Flight Crank "Beyond All ReasonableDoubt "

Flight Crank AKA Leeroy Thornhill

01. Bright Lights
02. Amazing
03. What U Need
04. Inside Out
05. Cheaper Than Stolen Goods
06. Get Real
07. Flipside
08. Sir Frinalot
09. Break Chains
10. Another Year
11. When I Get Famous
12. Take Me Home
13. Twisted Lee Scratch Perry Mix
14. Matchstiks     
 

 

 本作「ビヨンド・オール・リーズナブル・ダウト」はフライト・クランク名義で発表されているが、事実上は元プロジディのリロイ・ソーンヒルのソロ・プロジェクトである。

 プロジディといえば、1997年に発表した「ザ・ファット・オブ・ザ・ランド」が全米1位を獲得し、ザ・ケミカル・ブラザースと伴にロック的なテクノ・ミュージックの一大ブームを引き起こしたバンドであることは有名だ。プロジディは高速BPMと重低音を基調としたテクノを特徴としていたが、本作にそういったものを期待すると、裏切られる。ただし、良い意味でだが。

 もっとも、仮にプロジディが新作を発表したとしても、「ファット・オブ・ザ・ランド」と殆ど変わりないものを出すとは思えない。1990年代の後半、メジャーなテクノ・ミュージックはひたすら高速なBPMへの道を歩んだかに見えるが、BPMのアップには限界があり、どこかで頓挫せざるを得ない。

 話を本作に戻す。本作は高速BPMとは全くの無縁であり、ミッドからスローテンポの曲が殆どを占めている。また、重低音重視の音作りでもない。別に、反プロジディの旗色を鮮明にしたわけではないだろう(それではあまりにも浅はかだ。上記の通り、5年前の作品に反旗を云々などというのは、悪い意味でのロック的な考え方ではないか)。ソロになって以降に、色々なものから触発されて出来上がっただけのことだと思う。

 本作は、クラブ向けダンス・ミュージックを基調としながらも、そこに多様な音楽が詰め込まれている。そのうち最も影響が大きいのは、レゲエとジャズであろう。ジャズといっても、数10年以上前のジャズであり、オールド・アメリカン・ポップスと言った方が的確かもしれない。本作には簡潔で良質なメロディが多く使われているが、その殆どがレゲエと古いジャズに着想を得ているようだ。前者の代表がM2、M10、M11であり、後者の代表がM3、M9、両者の融合がM13であろう(この曲は、エルヴィス・プレスリーの「好きにならずにいられない」のUB40によるカバー・バージョンを思わせる)。ちなみに、M3、M9の2曲では、チャーリ・タッカーという女性がボーカルを取っていて、歌詞の一部も担当している。なおボーカル・スタイルは、リロイであれチャーリであれ、エモーションの押し付けでもく、また昨今のR&B歌手にみられる技巧だけ、というのでもなく、「平明」という形容が相応しい。これは、メロディそのものが平明であることに由来しているのであろう。

 さて、本作の魅力として先にメロディを挙げたのだが、個人的には、メロディ以上にリズム・トラックに素晴らしさを感じる。リズム・トラックは、プログラミングのみで作ったものと、実際にドラムを叩いた音をサンプリングしたものの2種類から作られているようだが、いずれにしても「飽きの来ないつくり」になっている。特に上手さを感じる曲がM1、M3、M9、M12あたりである。

 更に、本作を聴いて驚かされるのが、アコースティック・ギターの導入である。M6(ここで使われているギターはセミアコだろうが)は60年代以前の米国フォークのようだし、M10ではアルペジオ奏法が使われている。だが、それら以上に筆者が感心したのはM7であった。この曲では、ブレーク・ビーツとアコースティック・ギターが組み合わされている。今となっては、ブレーク・ビーツ自体は目新しくはないが、古典的な楽器と組合せるという手法は、まだまだ有効だと思う。もちろん、アコースティック・ギターの演奏が中途半端では台無しだが、ここでのはコード・カッティングはかなり良いと思う。

 次に歌詞について少しだけ触れる。俺とお前の関係についての歌詞ばかりだが、M3以外は全て非ラブソングである。ストレートな表現のように見えて、実は何かの隠喩であるようなものが多い。あたかも、特定の人だけに分かるように書かれたかのようである。実際、そうかもしれない。例えば「有名になる」という言葉が何度も使われているし、M11に至っては、タイトル自体がそうである。プロジディが世界レベルでブレークしたことにって精神的に疲弊し、これらの歌詞が書かれたのかもしれない。

 

 本作は、歌詞の面からして私的な色合いの濃いアルバムである。また、じっくり聴かないと、リズム・アレンジの妙を聞き逃してしまうような作りでもある。いわゆるダンス・フロアとは相性が悪いかもしれないが、その分ポップス・ファンにとっては、すんなりと受け入れられ易いような気がする。また、プロジディを先鋭的ロックとみなしていた人の中には、本作を「後退」と批判する向きがあるかもしれないが、要は、じっくりと聴くかどうかに懸かっていると思う。

 

 最後にM14だが、ゲストのフィンリー・クエイによるギターとハーモニカを大々的にフィーチャーしたブルースである。他の曲とのバランスを考えると、どうにも収まりが悪い。普通なら、シークレット・トラック扱いにすると思うのだが。

 

(2002-2-10)

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