The Animals "The Best Of The Animals"

 

 ジ・アニマルズといえば、100人中99人は「朝日のあたる家」という答が返ってくるだろう。この曲について触れずに、アニマルズのことを書くというのは、悪しきスノビズムと言わざるを得ない。ということで、ザ・ホリーズと同様にアニマルズについてもベスト盤を取り上げることにした。

 ここにあるのは、アメリカのAbkcoレコードから1987年に発売された"The Best Of The Animals"である。ジャケットの下方に、「オリジナルのマスター録音からデジタル・リマスターした」と書かれている。確かに音質は驚くほど良いが、エンジニアのクレジットがないのは、実に不親切である。

 ジャケットの裏側を見ると、メンバーのプロフィールが載っている。メンバーはジョン・スティール(ドラム)、エリック・バードン(ボーカル)、チャス・チャンドラー(ベース)、アラン・プライス(オルガンetc)、ヒルトン・パターソン(ギター)である。彼等はイギリスのニューキャッスル出身で、元々はアラン・プライスが中心になって結成されたバンドであることは、それなりに知られている。

 実際、アニマルズの特徴として、エリック・バードンのブルース・フィーリング溢れるボーカルと、アラン・プライスのオルガンが挙げられる。当時、ブルースやR&Bのカバーを中心に演奏するバンドは、イギリスには沢山いたはずであるが、ギターよりもオルガン中心というのは少数派である。楽器が高かった、移動するのに面倒だ、といった理由があったかもしれない。また、チャス・チャンドラーのベースもジャズの素養を感じさせ、さほど目立ちはしないが、良い演奏を聞かせてくれる。決して、ジミ・ヘンドリクスの発掘者としてのみ名を残すような人ではなかったはずなのだ。

 もちろん、アニマルズは60年代初期のバンドとしては商業的な成功を収めた方ではある。だが、バンドとしては短命に終わっている。このベスト盤を聞く限りでは、何故短命に終わったのか、推測し難いものがある。エリック・バードンのボーカルは、当時の英国R&Bバンドとしては破格の出来であり、ゼムのヴァン・モリソンがライバルとみなせるくらいである。また、アラン・プライスとチャス・チャンドラーにはジャズの素養がある(らしい)ことを考えても、他のバンドとは一線を画する存在となれたはずなのである。ただし、ギタリストについて言えば、演奏は決して悪くはないのだが、キース・リチャーズらに比べるとアクが弱いという感があるし(才能を開花出来なかったのかもしれない)、ドラマーについても、チャーリー・ワッツなどと比べると、「どうかな」という気もするのだが。とはいえ、短命理由として思いつくのは、「朝日のあたる家」があまりにも出来が良すぎて、その後の発展を阻んでしまったのではないか、ということだけである。

 ベスト盤の方に話題を戻す。このアルバムには全15曲が収められている。オリジナルはM2だけで、他はトラッド・ソングやR&B、ブルースのカバーであるが、当時(1964〜1965年)は、ごく当然のことであった。プロデュースはミッキー・モストが全曲を担当しているが、彼はハーマンズ・ハーミッツなども手がけた人物である。本作を聞く限りでは、洗練された音作りを良しとするポリシーの持ち主だろうと推測する。実際、同期のストーンズやキンクスの作品に比べて、本作は洗練された音作りになっていおり、例えばM7やM8といったブルースのカバー作品には、シカゴのウィリー・ディクソンの手法に通じるものがある。

 では、本作の中から幾つか取り上げてみる。

 

1. House Of Rising Sun (朝日のあたる家)

 アニマルズの名前は知らなくても、この曲を知らない40代の人というのは珍しいのではないか。そのくらいポピュラーな曲である。元々はアメリカのトラッド・ソングであり、ボブ・ディランがそれを見つけレパートリーにしていた。アニマルズは、ディランのレコードを聞いて、カバーすることになったのだろう。ただし、この曲は元々ニュー・オーリンズの娼婦宿を主人公とする歌であったのだが、アニマルズがカバーするに際し、"girl"を"boy"に替えている。つまり、元々の歌詞では、娼婦宿のことを「朝日の家」と世間の人々が呼んだ、とされており、かなりきつい皮肉のように聞える。

 ところが、当のディランはアニマルズのバージョンを聞いて、ロック転向を決意することになったとも言われている。

 この曲は、メロディそのものも素晴らしいが(でなければ、トラッド・ソングとして生き残れるはずもないが)、エリック・バードンのボーカル、アラン・プライスのオルガン・ソロ、どちらも未だに色褪せない名演奏である。

 歌詞の体裁は、当時のR&BやR&Rとはかなり異なっている。その頃のポップソングならば、一人称で彼女のことを唄うか、3人称で「あの娘は・・・」が殆どであった。それに対してこの曲では、冒頭からして「朝日と呼ばれる家がある」と、説話形式なのである。

 ところで、ディランはデビュー前からトラッド・ソングやR&Bに通じていたらしいが、もしかしたら、歌詞の書き方もそういったものから学んでいたのかもしれない。

 

2. I'm Crying

 本作中唯一のオリジナル曲で、エリック・バードンとアラン・プライスの共作クレジットになっている。アップテンポでノリの良いR&Bであるし、最初期のザ・フーとの共通点も見出せないことはない。ただし、こちらはザ・フーに比べると大人しい出来である。

 歌詞は、去っていた彼女のことを思って、泣いている男のことを唄ったものだが、韻を踏んだりして、デビューして真もない段階の歌詞としては比較的良く出来ていると言える。

 

3. Baby, Le Me Take You Home

 オルガンのバッキングが非常に斬新である。ドアーズのレイ・マンザレクは、きっと何らかの影響を受けているのだろうし、後のサイケデリック・ロックの先駆けとみなしても良いのではないか。

 

6. Don't Let Me Be Misunderstood (悲しき願い)

 尾藤イサオのカバーで知られる曲。ただし、あのカバー作品は、唄い方や歌詞に面白さがあるのだと思う。とはいえ、「みんなおいらが悪いのさ」は、原曲から外れすぎてはいないだろうか。元々は「神よ、私が誤解されませんように」という「悲しき願い」なのだから。
 そして、アニマルズの方であるが、他の曲に比べ、エリック・バードンのボーカルに著しいエモーションの深さを感じる。 

 

9. We Gotta Get Out Of This Place (朝日のない街)

 エリック・バードンがボーカリストとしてはエモーショナルな部分だけでなく、テクニシャンでもあったことを認識させてくれる歌唱が聞ける曲。

 歌詞は、貧民街で生まれ育った主人公が、状況打破の為に、そこから出て行こうと決意する様を唄ったものである。オリジナルでは、恐らく主人公は黒人と考えて間違いないだろう。英国労働者階級の人間にとっては、共感できる内容だとは思う。

 なお、邦題の「朝日のない街」は、冒頭の「この汚く古い街では/太陽も輝きを拒絶している」から取られている。

 

12. Gonna Send You Back To Walker

 オルガンをまるでリズム楽器の様に使ったアレンジが斬新であるし、リードギターもパワフルで素晴らしい。

 

13. Story Of Bo Diddley

 ボ・ディドリーのオリジナル曲に、エリック・バードンが歌詞を差替えて唄った曲。歌というよりも語りである。この曲での歌詞は、前半はほぼオリジナルのまま、つまりボ・ディドリーのサクセス・ストーリーであるが、後半では当時(1964年)の英国でのR&Rバンドの盛り上がり状態をドキュメント風に唄っている。その中には、ビートルズの「ア・ハード・デイズ・ナイト」やストーンズの「彼氏になりたい」が挟みこまれてもいる。

 しかし、ストーンズ側からすれば、「よりによって『彼氏になりたい』はないだろうよ」と言いたかったような気がする。だが、この選曲からしてエリック・バードンは、敢えて英国産のR&Rを取り上げたかったのかもしれない。

 

14. It's My Life

 サビのメロディやボーカルの掛け合いなどが、ヒット性のある曲だと思わせる。アレンジ面ではアルペジオ風のギターが良い。

 歌詞は、恐らくは貧しく周囲からも馬鹿にされ続けている主人公が、悪魔に魂を売ってでも金を儲けてやるんだ、と彼女に向かって唄ったものであろう。サビの所は、

「俺はやりたいようにやる/それが俺の人生だ
俺はやりたいように考える/それが俺の思想だ
俺の間違いを指摘してくれ/時には傷付けてくれ
でも、いつか良い目に遭わせてやるぜ」

なのである。

(2000-5-14)

 

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