人知れずの行為で充分だ 

 先日、某所で見たTV番組は、あるベテラン俳優一家が伊豆方面に旅行し、現地で娘が親孝行するという内容であった。私の性格からして見たくも無い内容であるが、入った店で流れていたので、どうしようも無かったのである。

 あらかじめ断っておくが、このベテラン俳優のことを私は嫌いではない。むしろ好きな部類に入る。しかし、今回の番組はいただけない。

 本来、俳優は演技力で勝負すべき存在である。もちろん、ルックスや声で勝負する俳優がいてもいい。逆に、私生活を売り物にするということは、本業が駄目とのそしりを免れない。

 それはともかくとしても、特番という形で私生活を公開するというのは、極めてこっけいである。そもそも、TVに映し出された時点で、既に本来の私生活とは別物になっているのである。カメラマンを初めとするスタッフは、普段の生活には存在しないのだから、これは当然であろう。結局のところ、「作られた私生活」に過ぎないのである。そんなものを、見たがる奴がいるのだろうか?

 だが、そういった議論を置いても、この番組が何よりも醜悪なのは、旅行先で娘が親孝行するという点である。
 あれ(ここでは省く)を親孝行と思うか否かという問題がまずある。例えば、費用をスポンサーが出していて、親の側もそれを承知していたならば、最早親孝行とは呼べないではないか。
 そうではなくて、娘が費用を出していたりしたとしても、やはり問題は残る。別に、お金を持っている人がお金を使うことに異を唱えるつもりはないけれども、TVでそれを映すのは嫌味でしかない。

 それとも、あの番組の意図は、娘の同世代の者に向かって、「あんた達も、こうやって親孝行しなさい」ということにあるのだろうか。だとしたら、とんでもない思い上がりだ。
(恐らく、そこまで考えていないとは思うが)

 ここで、別の見方をしてみよう。あの番組は「ヤラセ」であることが前提になっている、と考えるのである。つまり、視聴者は、俳優一家の行動や言動がすべて演技であることを承知の上で見ることが、(暗黙の)了解事項になっているということだ。実際、それに近いことを言う文化人も少なからず存在するようだ。しかし、それは100%制作者側に立ったものの見方である。試聴者に「演技であることを了解しながら見て下さい」などと言うのは、自分の能力不足を棚に上げた、傲慢以外の何者でもない。

 ところで、親孝行の場面を敢えてTVで放映させたということば、視聴者に疑惑の目を持たせることにはならないだろうか。つまり、「仮面親子だからこそ、TVの上では親孝行するのではないか」ということである。それとも、日本の視聴者の大半は制作者や出演者に従順で、疑う奴は変人扱いされるのだろうか。

 まあ、何はともあれ、親孝行など隠れてすれば良いことであり、別段他人にひけらかす類のものでもあるまい。

 

 

 

 

(2002-3-29)

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