The Kinks
Present Schoolboys In Disgrace
■概
説
"Schoolboys In disgrace"(邦題「不良少年のメロディ」)は、RCAでの最後のア
ルバムとして1975年に発表されている。前作"Soap
Opera"がTVドラマ用の曲を発展させて出来た作品であったが、本作は学園ものミュージカ
ルである。
学園ものとはいえ、本作で演
じられるのは、現在進行形ではなく過去の姿である。想定される聞き手も、大人となった人である。それはM1で「最高に幸福
だった日々、学生時代を思い出そう」、と唄われていることからも明らかである。いかにもレイ・デイヴィスらしい作品世界である。ただし、単に「昔は良かっ
た」として、過去の思い出にすがって生きたり、なぐさめ合うことを奨めているわけではない。「昔を思い出すことによって、現在の八方塞がりの生活から抜け
出す道を探ろう」、と主張しているようである。
サウンドは前作の延長線上にあると言っていいだろう。デイヴ・デイヴィスのエレクトリック・ギターをフィーチャーしたロック・サウンド(かつてのキン
キー・サウンドよりは、クリアな音だ)と、ピアノを中心としたアコースティック・サウンドが基調となっており、何曲かでは両者が交互に繰り返されている
が、い
ずれにしても凝ったアレンジには聞こえない。恐らく、ライブ活動が順調になってきたことが、レコードでのサウンドにも影響を与えたのではないか。
一方、本作のメロディや歌詞だが、前作と比べると、各曲が独立した内容になっている。そのため、とっつき易い作品
に仕上がったと言えるのではないか。かといって、曲順を好みで変えたり(CD時代の今では楽に出来ることだ)、幾つかをピックアップして聴きたい作品かと
いうと、(あくまで個人的感想だが)そうでもない。アルバム単位で聴きたい作品である。
■敢えて珍説を
本作は、ザ・フーの一連の作品をからかっ
たような面がある。例を以下に挙げよう。
M2 Jack The Idiot Dunce
"Tommy"は後天的に三重苦になった少年を扱った作品だが、この曲に登場するジャックは先天的な障害児のようだ。どちらも、ある日特別な才能の持ち
主であることを発見されるのだが、ジャックは人気者となるだけで、それ以上の存在にはならない。
M3 Education
「先生、あなたは何故僕が僕であるのか、教えられませんね」は、"Real
Me"の「先生(ここでは医者のこと)、あなたに本当の僕が分かるのか(分かる訳ない)」を連想させる。
M4 The First Time We Fall In Love
"So Sad About Us"に良く似たリフが使われている。
M5 I'm In Disgrace
女子生徒にレイプまがいのことをしたというのは、"Dr. Jimmy"の2番の歌詞に共通する。ただし、"Dr.
Jimmy"では、「俺がやってやる」と言うだけで、後日談が無い(もちろん、物語の構成上そんなものは必要ない)。
M7 The Hard Way
"I Can't Explain"に良く似たリ
フが使われている。
■曲別解説
1. Schooldays
ピアノに導かれて、レイが唄い始める。今日の耳からすると、レイのボーカルにはっとエフェクトが掛かり過ぎのようにも
思える。良いメロディだが、他人が唄い易いとは思えないし、コード進行も相当変わっているような気がする。
歌詞の大意については、先に書いた通りである。"you"は自分自身と取るのが妥当だろう。
2. Jack The
Idiot Dunce
軽快な1950年代風ロックンロールである。コーラスはビーチ・ボーイズっぽい。
歌詞の舞台は学生時代になっている。ここに登場するジャックはどうも精神障害児らしい。そのため、試験では落第し、同級生からはいじめられたりしてい
る。それでも、ジャックはいつもニコニコしている。ところがある時、ジャックには特別なダンスの才能が備わっていることが、偶然にも発見され、ク
ラスの人気者になってしまう。この曲でレイが主張し
ているのは、ありきたりではあるが、「人間の価値観は一つのものさしでは計れない」ということであろう。同時に、ザ・フーの"Pinball
Wizard"を連想させる内容でもある("Little
Billy"ではない、決して)。ただし、ジャックはこの曲に登場するだけだし、別に覚醒するするわけでもない。
蛇足だが、"idiot"も"dunce"も殆ど同じ意味である。後者は、"dance"と韻が同じであることから使われているのだと思うが、前者は何
故使われているのだろうか?
3. Education
7分を超える長い曲。ピアノとドラムだけをバックに曲が始まる。レイのボーカルも出だしは非常に低いボリュームである。間奏のギター・ソロを挟んで曲調
ががらりと変わり、ビーバップ調になる。
また、この曲に限ったことではないが、ミック・エイボリーのドラムが中々良い。パイ時代にあった、「リズムがミスマッチのために、却って面白いアレンジ
になってしまいました」、というドラミ
ングではなく、タイトである。
歌詞は、穴居人(未開人)のエピソード(教育のおかげで友人が出来た)に仮託しつつ、「教育の重要性」を歌ったものである。だが、単なる教育万歳、文明
の発展万歳にならないところがレイらしい。むしろ、「情報量が多過ぎて、頭が変になりそうだ」、と主人公に歌わせている。更に、「先生、あなたは何故僕が僕であるのか、教えられませんね」と
も言っている。まるで、ザ・
フーの"Real Me"じゃないか。
なお、穴居人に教育を施したのが一体誰なのか、こ
こでは全く不明である。しかも、この穴居人、神には感謝しても、教えてくれた人には感謝していなさそうである。神が教育したとでも言うのだろうか。
4. The First
Time We Fall In Love
3連符のロカビリー調ミディアム・テンポの曲から始まり、アップテンポのマイナー調の曲を挟んで、ドゥ・アップ調の曲に展開されるという、3つのパート
からなる曲。最初のパートでは、レイもエルヴィス・
プレスリーを真似たようなスタイルで唄っている。最後のパートでは、ザ・フーの"So Sad
About Us"に良く似たリフが使われている。
歌詞は、タイトルにもあるように、「僕らが初めて恋に落ちたと
き」のことを歌ったものである。しかし、「僕ら」と言うからには、相手の女性が出て来なくてはならないが、どこにも出てこない。歌詞が手紙の文面という可
能性が考えられるが、だとしても、「僕らはあの時のことを決して忘れない」という詞は、独りよがりが過ぎないか。第一、学生時代にこの主人公は相手の女性
に振られたことが、歌詞中で明らかにされているのだし。
結局、「出すはずの無い手紙を書いている」というのが、この曲の状況設定なのだろう。
5. I'm In
Disgrace
ピアノをバックにしたマイナー調のバラードで始まり、パワーコード・リフ主体のコーラス・パートになるという曲。
歌詞は、「君に初めて会ったとき/君は僕の夢の中の女王だった」で始まる。その後「三度目に会ったとき/君は僕に嫌悪感を示した」となっている。ハテ、
M4に出てくる初恋の女性と、ここに出てくる女性は、同一人物なのだろうか。それとも別人なのだろうか。どうも、別人のような気がする。しかも、時系列と
して、こちらはM4の後日談であろう。
ここでは、主人公の初体験が暗示されている。しかも、強引にコトに及んだようである。「レイプじゃない/過ちだったんだ」という言い訳は、聞かされるこ
ちらが呆れてしまうが、とにかくその一件は学校中に知れ渡ることになったらしい。"I'm in
disgrace"(「僕は面汚し」とでも訳せばいいのだろうか)に呼応して、コーラス隊が"He's in
disgrace"と歌うのは、同級生たちが主人公を糾弾しているのであろう。その割には、メロディが明る過ぎるが。
6. Headmaster
これもM6と同様にピアノをバックにしたマイナー
調のバラードで始まり、パワーコード・リフをバックにしたサビのパートになるという展開をしている。その後、デイヴのギターソロを挟んで、再びサビのパー
トが繰り返さえて曲が終わる。本作中ではデイヴのギターソロが最も良い出来だと思える。
歌詞は、校長先生への主人公の謝罪という体裁になっている。「僕
はあらゆる規則を破りました/先生の期待を裏切りました/でも、どうかもう1度チャンスを下さい」、というのが大雑把な内容である。歌詞の最後に、「校長
先生、僕のズボンを下げないでください」、という一節があって、これが表ジャケットの絵になっている。
ただ、尻をむちで叩かれるという罰が、一体どれくらいの重みを持っているのか、当方としては判断つきかねる。これが退学処分というのであれば、相当重い
という気がするのだが。
7. The Hard Way
アリスタ時代を先取りしたようなハードエッジなロックである。コードリフは、まるでザ・
フーの"I Can't
Explain"(いや、元々は"You Really Got
Me"が先じゃないかという話は置いておいて)みたいだし、ツイン・リード・ギターはシン・リジイみたいだし(もちろん、キンクスの方はオーバーダブした
のだが)、レイのボーカル・スタイルはミック・ジャガーみたいだし(いや、どっちが先か怪しいや)、といったお遊び満載のアレンジが施されている。
歌詞は、先生の主人公への説教である。先生が前出の校長なのか否かは、ここでは明らかにされていない。「今のような行いを続けていると、いつかしっぺ返
しを食らうぞ/辛い人生が待っているぞ/もっと楽な人生になるように行いを改めるんだ」、というのが説教内容なのだが、主人公に対して親身になって説教し
ているとは言い難い。「それぞれ(主人公と教師)、我が道を行けば良い/どちらが生き残れるか、やがて分かるだろうから」という説教もあるからである。
歌詞の最後のパートは、意味不明なのでパスする。主人公と先生の両方がヤケになっているのだろうか。
8. The Last
Assembly
キーボードをバックにしたバラードである。メロディはありきたりのレベルである。
結局、主人公は無事卒業できたのだろうか。ここでは、「最後の集会」となっていて、"graduation"(卒業)という単語が使われていない。ま
た、友人が登場して一緒に歌っている一方で、先生が全く登場しないのは、どうにも変である。
9. No More
Looking Back
時を刻む音とドラムで始まる曲。一寸、パイ時代後期を思わせるような曲調である。デイヴのギターは、メジャー調の中にマイナー調のフレーズを織り込
ませたりしていて、工夫が感じられるのだが、饒舌かなとも思う。歌詞を読んでから曲を聴くと、最初に歌詞が出来てから、一旦映像化した後にメロディを作っ
たと思わせるような出来上がりである。
舞台設定は、ここで現在に戻っている。歌詞中に出てくる"you"は、特定の一人=かつての親友を指しているように書かれているが、具体的に誰かという
のは明らかにされていない。
歌詞の要点は、タイトルにも表れているが、過去を振り返ったり、思い出の中に生きる
ことをせずに、未来だけを見て生きることを、主人公が決
意したということである。ただし、そ
の決意は甚だ心もとないもののようである。以下にその根拠を示す。
まず初めのヴァースで、「混雑した通りを歩いていると/あの顔が眼に入ってくる」と歌われている。しかもこれは、単発の出来事ではなく、習慣的なことら
しいのだ。要するに、過去の思い出に異様なほどに囚われている。
次のヴァースで、「最近主人公と「君」(=かつての親友)が知っている場所を全て訪れ続けている」と歌われる。そして、「僕が君から解き放たれたと思う
と、僕は君を思い出させるものを見続けている」である。でも、「君がそこにいるわけではない/君は過去の存在ものだから」とも歌われているのである。
つまり、主人公は、過去の思い出に浸って生きようとしているわけではないし、ましてや過去と現在の区別が付かなくなっているわけでもない。過去と決別し
ようと努力しているのに上手く行かないということなのである。しかし、それならば、主人公は何故、過去を思い出させるような場所を、何度も訪れているのだ
ろうか。
10. Finale
M3の1フレーズを繰り返した曲。いかにも「ミュージカルはこれでおしまいです」と言いたげである。
(2004-8-21)
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