Elbow "Asleep In The Back"

 

01. Any Day Now
02. Red
03. Little Beast
04. Powder Blue
05. Bitten By The Tailfly
06. Newborn
07. Don't Mix Your Drinks
08. Presuming ED (Rest Easy)
09. Coming Second
10. Can't Stop
11. Scattered Black And White
12. Vum Garda
    M10、M12は日本盤のみのボーナス・トラック

 

 エルボーは2000年にシングルでデビューした英国のバンドであり、本作が1stアルバムになる。はっきり言って、新人として は出来過ぎだと思うほど、完成度が高い。

 既に、一部音楽専門誌で話題となっているが、エルボーを語るときに引き合いに出されるのが、ブログ レッシブ・ロックである。例えば、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、ジェネシス(ピーター・ガブリエル在籍時)などである。なるほど、本作からも上 記のバンドに共通する「英国的なもの」が感じられる。ただし、ここで気を付けなければいけないのは、「プログレからの影響」が一人歩きすることだろう。

 パンク勃興以降、「プログレは悪しきもの」という風潮になった。特に若手にとって、プログレとの共 通性を指摘されることは、あたかも侮辱されるかのような雰囲気が続いてきたのも事実である。ところが、実際に90年代以降の英国ロックを振りかえってみる と、実態は異なっている。例えば、レディオヘッドの「OKコンピューター」やマンサンの「シックス」は、直接の影響は無いだろうが、プログレとの共通性を 感じさせる作品だったし、昨年デビューしたミューズは、バロック音楽の旋律を取り入れたりしている。また、一方で音響派やエレクトロニカと呼ばれる音楽を 聞くと、効果音(SE)の多用や音の粒の立ち方という点では、プログレとの共通性を見出すことも出来る。そういえば、音楽評論家の中には、ピンク・フロイ ドを音響派の元祖と見る向きもある。要素としてなら、うなずけなくもない。

 そういった、レッテル貼りを止めて本作を聴けば、本作が単なるプログレの焼き直しではなく、現在進 行形のポップ・ミュージックであることが分かると思う。詳しく説明すれば以下の通りである。

(1)効果音(SE)の多用・・・音響派・エレクトロニカとの共通性がある。

(2)英国情緒に溢れるメロディ・・・オアシス、トラヴィス、コールドプレイと、このところ英国では「歌」志向のバンドが人気を博してきた。本作にも メロディの良さを感じるが、これら3バンドの音楽性と違い、本作は「歌もの」には属さないと思う。その分、ヒット・シングルには恵まれない可能性がある。 曲間を短く取っている点などからしても、アルバム単位での評価を望んでいるのではないか。

(3)変拍子風なリズム・パターン・・・生ドラムと打ち込みパーカッションとのシンクロよる独特のリズム・パターン。トリップ・ホップ、テクノ以降の手 法である(ベックが「ミッドナイト・ヴァルチャーズ」でやっているが、本作はそれ以上に面白く感じる)。

(4)バック・コーラスの多用

(5)少ないソロ・パート・・・せいぜい、アコースティック・ギターのアルペジオ程度で、しかも数小節にも満たない長さである。

 

 一方、歌詞に関しては、直接的な表現が少ないし、文学的である。その分意味が分かりにくい。M8以 外のどの曲をとっても、自身が人生の下り坂にあることを認めていたり、駄目人間であることを自覚しているような人物の世界観が感じられる。「怒りよりもあ きらめを選択した者」と言い換えてもいいだろうし、また煮え切らない態度とも言える。なお、歌詞カードは、手書きメモを印刷したようになっているので、非 常に読みづらい。

 

 それでは以下に、各曲ごとに解説を記す。省略した曲もあるが、その理由は、他の曲に似たような特徴 があるためである。

 冒頭を飾るM1は、本作中最もポップjかつ優れた曲であり、先行シングルにもなっている。曲調やボーカル・スタイルは、シド・バレッ ト時代のピンク・フロイドを連想させる。まさに「英国的」である。が、しかし、オルガン、ギター、ドラムの演奏スタイルは、「音響派」以降である。

 歌詞からは、主体性を失った若者あるいは精神的に老いた若者という姿が浮かび上がってくる。「今す ぐにでもここから出て行こうかな」、という一節を読んだだけでも、それはハッキリ分かると思う。従来のロックの歌詞ならば、ここは、「今すぐにでも出て行 きたい」とするはずである。「暇な時間ならいくらでもある」という歌詞も、「生き急ぐ」とか「暇を嫌悪する」といったロック的歌詞とは対極の位置にある。 若者というよりは老人のぼやきにも似ている。

 

 M2は、上記(3)の特徴がよく出た曲である(M6、M10、M11も同様)。ドラムを叩くというのではなく、細い音で細 かく音を出すことでグルーブ感を生み出すという手法は、ロックというよりは、ダンス・ミュージックに近い。話が飛ぶが、ボーカルの声がピーター・ガブリエ ルに良く似ていると思う。この曲に対する変奏曲という雰囲気を持っているのがM3である。

 このM2の歌詞からも、若さよりも老成が感じられる。タイトルの「レッド」は、恋人の態度(一瞬の 内に燃え上がる」)の隠喩だが、作者としてはそういう態度に批判的なのである。

 

 M4は、ちょっと情緒過多にも思えるスロー・バラードである。サックスは控えめなのだが、かえって情緒を訴えることに成功 しているように思える(ただし、個人的にはこの路線は好きになれない)。

 歌詞は、「あの時間を取り戻そう」あるいは「全てを君と分かち合おう」というフレーズがあるため、 彼女との精神的な復縁を願う歌のようにも思える。しかし、全体的な文脈からすると、心中を持ちかけている歌だと思う。ただし、こんなに勿体ぶった表現で は、誰も心中してくれないような気がする(相手はその間に冷静になってしまうのではないか)。

 

 M5は、テクノ風のドラムやトリップホップ風のボーカル(低音で囁くようなスタイル)と、時折入る耳をつんざくようなノイ ジーなギターが特徴である。後半はキーボードが加わってのノイズ大会(?)だったり、人混みでの会話を効果音として使ったりしている。本作中最も実験的要 素が強い曲であるが、とっつきにくさは全く無い。

 歌詞中において、主人公のことを首輪の無い犬と表現している。これは飼い主のいない犬ということだ ろうが、歌詞の文脈からすれば、皆から眼の敵にされる存在ということらしい。この主人公はある少女に恋しているらしいのだが、「家まで連れて行って一人き りにしてあげよう」などと、意味不明のことを言ったりしている(監禁するつもりか?)。また、「君は未来の花嫁らしい・・・」という下りも、一人よがりと しか言いようがない。その他、印象深い歌詞として、「君の瞳は君の日記を裏切る」という表現が挙げられる。「少女の夢や希望が、彼女自身の瞳によって台無 しになる」、という意味に取れるが、これでは、彼女にとって主人公場理想の男ではないことを暴露したも同然である。

 

 M6は、アコースティック・ギター一本とボーカルだけで始まる曲である。ボーカルは、叙情性に溢れている。この静かなパー トもとても良いが、それ以上の聴きどころは、エレクトリック・ギター2本以上によるアンサンブルのパートだと思う。確かに分解してみると、単なるアルペジ オだったりするのだが、トーンが組合さることによって、素晴らしくなっているのである。

 この曲は終盤盛り上がって行き、唐突に終わってしまう。他の曲にも似たような指向がみられるが、こ れが最も顕著である。

 歌詞はラブソングである。二人の関係は上手く行っているようだ。タイトルの「新生児」のように振舞 うのは、どちらか一方ではなく、自分と相手の両方である。つまり、支配・被支配が一方通行ではないのである。であるのに、何故冒頭で自己嫌悪しているのだ ろうか。

 

 M7は、アコースティック・ギターとドラムが先導する曲で、クラシカルなギター・プレイが特徴である。そこに、適度にハウ リング・ノイズや効果音を織り混ぜている点が面白い。

 歌詞は、本作中一番分かりづらいと思う。「ドリンクを混ぜないで」のドリンクが何の隠喩なのだろう か。知識や情報の類かとも思えるが。であれば、「いつかそれは君を殺すことになる」という一節関しても意味が通っていると思う。他の曲に比べて、精神的に 強い人物が主人公の位置を占めているようだが、それは途中までである。後半になると、「僕は申し訳なさそうに現れて/聴いてくれと君に懇願する」なのであ る。とすると、前半の主人公の宣言は「強がり」なのだろうか。

 

 M9は、安直な表現をすれば、レニ(ストーン・ローゼズ)のリズム感覚をピンク・フロイドと合体させたもの、となるだろう か。もっとも、レニのドラミングと違い、この曲では1、2拍目も強めに叩かれている。結果として、他の曲とはドラミングの印象が全く異なっている(英国盤 にはM12は収められていない)。

 この曲でも、ノイジーなギターやシンセサイザーが使われ、実験的要素が強い。ヴォコーダを通した バック・コーラスは、ちょっと怪奇な雰囲気をもたらしている。

 

 M11は、全体としてはフォーク・ロック調のアレンジだが、キーボードによるバックの音響がとても心地よい。また、(3)に 示したリズム・パターンが使われていることも、既存のフォーク・ロックとは一線を画する仕上がりになっている一因であろう。

 

 M12は、呪文を唱えているかのようなボーカルと力強いドラミングが特徴である。このボーカル・スタイルを聴くと、つい 「キッドA」連想していしまう。

 

 

(2001-5-20)

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