The Byrds  "Mr. Tambourine Man"

 

 ザ・バーズといえば元祖フォーク・ロック・バンドのひとつとして知られているが、フォーク・ロックなる名称は一体どういう形態を指すのだろうか。恐らく、大方が考えるフォーク・ロックとは、今現在では、アコースティック・ギターを中心としながらもベースやドラムを同時に使ったサウンドを出している音楽を指すのではないか。更には、シャウトしないボーカルも重要な構成用件であろう。しかし、フォーク・ロックなる呼称が登場した1960年代前半では、フォーク的な歌詞をエレクトリック・サウンドに乗せて唄う形態をフォーク・ロックと呼んだらしい。フォーク的な歌詞とは、今となっては意味不明な形容であるが、当時の状況からすれば、まだR&Rの歌詞といえば、女の子とダンスに関するものが殆どだったのだから(「サマータイム・ブルース」などは例外だと思う)、意識的なジャンル分けは妥当な行為だったと思う。

 さて、ザ・バーズといえば、ロジャー・マッギンの弾くリッケンバッカーの12弦エレクトリック・.ギターといいう答が返ってくるくらい、彼のギターはザ・バーズの代名詞と化している。元々はビートルズからの影響で、ロジャー・マッギンはリッケンバッカーの12弦ギターを手にしたらしいのだが、彼等のデビュー曲である「ミスター・タンブリンマン」があまりにも斬新な音を出していたため、12弦リッケンバッカー=ロジャー・マッギンという図式が定着したのだと思う。今聞いてもその新鮮さは全く失われていないと断言できる。

 本作、「ミスター・タンブリンマン」はタイトル曲を含むザ・バーズのデビュー・アルバムである。発表は1965年である。当時はアルバム・レコードという認識が業界でも希薄であったという。要するにヒット曲を少し収め、残りはテキトウに曲を寄せ集めた程度で、「売れれば儲けもの」という扱いであったのだろう。いや、ボブ・ディランやビートルズは既にそこから脱却を図ってはいたのだが。それはともかく、本作は前者の部類に属するアルバムではなく、全て優れた曲で網羅するという意図の元で制作されたと思う。本作は12曲から構成され、ボブ・ディランの曲が4曲、カバーが3曲、そしてオリジナル曲が5曲である。オリジナル曲のうち3曲はジーン・クラーク作で、残り2曲がジーン・クラークとロジャー・マッギン(当時はジム・マッギンと名乗っていた)の共作である。どの曲も優れたものばかりである。タイトル曲以外に3曲がボブ・ディラン作というのが、本作の制作意図がある程度まで真剣であったことを物語っていると思う。もしも、テキトウで良いのなら、カバー曲で網羅したに違いないからである。ただ、M10のような歌詞の面で全体にそぐわないものも収められてはいるのだが。

 さて、本作の特徴として、ロジャー・マッギンの12弦ギターを先に挙げたが、他にも流麗なコーラス・ワーク、力強いベースも特筆すべきものである。特に、ベースが良く聞こえるというのは、当時としては珍しいことであり、ザ・フーのジョン・エントウィッスルが登場するまでは(1965年)、レコード上でのベースとは添え物でしかなかったのである。そういえば、ザ・ホリーズもコーラスワークと力強いベースが特徴のバンドであったが、後年、ザ・バーズのデビッド・クロスビーとザ・ホリーズのグレアム・ナッシュがCSNを結成したのは、偶然ではないのかもしれない(二人ともベーシストではないが)。

 歌詞については、各曲毎に触れていくが、ザ・バーズのオリジナル作品は、全て「僕と彼女のこと」を唄っており、社会的な内容ではない。ただし、R&Rにありがちな自信家の男とは異なる設定である。

 

1. Mr. Tambourine Man

 ザ・バーズのデビュー曲にして、全米・全英で1位を獲得した曲。ボブ・ディランの作品である。リッケンバッカーの12弦ギターによるイントロはあまりにも有名である。実は、この曲の録音時に実際に演奏したのはロジャー・マッギンだけだったようで、後はスタジオ・ミュージシャンの力を借りている。しかし、そんなことは大した問題ではない。とにかく、メロディ、12弦ギターの音色、唸るようなベース、全てが素晴らしい。ただし、12弦ギターにはミストーンと思える箇所があるが。

 歌詞を読んだ大半の人は、何を言いたいのかさっぱり分からないとの感想を抱くに違いない。筆者とて理解出来ているというつもりは無い。ただ、ポップ・ミュージックへの傾倒を表明した曲なのかな、と思える程度である。同時にドラッグへの傾倒もあるような気がする。

 

2. I Feel A Whole Lot Better

 ジーン・クラークの作品で、当時は2枚目のシングルのB面曲であった。M1と比べても引けを取らない名曲である。A/Asus4/A9で構成されるリフは、ザ・フーが"So Sad About Us"で使ったように、ある種定番となって行くのだが、その元祖がこれなのだろうか。アレンジ面では、異常に大きなベース音とタンバリンが特徴である。とにかく、B面にしておくには勿体無いほどの出来である。

 なお、邦題は「すっきりしたぜ」なのだが、歌詞を読むと、完了形ではなく、「君がいなくなれば、多分すっきりするだろうな」という未来形なのである。

 

3. Spanish Harlem Incident

 これもボブ・ディランの作品である。ボーカルもディランのスタイルに近い。やはり、12弦ギターとベースが目立つアレンジであるが、ドラムもリンゴ・スターを思わせるような一風変わったフィル・インも面白い。

 歌詞は、ジプシーの少女に恋した男のことを唄ったものだが、どうもこの少女は娼婦である疑いが強い。タイトル("incident"=「事件」)だけでなく、例えば2番の歌詞でわざわざ"swallow"という単語(ツバメではない)を使っている点からもそのように想像できるのである。

 また、当時のアメリカでは、この歌詞を考えれば放送禁止になったのではないかと思う。

 

4. You Won't Have To Cry

 クラーク・マッギン共作曲である。12弦ギターと洗練されたコーラスワークが素晴らしい。メロディはビートルズ風でもある。

 歌詞は、失恋した女性への求愛ソングである。こうしてディランの作品と比べてみると、やはりストレートな物言いが目に付くが、それはキャリアの差でもあるだろう。

 

5. Here Without You

 ジーン・クラークの作品で、マイナー調の曲である。右チャンネルから聞えるコード・カッティングの音色そのものに興味がそそられる。また、他の曲に比べてパーカッションを重視したアレンジでもある。そのためなのか分からないが、ベースは奥に引っ込んでいる。

 歌詞はまるでM2の続編のようである。M2においては「君がいなくなれば良い」と唄っていたのに、ここでは、「君がいない生活は耐え難い」と唄っているのだ。まさか、「失ってこそ分かるその人の有り難さ」を、わざわざ2曲使って表現したかったとは思えないが。

 

6. The Bells Of Rhymney

 ザ・バーズによる米国で最大のヒット曲は"Turn! Turn! Turn!"であるそうだが、その曲の作曲者はピート・シーガ―であった。そして、この曲もピート・シーガーの作品である(作詞はイドリス・デイヴィス)。12弦ギターによるアルペジオのリフは、まさに初期ザ・バーズのトレードマークと言っていい。しかし、それよりもギター・ソロが一番の聞かせどころなのではないか。また、エンディングでのコーラスでの引っ張り方は、後のサイケの萌芽が窺える。

 歌詞は、恐らくは労働者の絶望感を唄ったものなのだろうが、舞台設定は修道院になっているようで("Sisters"というのがキーワード)、そのあたりは故意に曖昧にさせられているのかもしれない。いや、歌詞が作られた当時の人にとっては、良く分かる内容なのかもしれないのだが。

 

7. All I Really Want

 ザ・バーズ2枚目のシングルA面曲であり、ボブ・ディラン作品である。なお、シングルとアルバムとでは歌詞が少々異なっている。この曲でもタンバリンがドラムの代わりを務めている。ボーカルを聞くと、「あ、トム・ペティだ」と思ってしまうが、もちろんロジャー・マッギンの方が本家である。それを言ったら、ディランがそのまた元祖だが。

 歌詞は、たった一言「僕の本当の望みは君と友達になることだ」と言いたいだけなのだろうが、何故かあまりにも饒舌であり、そこにたどり着くまでに、「〇〇する気は無いんだ」、「××する気は無いんだ」、と様々なことを述べている。それらは全て否定形式なのである。ディラン流の言葉遊びなのだろうか。

 しかし、こんなことを他人から言われたら、友達になろうとは誰も思わないだろうな。

 

8. I Knew I'd Want You

 ジーン・クラークの作品で、"Mr. Tambourine Man"のB面曲として発売されている。ワルツのリズムを用いた曲で、M5同様にマイナー調である。シングルとして単独に存在するよりも、こうしてアルバムの構成曲として存在させた方がより映える曲だと思う。

 この曲の歌詞も求愛ソングであるが、例えば、「君がハローと言ったとき、とても近しいものを感じた」という一節からは、主人公は孤独な男であることが仄めかされている。R&Rの歌詞にありがちな、モテモテの男とは反対の性質である。

 

9. It's No Use

 クラーク・マッギン共作曲である。イントロは日本のGSっぽい印象があるが、それは逆だろう。特に歪んだエレクトリック・ギターの音色とフォークっぽいコーラスワークの対比性が特徴である。ギター・ソロはブルースからの影響が窺えるが、非常にラフであり、それが却って良い味を出していると思う。

 しかし、この曲のアレンジにおいて、それ以上に特筆すべき点はリズムだと思う。サビでのベースラインもそうだし、ドラムのスネアもしくはタムの叩き方(レガートの一種?)は、90年代のダンス・ミュージックに共通する感覚があると思う。

 歌詞は、彼女に別れを告げる内容である。タイトル通り「何を言っても無駄さ、もうやり直せない」ということなのだろう。「いつも僕を傷付けるような奴とは同じ部屋にいたくない」なる一節が明らかにしているように、M2とあまり変わらぬ設定であるが、こちらの曲ではどうやら主人公の方が出て行きそうな気配である。

 

10. Don't Doubt Youself, Babe

 ジャッキー・デシャノンのカバー曲というだけあって、ポップである。TV出演時に演奏するには向いていると思う。ボ・ディドリーのリズムを拝借しているし、ギター・ソロなどはギターの音までもボ・ディドリーである。

 歌詞は「どんな時でも自分自身を疑ってはいけない」という内容である。こういう説教一本槍の歌詞は、60年代ではまだ有効だったのだろうが、ディランは別として、クラークの作品に見られる迷いや不信(それは相手でもあったり自己でもあったりする)のない、楽天的な歌詞を持った曲を同じアルバムに収めて正解だったのだろうか。

 

11. Chimes Of Freedom

 ボブ・ディランの作品である。冒頭はボブ・ディランを意識したボーカル・スタイルであるが、他のパートではそれ程でもなく、本作中の他のディラン作品に比べてよりポップな感触がある。

 歌詞は、キリスト教に改宗したディランの心境を綴ったもののようである。例えば、「弱者にこそ自由の鐘のきらめきを」だの「冤罪で投獄された罪人の上に自由の鐘が鳴る」といった歌詞がそうであろう。もっとじっくり腰を据えて取り組むべき歌詞なのだろうが、このあたりでお手上げとする。

 

12. We'll Meet Again

 古い曲のカバーである。これをアルバムの最後に持ってきたと言うことは、構成をきちんと考えてのことだろう。コーラスワークは本作中一番の出来だと思う。

 歌詞は、タイトル通り「我々は再び会えるだろう」という内容だが、これが戦時中だったら切実な話である。当時のアメリカ人は、ベトナム戦争に出征する友人にこの歌を唄ったりしたのだろうか。

 

 

(2000-7-20)

 

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