The Animalhouse "Ready To Receive"
ジ・アニマルハウスは、元ライドのマーク・ガードナーとスーパーグラスのエンジニアを務めていたサム・フィリップスが中心となって結成された5人組バンドであり、本作「レディ・トゥ・レシーブ」は彼等のデビュー・アルバムにあたる。クレジットを見ると、サウンドにおけるリーダーは、サム・フィリップスのようである。
本作を通して聞くと、様々な音楽性を持ったバンドであることが分かると思う。60年代〜70年代初頭のポップス、フォークから、ボサノヴァ、そしてトリップホップやドラムンベースまでもから影響を受けた雑多な音楽性は、聞いていて楽しい。この点、デビューとはいえ、ベーシスト以外はそれなりのキャリアがあるのだから当然と言えなくも無い。しかしながら、現在のイギリスのバンドの多くに欠けているのは、こういった雑食性なのではないか。もともと、ロックとは雑食音楽である。「ロックはあらゆるものを飲みこむ」と言ったのはミック・ジャガーであったと記憶しているが、まさにその通りであろう。
だが、それだけでは単なる物真似バンドに過ぎない。重要なことは、「〇〇風の音楽をやってみました」に留まらず、過去の様々な音楽と最近のポップ・ミュージックを掛け合せている点にあると思う。
更に、もう1つ指摘しておきたいことがある。上記の通り、本作は最近のダンス・ミュージックに強く影響されてはいるのだが、それを打ち込みでは無く、ベースとドラムを使って同等のグルーブ感覚を打ち出しているのである。これは中々面白い試みである。というのも、今でも打ち込み中心の音楽に対して引いてしまう人は結構いるようで、その理由を大雑把に要約すると「味気ない」ということになるのだろうが、60年代に既に存在した楽器を使うことで、そういった人達を振り向かせることが出来るかもしれないからである。もっとも、正直なところ、それは淡い期待であるのだが。
ただし、本作が傑作かと問われたら、そこまでには至っていないような気がする。本人達も、現在のところはどうか知らないが、もう少し経ったら不満が出てくるのではあるまいか。次作での飛躍に大いに期待したい。
一方歌詞の方はどうだろうか。M11、M12に見られる、ポジティブな歌詞もあるが、M2、M3、M5〜M9、M13に見られるように、現状への倦怠感、あるいは未来への不安を唄った歌詞の方が圧倒的に多い。M1のように、「受け入れる用意が出来ている」と宣言しながら、「僕は今日を信じている/そしてここが僕の居たい所」と唄い、未来への不信が見られる歌詞もある。また、M4で、「動物の家で、自己の本質を取り戻せ」と唄う一方で、M8では自己の本質に触れられることを拒絶している。決して、マーク一人が歌詞を書いているのではないのだが、マークの年齢が20代後半もしくは30代になったばかりであることを考えると、青年期の白黒極端な発想から、壮年期の清濁併せ呑むことへの転換期に差しかかった人間の心情を歌詞にしたものではないか、と思ってしまう。であるからこそ、矛盾が見られるのではないだろうか。
では、各曲について見ていくことにする。
M1 "Ready To
Receive"は、本作のタイトル曲でもある。低いレベルから始まり、ピコピコという電子音が聞え、その後ギターを中心としたダンスロックに突入する。2nd以降のライド(と中期シャーラタンズ(昨年出た最新作は少し毛色が異なる)とがミックスしたような音楽性である。
途中にミドルエイトというべきかよく分からないが、「ペットサウンズ」あるいは同時期のビートルズを思わせる流麗なメロディとハーモニーを挟んでいるが、全体としては上記のダンスロックと言って良いだろう。ベースはルート音を小分けにしたような奏法であり、一般に言われるテクニカルなものとは程遠いが、リズムのノリが良い。これに呼応するドラムも同様である。ちなみに、ドラマーも元ライドのローレンス・”ロズ”・コルバートである。本職のドラマーに言わせると、「下手」なんだそうだが、筆者は昔からオカズ多用のロズのドラミングは大好きであった。しかし、これを聞いてしまうと、ロズの過去などどうでも良い気がしてしまう。
歌詞については、冒頭でも触れているが、タイトル通り「僕は受け入れる用意が出来ている」という宣言である。これが中々意味深であり、老いて汚れて行くことを受け入れるのか、NMEに代表されるプレスの酷評を受け入れるのか、人によって受け取り方が多様になると思う。
M2
"Small" は、トリップホップ辺りからの影響を感じさせる曲。トリップホップはスローなダンスミュージックと言っても間違いではないと思うが、この曲はアップテンポである。しかし、ささやくような歌唱法やメロディラインにトリップホップの影響を感じる。一方、ドラムは変則的なリズムを打ち出しており、前記のややもすれば平板に陥りがちなメロディとの対比を際立たせることによって、何か新しさを生み出している。このドラムはジャズに影響を受けたドラムンベースからの影響が見られる(ただし、「そのもの」というのでは全く無い)。なお、マークは91年ごろ既にマッシブアタックをフェヴァリットに挙げていたこともあり、このような曲が生まれたとしても何の不思議もないのである(ただし、作詞作曲にはマークがクレジットされていない)。
途中にボサノヴァ風の旋律を挟んでいるが、なんでこんなパートを入れることを思い付いたのだろうか?ベックの「ミューティションズ」との関連性は?
M3 "Space Trash"は、今までのダンスロック路線とは一転したバラードである。しかし、シンセサイザーはサイケ色が強く、これまた組み合わせの妙を感じる曲である。一寸パイ後期のキンクス風でもある。
M4 "Animal House" は、バンド名をそのまま曲名にしている。いや、それは逆だろう。曲が先に出来上がり、それをバンド名にしたのが真相だと思う。曲そのものは、中盤のコーワスワークも含め、60年代中期の英国ポップソングを思わせる。例えばゾンビーズ辺りである。ロズのドラミングはマーチ風であるが、元ストーン・ローゼズのレニに憧れていたこともある彼ならば、不思議ではない。このメロディとリズムの組み合わせは、やはりローゼズの1st辺りか。
M5 "Wasted" は、シンセを多用した米国南部風ロックと言えるだろうか。ギター・フレーズは確かに米国南部風であるが、シンセと組み合わせることによって、全く違って聞える。どちらかと言えばポップスなのかもしれない。例えばサビメロなどはティーンエイジ・ファンクラブを髣髴させる。あれっ、これではまるでビッグスターではないか。とはいえ、試みは面白いのだが、中途半端な印象もある。
M6 "Animal" は、先行シングルとして発表された曲。イントロの「カンカンカン」という神経症的なイントロがまず耳に残る。ささやくようなツインボーカルも良い。ロズのドラムは、まるでテクノのプログラミングのような叩き方である。ジーザス&メリー・チェインを思わせるような曲ではあるが、ジーザス&メリー・チェインはドラム・マシーンを使っており、その単調さが良くも悪くも引っ掛かるようなリズム・アレンジであったのに対し、こちらは変則ドラミングのため、聞き手を飽きさせない魅力がある。
M7 "Speakeasy" は、再び穏やかな曲である。コーラスワークからは70年代前半のポップスを連想させる。しかしその一方でドラムとベースは硬質である。キーボードの音は薄くかぶせているだけなのだが、何故か印象的である。
M8
"Essence"
は、パーカッションやボーカルスタイルは現在のR&Bのようである。この調子で終わるのかな(個人的には辛いな)、と思っていると、神経質なシンセサイザーとドラムを中心とするパートに変わり、良い意味での裏切りである。
曲の後半もキーボードとドラムを中心とするアレンジだが、ここでは、クラシック風キーボードとダンス・ミュージック風のドラムという、無茶とも言える組み合わせに挑戦している。元来クラシックは西欧人が培ってきたものであり、ダンス・ミュージックは黒人が大きな役割を果たしてきた。両者を混ぜ合わせることは、相当困難だと思えるが、その果敢な姿勢に、小さくではあるが拍手を送りたくなる。
M9 "Sodium Glow" は、バスドラのみのイントロで始まる曲。それにピアノとシンセサイザーが加わり、そこにベーシストによるラップを乗せている。パーカッションとラップのスタイルは、現在のR&B風である。
ちなみに、タイトルはナトリウム灯のことだと思う。高速道路のトンネル内で光っている奴である。
M10 "Sunday Driver" は、70年代のシンガー・ソング・ライター風と言ったらいいだろうか。ピアノをバックにオーソドックスなポップスを聞かせてくれる。ところが、この曲でもロズのドラムが加わると、何故か今までとは違った音楽に聞えてしまう。ストリングスやブラスも使われているが、大仰に聞えず控えめにした点に好感が持てる。
M11 "Always Be" は、ノイズとドリーミーなポップスの組み合わせである。かつてのソウルで聴かれたようなデュエット曲と言えなくも無い。ところがエンディングをノイズ(電波のようなノイズである)とドラムだけにするところなどは、痛快である。
M12 "Don't Look Away" は、PPMなどに代表されるアメリカン・フォークとギター・ロックの組み合わせである。それだけならば90年代前半の英国にも沢山存在した音であるが、それにダンス・ミュージック風のドラムが加わって、何とも不思議な魅力を出している。
M13 "What Happen To The Future" は、ダンス・ミュージックのリズム・トラック(ドラムとベース)をバックに、メランコリックなメロディ、ギターフレーズを聞かせる曲である。
(2000-7-1)
(2000-7-3)加筆・訂正