする恐れもある。だとしたら、実にもったいないことである。

 昔から英国のロック・ミュージシャン達は、複数のジャンルにまたがった音楽をミックスすることを好 む傾向にある(その理由は幾つかあるのだが、ここでは無視する)。個人的には、この「ミクスチャー感覚」こそがロックの最大の魅力と考えているのだが、本 作も、単にシェラック(=スティーブ・アルビニ率いるバンド)などのハードコアを模倣しただけではない、ジャンル交配の魅力が醸し出されている。所々にアルビニの好みに反するようなサウンドが出てくる点にも注目すべきだろう。また、 かつてのアルビニ関係作品では、機材のせいなのか、あまり音質が良くなかったが、本作の音質はかなり良くなっている。とはいえ、低域をカットし、中低域中 心にまとめたサウンドというのは、昔とあまり変わりがないようだが。

 こういう作品に関しては、全体を語るよりも曲ごとに述べた方がやり易いので、早速各曲ごとの解説を 述べる。

 M1 は、シェラックを髣髴させる雰囲気の曲である。ステレオ感を狭くしたミックス、サスティンがあまり掛かっていないギ ター・サウンドなどは、アルビニが関わる作品に特徴的である。こういう曲を、アルバムの先頭に持ってきたのは正解である。更に、中間に静寂なパートを挟む ことにより、彼らが型に嵌ったハードコア・バンドではないことが宣言されている。

 M2 は、USパンクにモダン・ジャズ的なサックス奏法を取り込んだ曲である。ドラムは小刻みにせわしない叩き方 で、サックスの相性が非常に良いと思う。

 開始後2分30秒あたりから、たび重なるテンポチェンジを繰り返し、ジャズからラテン風の曲へと 移っていく。本作中最も魅力的な曲構成になっていると思う。

 ところで、ボーカルについてだが、他の曲でもそうだが、メロディを歌ってはいない。歌詞もネイティ ブ・スピーカーでないと聞き取れないであろう(それほど意味のある歌詞だとも思えないが)。まあ、「空耳アワー」に応募したくなるようなスタイルと言って もいいかもしれない(正直笑ってしまった)。内ジャケットの表記でも「ボーカル」ではなく「ボイス」になっているし、彼らはメロディを歌うボーカルそのも のに意味性を見出していないのであろう。だが、これは別に否定的な意味で述べているのではない。彼らの目指している音楽性からすれば、メロディはかえって 邪魔になってしまうと思う。

 M3 は、ある意味M2以上にジャズ的なパンク/ハードコアな曲であろう。シャッフル・ビートも取り入れられてい る。一方、ここでのボーカルは最早「ナレーション」である。ハリウッド映画の冒頭で盛んに使われているナレーションを思い浮かべるよなスタイルである。

 M4 は、シンバル・レガートを使って、これまたジャズ的な雰囲気を出している曲である。それだけでなく、マーチ 風のリズム感覚も取り入れられており、「ポリリズム」がテーマになっているよ うに思える。

 他にも、コーラス(ギターのエフェクタの一種)を効かせたギターとバックの効果音のマッチングなど も、聴きどころである。アルビニ自身は、こういう効果音をあまり好んでいなかったような記憶があるのだが、それもまた興味深い。

 M5 は、冒頭はモロにパンク/ハードコアである。裏声で叫ぶボーカル、アルビニ好みのナイフで切り裂くようなギ ター・サウンドが特徴である。

 更に重いリフも加わるのだが、これが例えばTADやニルヴァーナあたりとも異なって聞こえ、単なる 模倣者でないことがはっきりと確認できる。

 M6 は、ホワイト・ブルース風に始まる曲である。ロンドン出身なら、ホワイト・ブルースを好むのも変ではない が、アルビニはモロにブルースを連想させるバンドを嫌っていたことがあって(ジョン・スペンサーは、バンド名にブルースを入れていても、モロにブルースを 連想させる音楽をやっているわけではない)、その意外性が面白い。また、全体的には轟音なのだが、左チャンネルで鳴っているギターは非常に繊細である点に も注意して欲しい気がする。

 ところで、ホワイト・ブルースは、過度に増幅されたギター・サウンドにより官能感を表現した音楽と も言えるので、ハードコアとは相性が悪いように思われがちだが、こういうスタイルも可能なんだ、スタイルに自己規制は不要なんだ、と彼らは主張したかった のだろうか。


 M7 は、右チャンネルからシンバル風の音が聞こえ、左チャンネルからはアコースティック・ギターとチェロが聞こ える。ボーカル抜きの完全なインストゥルメンタルで、マイナー調とメジャー調を行ったり来たりする曲である。本作中では異色な雰囲気を持っている。

 M8 は、ナレーションのようなボーカルが左、中央、左と位相を変えて聞こえてくるアレンジがなされている。これ も、アルビニ好みの作風とは異なるところだ。

 曲は始めハードコア風であるが、途中からラテンというかヴードゥー教的なリズムに変わる。このハー ドコアと中南米音楽という2つの曲を一つにまとめたものである。エンディングが唐突なのは、アルバム最終曲ということで、聞き手を裏切るためか?


<終わりに>

 今まで述べてきたように、個人的には本作を非常に面白いものとして受け取った。新人らしからぬ作風 にも驚かされた。ただ、筆者自身、ハードコアにもジャズにも通じているわけではない。そんな者がこういった文章を書くこと自体、僭越なのかもしれない。






(2002-12-27)

 

 

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