The Kink Kontroversy
"The Kink Kontroversy"は、3枚目のスタジオ録音盤として1965年ないし1966年に発表されている(資料によって異なるので、正確なところは不明)。モノラル録音である。本作に収められたのは12曲で、内1曲だけがカバーで残る11曲がレイの作品である。なお、"kontroversy"は、"controversy"が正しい綴りであるが、「論争」という意味がある。
よく言われていることだが、1965年からレイの作風に変化が見られるようになる。メロディの幅が広がったことはもちろんだが、特に歌詞において、「君と僕」の歌から第三者を観察した歌への変化については、よく知られているところである。しかし、本作に収められた曲に関する限り、第三者への言及という形式の歌詞は無い。「君と僕」の歌もしくは内省的な歌で占められているのだ。確かに、単純かつ性急なラブソングはM6くらいであり、変化が目立って来てはいるのだが。その一方、メロディに関しては幅が広がったことは確かだと思う。特に後のキンクスの方向性を決定付けるような、フォーク系統の曲が目立ち始めている。とはいえ、主体はブルースやR&Bである。
では本作では何が今までと異なるのだろうか。まずはボーカル・スタイルである。ボブ・ディランから影響を受けたようなM5(デイヴ)、M9(レイ)もあるし、以前だったら、ハードな曲にはシャウト気味のボーカル、穏やかな曲にはジェントルなボーカルというお決まりパターンであったのが、本作ではハードな曲にジェントルなボーカルを乗せるという新たな組み合わせを披露している。ただ、次作の「フェイス・トゥ・フェイス」に比べると徹底されていない感もある。レコーディングにあまり時間を割いていないためでもあるのだろうが。
更に、デイヴのギター・サウンドである。これは、M1、M4、M5、M6、M9、M11、M12、と至るところで聞くことが出来る。以前のキンキー・サウンドは低音弦を主体にしたコード・ワークが特徴であったが、本作では高音弦主体のコード・ワークが主体である。しかも、神経をかきむしるような歪んだ音。メタリックと形容してもいいかもしれない。本作はザ・フーの1stと同時期に制作されたのだが、両者は見事にシンクロしていて興味深い。また、キース・リチャーズがこの音を何とかして自分でも出してみたいと思っても不思議ではない。キース・リチャーズは"Sympathe For The Devil"で、本作で聞けるデイヴのギターのような音を出している(1968年)。残念なことに、デイヴ・デイヴィスは、ギタリストとしてはマニア以外にはあまり知られていない存在であるが、"You Really Got Me"でのファズ・ギターだけでなく、エレクトリック・ギター・サウンドの創造者として、もっと評価されるべきだと思う。
なお、本作にはピアノ担当としてニッキー・ホプキンスが加わっているようだ(正式なクレジットを見たわけでなく、ピアノの音からそう判断したまでである)。
以下、各曲ごとに言及して行く。
M1"Milk Cow Blues"は、唯一のカバー作品。1曲目にカバーを持ってきたという点が不可解でもあるが、メンバーにとってみれば自信作であるからこそ、平然と1曲目に据えたのかもしれない。タイトル通りブルースなのであるが、先ほど述べたギター・サウンドが素晴らしい。それだけでなく、一体感あるバンド・サウンドはライブ感覚に溢れている。ピート・クワイフのベースは、トレブル音を使い、リード・ベース調であるが、これは実に珍しい。なお、リード・ボーカルはデイヴが取っている。
M2"Ring The Bells"は、アコースティック・フォーク調の曲。PPM辺りを連想させてくれるが、M1のすぐ後にこれを持ってきたのは、聞き手への挑戦心からか。曲調に反し、歌詞の方は、「叫べ、ベルを鳴らせ/俺の存在を世界に知らしめよ」などと、どうも穏やかではない。当時キンクスは大人気バンドであったのに、これではまるで売れずにくすぶっている人間の言いそうなことではないか。
M3"Gotta Get The First Plane Home"は、一転して、R&B調の曲。ところがレイのボーカルはジェントルである。タイトル中の"plane"には「飛行機」、「平面」、といった意味があるが、この歌詞では両方に掛けてあるのではないだろうか。つまり飛行機の家と平屋建ての家ということである。ただし、何故それを手に入れたいのか、理由ははっきりしない。
M4"When I See That Girl Of Mine"は、モータウン・サウンドからダンスの要素を抜き取ってフォークと掛け合せたような曲。デイヴのコード・ワーク故かもしれないが、初期ザ・フーはこれに近いものがある。歌詞は、ある少女に片思い中の主人公の心境を唄ったものである。ブルースのような男性中心主義とは違うキャラクター造成である。かといって「ダメ男」と言うのではなく、ニュートラルである。
M5"I Am Free"は、つまり「僕は自由だ」という意味であるが、同様なタイトルの曲は、ストーンズもザ・フーも発表している。やはりR&Rと自由とは切っても切れない関係なのだろう。6/8拍子の曲(これは決して珍しくは無い)であるが、オールディーズ・ソングと呼ぶには縁遠い。上記の通り、ボーカルがデイヴでボブ・ディラン風のスタイルで唄っている。
タイトルで「僕は自由だ」と挙げておきながら、その根拠は、「そういう気分だから」だそうである。まるで「病は気から」と同じ類である。ここに、西洋文明への批判が読み取れなくも無いが、恐らくそれは買いかぶりというものであろう。
M6"Till The End Of The Day"は、本作中最も有名な曲で先行シングルとして発売されている。哀愁のあるメロディと硬質なギター・サウンド、グルーブ感のあるリズム隊、どれを取っても初期キンクスのベスト・ソングだと思う。完成度から言えば、"You Really Got Me"、"All Day And All Of The Night"より上だと思う(逆に後者の2曲はラフなところが魅力だとも言える)。歌詞の大意は、「君と僕は自由だ/朝から1日の終わりまで好きなように楽しむんだ」、である。彼女が出来たばかりの心境であろうか。あるいは、駆け落ちしたのかもしれない。両親や親戚の重圧から逃れて・・・
M7"The World Keeps Going Round"は、イントロの1発目のコードを聞いて、"A Hard Days Night"を思い浮かべてしまう。前後の曲に比べるとキャッチーさに欠けるので、忘れ去られてしまう可能性もあるが、後のサイケデリック・ロック時代なら、こういうメロディは受けたであろう。歌詞は、自然の雄大さと人間の小ささを対比させ、「心配事なんて役に立たない、それに関係無く世界は回り続けるのだから」という虚無感を表している。
M8"I'm On A Island"は、カリプソ風の曲で、本作中で2番目に有名な曲であろう。デイヴの硬質ギターは聞けないが、逆に後の作品と最もつながりがある作風であり、後期パイ時代を好む人にとっては、M6に勝るとも劣らないものになるだろう。ピアノが歪んだ音を出していて、これは珍しい。
歌詞は無人島に住み着いた主人公の心境について唄ったものだが、これを本音と取るか開き直りととるか、解釈の分かれるところである。
M9"Where Have All The Good Times Gone"は、イントロのコードはM6と同じだし、これもデイヴのギター・サウンドが聞けるのだが、それ以上にレイによるボブ・ディラン風のボーカル・スタイルが特徴である。おまけに、Aメロ(?)は"Like A Rolling Stone"のキンクス版という感じがする。レイの声が一寸かれ気味である。この曲でもニッキー・ホプキンスらしきピアノが聞ける。
歌詞の大意は、「楽しくて不安など全く感じなかったあの日々は何処へ行ってしまったのだろう」、としていいだろう。要するにビートルズの"Yesterday"と同傾向の歌詞である。しかし、それだけならば、偶然ですまされるのだろうが、実はレイは確信犯として"Yesterday"をパクっているのである。その証拠の歌詞を以下に載せよう。
yesterday was such an easy game for you to play
これでもまだ「偶然だ」などと言えるだろうか?
M10"It's Too Late"は、アコースティック・ギターでR&Rの典型的コードを弾いている曲。乗っているメロディもR&R調ではあるが、レイのけだるい唄い方のために、およそR&Rらしく聞えない(これがまた面白いのだが)。恐らくM9と同日の録音なのだろうか、これもレイの声がかれ気味である。歌詞の大意は、「君が謝ったって、もう遅過ぎるよ」というもので、レイの作品としては珍しい。
M11"What's In Store For Me"は、ストーンズの"The Last Time"と同じようなリズムの曲。リード・ボーカルはデイヴが取っている。歌詞は、将来を不安に思う心境を唄ったもので、「この先どんな運命が待ち受けているのか知りたい」という1行にそれが集約されている。「水晶玉があったらいいのに」という下りも全く同じである。
M12"You Can't Win"は、キンクス流ブルースと言えば良いだろうか。これもM9同様に、ニッキー・ホプキンスらしきピアノが聞ける。歌詞は、タイトル通り何度も「君は勝てない」が繰り返されるのだが、一体何において、誰に対してなど一切不明である。その上、「これ以上君に何が言える/これ以上君に何が出来る/悲しむことなんて無いさ/時は短い」と、これまた意味不明な歌詞が続く。身近な関係者以外には分からない様にした「当て付け」なのだろうか。
(2000-8-21)