竹取物語
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キャスト
ナレーター 水沢悠耶
かぐや姫およびその他 秘密







 ―――今は昔竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて竹をとりつゝ、萬の事につかひけり。名をば讃岐造麿となんいひける―――。
「ああもうやめやめ。頭痛くなるから原文をまんま読むのやめろよ」
 桂。
 現役高校生が何云ってんの。
「俺は古文が死ぬほどニガテなの」
 ……へえ。それは初耳。
「俺の頭脳は理系なんだ」
 ふうん。
 君を作った水沢も知らなかったよそれ。
「…ふざけんな。設定集とかいうメモ書きにちゃーんとあるだろうが」
 (桂の手からメモを受け取って)ほんとだ。すーっかり忘れてた(笑)。っていうか、そんなことどうでもいいの。きちんと演技しなさいよ。
「でもさあ、なんで俺が爺さんの役なんだよ〜」
 いいじゃないの。けっこう重要な役だし。
「まあ、そうだけど」
 ほらほら。
 さっさと先に進めなさいって。
「あーあ。めんどくせー。…と、これからどうするんだっけか。ああそうか、山に行って竹を取りに行くんだったな」
 気を取り直して、今日も翁は山へ竹を取りに入ります。すぐにいつも竹を取っている場所にやってくると、背中にしょっていた籠をおろして、空が見えないくらいの高さまで生えている竹を見上げました。
「しっかし、うんざりするくらい生えてる竹だよなあ。これほんと、俺切るわけ?」
 そうよ。しっかり切りなさい。
「うざってぇ」
 文句いわない。
「だったらアンタがやればいいだろう?」
 だって水沢、ただのナレーターだもん。
「汚い。大人って汚いっ」
 そんな嘘泣きしてみせてもだめ。さっさと切りなさいって。
「ちぇ。俺のことお気に入りだとか抜かしてるくせに。この扱いはなんなわけ?」
 あのね。桂、君竹取物語の話知らないの?
「知ってる。すっげー美人がでてくる話だろ?」
 そうそう。
「いいなあ。そんな美人なら会ってみたいよなあ」
 会いたいならさっさと竹を切りなさい。桂が切らないとその美人に会えないわよ?
「あ。そっか。竹から出てくるんだよな」
 そういうこと。判ったら、ほら、これもって(鎌?を渡す)。
「さんきゅ。じゃ、がんばるか」
 桂は急に元気になって、かんかんと音をたてて竹を切ります。竹は見かけは細くて切りやすいように見せますが、やっぱり固いのでかなり力がいる仕事です。
 それでも翁はがんばります。
 一本、また一本ともくもくと切っていきます。
 そうやって何本切ったのでしょうか、ふと気づくと一本の竹からちかちかと光が漏れていました。何だろうと近づいて耳をあててみるとなにやら声が聞こえます。
「開けろー」
 ?
 そんな声する予定だったっけ?
「でも開けろってよ」
 そ、そうね。
 ここはひとつ切ってあげて。
「りょうかーい」
 翁は注意深く、光る竹を切りはじめました。かつんかつんと固い音がして、竹が少しづつ割れていきます。
「よいせっ」
 掛け声とともに、とうとう竹が割れました。汗をふきつつ翁が切り口を除くと、そこにはなんと。
「あ?」
「おっせーよ。桂。俺待ちつかれちゃったって」
「…………。」
 翁が驚くのも無理ありません。な、なんと、そこにいたのは可愛らしいオンナの赤ちゃんでした。
「オンナ?赤ちゃん?どこが?」
「ふざけんなっ。俺オトコだぜ?」
 ま、まあまあ。この話はそういうことになってるんだから。
「おいおいおい。もしかして」
「?なんだよ桂。じろじろみんな」
「こいつが、奈槻が美人さん?」
 あったりー。
 ほら、天使みたいな顔した美人さん。ね?
「まあ確かにこいつはカワイイ顔してるけど」
「天使いうなーっ」
 こら。奈槻、暴れるんじゃない。
「だから俺この役やだったんだよう」
 でも納得したはずでしょ?
「う。それは…」
 だったらぐだぐだいわずさくっと演技なさいって。この話はね、奈槻の働き次第で素晴らしいものになるか、それともしょうもない駄作になるかが決まるのよ。
「はあ」
 仮にも40000HIT記念の演劇なんだから、駄作になんてしてごらんなさい?そんなことしたら誰が許しても水沢が許さないからねっ!!
「………。」
「……すげ、水沢。気合入ってるじゃん」
 この劇の出来如何では、今後の君たちの待遇も変わるから。そこんところをしっかり理解しなさいよ。
「ひえ〜」
「わ、判ったよ。できるだけがんばるって」
 よし。
 それじゃ続き行きましょう。
 翁は、竹のなかに入っている可愛らしいオンナの赤ちゃんを抱き上げ…ようとしましたが、それは嫌だと赤ちゃんが暴れ出したので、仕方がなく手をかして竹から出るのを助けてあげました。
「さんきゅ、桂」
「いーえ。どういたしまして」
「お礼にいいものやる。そのへんの竹2、3本切ってみろよ」
「また切るのか?」
「俺も手伝ってやるから」
 二人で竹を切ると、その中には大判小判やらがざくざくっと詰まっていました。
「すっげー」
「だろ?これ、当面の生活費」
 翁は喜んで赤ちゃんを家につれて帰ることにしました。名前もないのも不便なので、竹から生まれたことから「なよ竹のかぐや姫」と名づけました。
 このがぐや姫、瞬く間に成長した…というよりも最初っからある程度育っていましたが、翁は姫が日に日に美しく(元気良く)なっていくのを、まるで自分の子供(彼女)のように喜んでいました。
「ほんと、奈槻カワイイよなあ」
「…カワイイいうな」
「だって、こんなに着物が似合う高校生ってそんじょそこらにはいないと思うぜ?」
「誉められた気がしない」
「なんで?絶賛してるのに」
「ふざけんなっ。おもしろがってるだけのくせに」
「お。さっすが幼なじみ。だてに長年つきあってねーな」
「桂ー!」
 ……騒がしいですねえ。
 とまあ、こんなかんじで仲良く暮らしていましたが、ひとの噂とはどこから漏れていくものか判りません。かぐや姫の類まれな美しさは、いつのまにか京中に噂として広がってしまいました。
 それでも二人は知ったことかと、日ごとに多くなる姫あての恋文を適当に蹴散らしつつ、悠々自適に暮らしていましたが、ある日とうとうしびれをきらした求婚者が翁の家を訪れました。
 家の門に並んだ男たちは全部で5人。どの貴公子も噂に聞くかぐや姫の美しさを想像するだけで、頭がやられてしまってました。
「やられてないっ」
 あら。
 反論があるようですが、それはとりあえず無視して、と。それじゃ求婚者さんたち順番に自己紹介してください。
「それじゃ、俺からいくわ。一番、石造皇子と申しまーす」
「アンタ、高梁サンじゃんか」
「僕は車持皇子」
「うげげ。望月だあ」
「阿部御主人だ」
「…なんだって神原サンがこんなとこにいるんだよ?」
「知るか。水沢に呼ばれただけだ」
 そこで噛みつかないの、桂。
 話はあとでしてちょうだい。
 それじゃ、次のかたどうぞ。
「大伴御行」
「磯上麻呂、なんだってさ」
 あら。リョーちんとタカヒロじゃないの。来てくれたのねv
「来ないとどうなるか判ってるわね?…なんて脅したのは誰だよ」
 おほほ。
 そんなこと云ったかしらリョーちん?
「健忘症」
 むか。
 後で覚えてらっしゃい、タカヒロ。
 さて、気を取り直して続きいきましょう。
 この5人の貴公子はかぐや姫がいくら断っても求婚をやめません。何度も何度も家に通ってはかぐや姫に会わせてくれと云い続けます。いい加減うんざりしてしまった翁とかぐや姫と相談して、5人の求婚者たちにある難題をふっかけることにしました。
「高梁。アンタは仏の御石の鉢ってものを持って来てくれよ」
「あのねえ奈槻くん、俺は先輩でしょ?呼び捨てってどうにかならんわけ?」
「……アンタ、俺に何をしたか忘れたのか?」
「う」
 まあまあまあ。
 ったく、どうでもいいけどもうちょっと協力しなさいよ。
「かったるいからちゃっちゃとやろうぜ〜。えっと望月は蓬莱の玉の枝っつーのを持ってくること」
「めんどくさいなあ」
「神原サンはね、火鼠の皮衣を持って来てください」
「……(深いため息)了解」
「リョータさんは龍の頸の玉、タカヒロさんは燕の子安貝をそれぞれよろしく」
「ほんとにやるわけ?」
「ったく、かったるいよなあ」
 文句云わずやりなさい。
「判ったよ」
「へえへえ」
 頼まれたものを一番早く持ってきたひととかぐや姫は結婚することを承諾しました。
 がぜん5人の貴公子たちははりきって出かけます。が、頼まれたものはすべて入手が困難なものばかりでちょっとやそっとじゃ手に入れられるものじゃありません。
 ところで奈槻。どうしてこんな難しい名前のもの知ってるのよ。
「竹の中に入る前に、もしものときに使えってメモ書きを渡された」
「誰にだよ?」
「……云えない」
 まあ、誰になのか検討はつくけど。
「だよなあ」
「………。」
 まあいいでしょう。
 そうこうしているうちに、瞬く間に月日がたっていきました。そしてちょうど一ヶ月がたったある日、かぐや姫に云いつけられた品物を探していたはずの5人が戻ってきました。
「おかえり〜」
「…………(怒)」×5人
 おや。
 5人とも行きとはだいぶ様子が違います。着ているものもボロボロで、さぞかし大変な目にあったのだろうということが判ります。
「判ります…じゃねえって。ほんとえらい目にあったぜ」
 お疲れさま。
 それでみんなちゃんと持ってこれたの?
「……………」×5
 何。
 その沈黙は。
「まあ、いいじゃん。みんなそれぞれなんか持ってるみたいだし、見せてもらおうぜ」
「そうだよな。せっかくだしな」
 じゃ、見せてもらいましょう。
 まずは高梁から。
「はいどーぞ。ご所望の仏の御石の鉢でっす」
 無造作に掴んでいた鉢をどんと目の前に置きました。仏の御石でできた鉢というくらいだから流石にキレイ…にはとても見えません。かなり年季がはいった品物のようで汚れまくっています。はっきりいってしまえば汚いです。
 かぐや姫はそれをじっくり見ることもなく一言。
「これ違う」
「なんで判るわけ?」
「だって、仏の御石っていうくらいすごい石でできてる鉢なはずなのに、こんなに汚れてるはずねえもん。どんなに古くたってぴかぴか光ってるはずだよ」
「あー、なるほど」
 確かにそうです。
 神さまの石だったらそれくらいできそうな気がします。
「やっぱばれたか」
 石造皇子は悪びれず肩をすくめました。
「実はそこらへんに落ちてた石で鉢を作ってみたんだ」
「高梁サンが?」
「そう。上手いだろ?」
「へえ、すげえじゃん」
 かぐや姫と翁は鉢としては立派なそれを興味ぶかげに眺めます。
 なんだか感心するところが微妙にずれてる気がするんだけど…まあいいか。
 結構高梁って器用なんだね。
「まあね」
 あ。
 嬉しそう。
 でも、いくら鉢が立派でも所詮仏の御石でできた鉢とは比べようがありません。石造皇子はしぶしぶ求婚を諦めました。
「最初っからそんな気ねえよ。ま、ちゅーくらいしてもらおっかなあとは思ったけど」
 あーあ。
 そんなこと云っていいのかなあ?
 ね、怜?
「………ふうん。そういうこと」
「れ、怜」
「ま、いいけど。じゃ次は僕の番。はい、これが蓬莱の玉の枝だよ。別名優曇華の花 」
 うろたえる石造皇子をキレイに無視して、車持皇子はビニール袋からそれを取り出して見やすいように置きました。
 蓬莱の玉の枝というのは、遥か遠い東の海のむこうの蓬莱山にある、不老不死の薬となる玉をつける枝のことです。ちなみにその枝は、根は銀、茎は金で白い実をつけた木らしいです。
 興味深々で覗き込んだ翁は思わず叫びました。
「すっげー。ぴかぴかじゃん」
 無理もありません。
 車持皇子が持ってきた枝は素晴らしくキレイなものでした。
 それをじっくりチェックしながら、これはヤバイかもしれないとかぐや姫は焦りはじめました。この枝はどこからみても本物のように見えます。けれど結婚などしたくありません。でもどうすればいいのだろうかと考えはじめました。ですが、もともとかぐや姫は頭を使うことが得意ではありません。助けてくれとばかりに翁をみても、かぐや姫のほうをにやにや見ているだけで手助けするようすはありません。おもしろがっているのがありありと判って、かぐや姫は大きく舌打ちをしました。
 こらこら舌打ちなんて下品なことしないの。仮にもかぐや姫なんだから。
「どう?」
 車持皇子はどうだとばかりにかぐや姫を見ます。もともと勝ち気な車持皇子は、かぐや姫のことがあまり好きではありませんでしたから、この際おもいっきり云うことをきかせてやろうじゃないかともくろんでました。
 …でもさ、君、かぐや姫に求婚者してたんじゃなかったっけ?
「なんで僕がこんなやつと結婚しなくちゃならないのさ。冗談じゃないよ。僕はこいつが嫌いだからイヤガラセしたいだけ」
 ふん、とひとつ鼻を鳴らす車持皇子。その姿は大変可愛いものでしたが、かぐや姫には逆効果にしかならず、むかむか嫌な気分にさせられます。
「僕に今ここで土下座して謝ったら、この話チャラにしてあげるよ」
「なっ」
「だって僕、ちゃーんと本物持ってきたじゃない。それなのに約束を破るっていうんでしょ?だったらそれなりのことはしてくれなくちゃ」
「オマエだって俺と結婚する気なんかなかったくせにっ」
「それとこれは別問題。ね?水沢サン」
 そうね。今回は望月くんのほうが正しい。奈槻、どうしても結婚が嫌だっていうなら土下座くらいする心構えで謝りなさいよ。
「うげえ」
「仕方ねえじゃん。さっさとやれよ奈槻。それかいっそ結婚するか?」
「おもしろがってるんじゃねえ、桂!」
 かぐや姫は追いつめられてしまいました。きり、と唇を噛み締めながら、竹に入る前にメモ書きを渡してくれた人間に役立たず、と内心で毒吐きます。
 けれど結婚したくないのだから仕方がありません。諦めて土下座しようと姿勢を正したその時。
「あれ?」
 それまで興味なさそうに枝を手にもって弄んでいた石造皇子が間抜けな声をあげました。一同それにつられて彼のほうに視線を向けます。
「なんなのさ」
 車持皇子がイライラしながら聞くと、石造皇子はにやりと笑いながら手にしていた枝をひっくりかえしみんなに突き出した。
「これなーんだ?」
 よくよくみてみると、枝の先に小さく値札がくっついていたのでした。 
 これの意味することはひとつ。すなわちどこかで購入したということでしょう。
「ってことは、これもニセモノか。よかったぁ」
 かぐや姫大きくため息をつきました。心底安堵しているようでした。
 一方、ずるがばれてしまった車持皇子はけろりとした顔をしています。
「あーあ。ぬかったなあ」
 価格タグをとって指先でくるくると丸めて捨てました。そんな様子をみながら石造皇子が声をかけます。
「惜しかったな。もうちょっとで奈槻くんと結婚できたのになあ?」
「………」
「怜?」
「…したくないよっ」
「は?」
「あいつと結婚なんてしたくないって云っただろっ」
「ああそうか。イヤガラセしてやりたかったんだよな」
「それもあるけど…」
「他にもあるのか?」
「………教えない」
 作者である私には判ってます。うふふ。
「何?」
 よろしい。特別に教えてあげようじゃないか。
 望月くんはねえ、高梁が奈槻と結婚するようなことになったら困るから必死になったんだよねえ?
「ち、ちがっ!!」
 だから、高いお金出して職人さんにわざわざ本物そっくりに作らせたんでしょう?
「……違う」
 あらあら。
 真っ赤じゃない。かーわいー。いいねえ、高梁ったら。こんなに恋人に愛されてるじゃん。
「そ、そうなのか」
 こら。アンタまで赤面してどうする。
「慣れてないんだよっ」
 ま、とにかく二人でゆっくり話しなさいって。ね?
「あ、ああ。とにかくちょっと休むか」
「………」
 赤面した二人は大人しく、どこかに出ていってしまいました。




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