
日本だけでなく遠くは中国,インド゙から伝わった1040もの物語からなる一大読み物
で、今 は残念ながら存在しない3巻も含め全31巻にまとめられています。1114年から1115年にかけて、東大寺を始めとする奈良の寺社の僧侶達によって編纂されま
した。31巻のうち最初の20巻には、ブッダの生立ちや仏教がいかにしてインド゙から中国を経由
して日本まで伝わったのかが書かれていますが、残りの11巻には、皇族,高級官僚,高僧か
ら下級官僚,庶民にいたるまで当時のあらゆる階層の人間模様を描いたより人間味溢れる物
語が数多く綴られています。まさに人間そのものの大パノラマと言うことができるでしょう。
源氏物語が洗練された知的貴族社会の文学である一方、今昔物語は自己中心的でありのままの人間性を描いた一般大衆の文学と言えるのではないでしょうか。その名の通りひとつひとつの物語が「今は昔…」で始まり「…とだったそうな」で終わり
ます。
日本人のほとんどが学生時代古典の授業で今昔物語のいくつかに触れていることでしょう。もちろん私も例外ではありません。先般、私は友人宅で月に一度開かれる婦人会の席
でプロの俳優による今昔物語の朗読をきく機会がありました。「稲荷神社の美女」とい
う物語の古文と現代文の両方による朗唱を聴いた後、私達もプロの俳優に続き古文でその物
語を朗読してみました。古文が醸し出す独特の美しいリズムと、ユーモラスながら悲哀感を誘うその
物語を私達は十二分に堪能することができました。物語に登場するその人妻に、私は14世紀イギリスのGeoffrey
Chaucerによって書かれた「The
wife of Bath’s Tale」に出てくる女性を思い出したのです。
このことがきっかけとなり、私はさらに他の今昔物語を読みそれを自分自
身の勉強の為に英語で表現してみたいと思い立ちました。18の日本の古い逸話と中国・インド
からの物語をそれぞれ1つずつ選び、できるだけオリジナルに忠実に且つ生きた自然体の英語に訳すよう心がけました。外国人の方々が日本の古代文学を楽しみ、それを堪能する喜びを私
達と分かち合うことにこの本がお役に立てましたら非常に光栄です。
最後に、今昔物語を英訳するにあたり多くの励まし,助言を下さいましたDr.
Howard Levy先生に心から感謝の意を表します。
五十嵐 起世子