借家人賠償責任保険について (借家人の失火による債務不履行責任と保険カバーについて) |
|||
| T.失火による賠償責任 | 備考 | ||
| 1.延焼先が被った損害に対する賠償責任 失火により隣近所に損害を与えた場合の火元の責任は、故意又は重大な過失による失火でない限り、「失火の責任に関する法律」によって免除されます。 〔参考〕 ・「失火の責任に関する法律」 民法第709条の規定は、失火の場合にはこれを適用せず。ただし、失火者に重大なる過失ありたるときは此の限りにあらず。 (注)我が国では、木造建物が多いこと、住宅密集地が多いこと、火災の原因に強風など人間の力以外の要素が多いことなどから失火者に不法行為責任を負わせない趣旨で、明治32年に制定施行されました。 ・「民法709条(不法行為の要件)」 故意又は過失によりて他人の権利を侵害したる者は、これによりて生じたる損害を賠償する責に任ず。 |
・「重大な過失による失火」と認定された事例 イ.札幌地裁(S53.8.22) 六畳間のベットから50センチの距離にある電気コンロを点火したまま就寝。 ロ.札幌地裁(S51.9.30) 屑かご代用のダンボール箱に数時間前に使用した石炭ストーブの灰を投棄したところ、約10時間後に出火した。 ハ.東京地裁 サラダ油の鍋をガスコンロにかけて点火したが、来客があったので離れたところ、ガスコンロの火が鍋の中の油に引火し、建物を全焼した。 |
||
| 2.借家人の失火による損害に対する賠償責任 借家人の失火による隣近所の損害および同じ建物内の他の借家人の損害については、上記1.で述べたとおり、借家人に故意または重大な過失がない限り、「失火の責任に関する法律」により損害 賠償責任を免れます。 しかしながら、家主に対する関係においては、債務不履行上の賠償責任が生じてきます。借家人は借用建物(又は戸室。以下同じ)を善良な管理者の注意をもって保管する義務があり(民法400条)また借用期間が満了となった際に借用建物を原状に復して返還する義務があります。 したがって、借家人の過失によって火災・爆発などの事故が生じ、家主の建物に損害が生じたときは、借家人は家主に対し借用建物返還義務が履行不能になることによる損害賠償責任(民法415条)を負わねばなりません。 |
・債務不履行責任に基づく損害賠償の範囲は、喪失利益の損失にまで及びます。 | ||
| 3.賃貸借契約における賠償責任条項の実態 賃貸借契約上に賠償責任条項がなくても、上記2で述べたとおり借家人の過失による損害については債務不履行責任が生じるものと解されますが、一般的には賃貸借契約に賠償責任条項が規定されています。 |
・単に、原状回復義務を借家人に課してい る契約書もあります。 | ||
| 4.履行補助者(家族、同居人等)および転借人の失火による場合の責任関係 (1)履行補助者(家族、同居人等)の失火による場合 家族、同居人等のいわゆる履行補助者の過失によって火災などの事故が生じ、借用建物に損害が生じたときは、借家人の過失として借家人自身が損害賠償責任を負わなければなりません。 (2)転借人(従業員等)の失火による場合 家主に無断で転貸した場合は、上記(1)と同様、借家人(=転貸人)は転借人の過失について損害賠償責任を負います。 しかしながら、借家人が家主の承諾を得て転貸した場合に、転借人の過失について借家人が責任を負うかどうかについては次の二説に分かれています。 イ.借家人が損害賠償責任を負う。(判例) ロ.借家人が損害賠償責任を負うのは、借家人が転借人の選任・ 監督に過失がある場合に限られる。(学説) |
|||
| 5.損害賠償の範囲 ―損害賠償が及ぶのは賃借部分のみか、建物 全体か― 損害賠償の範囲が、当該賃借部分(専有部分)のみなのか、それ ともこれと構造上不可分一体をなす他の部分にまで及ぶのかどうか については、判例上、下記の通り確定していません。 イ.借家人は、当該賃借部分のみならず、これと構造上不可分一体をなす隣接部分に対しても賠償責任ありとする判例[大阪地裁54.3.26、東京地裁47.12.20、東京高裁40.12.14] ロ.借家人は、賃借部分の保管義務を負うが、躯対部分や共有部分の保管義務は大家が負うものとし、賠償責任の範囲は賃借部分に限るという判例。[東京地裁51.3.31] |
|||
| 6.借家人の債務不履行責任に関する判例 判例については〔別添〕のとおりですが、今後、権利意識の普及と ともに、借家人に損害賠償請求を行う家主が増加してくるものと思 われます。 |
|||
| U.債務不履行責任に対する保険カバー | 備考 | ||
| 1.火災保険を利用する方法 家主自身が火災保険を付保する方法と、借家人が契約者となって家主のために火災保険を付保する方法とがありますが、火災保険を利用する場合には次のような問題があります。 イ.一部保険の場合、損害額と家主に支払われる保険金との差額部分は損害賠償請求の対象になります。 ロ.アパート、賃貸マンションの借家人が契約者となる場合、建物全体を付保しなければなりませんが、保険料負担の面で借家人全員の同意を得ることが前提となります。 ハ.債務不履行責任に基ずく損害賠償の範囲は、民法416条の規定によって相当因果関係のおよぶ範囲の全ての損害です。したがって、火災保険で補償される物損害および費用損害だけでなく、喪失利益の損失や慰謝料にまで及びます。 |
・借家人の故意・重過失による損害の場合は、借家人は家主に保険金を支払った保険会社から(保険代位による)損害賠 償請求を受ける可能性があります。ただし、軽過失による損害の場合は「代位求償権不行使条項」により保険会社は借家人に対する求償権を行使しないことになっています。 |
||
| 2.借家人賠償責任担保特約を利用する方法 借家人賠償責任担保特約は、借家人が火災・破裂又は爆発事故により、借用戸室*(一戸建てを含む)を滅失、毀損又は汚損した場合に、貸主に対して負担する法律上の賠償責任を補償するもので、借家人の失火による債務不履行責任に対する保険カバーとしては最適です。 *マンションの他の戸室や共用部分に損害が波及し、借家人が当該部分について債務不履行責任が課された場合にも、本契約で補償される。 なお保険金で支払われる損害賠償金には次の費用が含まれる。 イ.復旧費用 ロ.得べかりし賃貸料 ハ.残存物取り片付け費用 など |
・失火で借用戸室以外に損害を与えた場合には、一般的には「失火の責任に関する法律」により責任を免除されますが、借家人の重過失による損害(下記損害例参照)については、法律上の賠償責任を負担しなければなりません。この場合には、個人賠償または施設賠償で補償します。 ○隣家の家屋に生じた損害 ○マンション隣接の家財の損害 ○第三者の身体障害事故 ○マンションの他の戸室や共用部分の損害(重過失による不法行為責任) |
||
| 〔別 添〕 | |||
| 判例 1 (東京地裁47.12.20) | |||
| 1.建物の状況 木造2階建共同住宅 2.事故原因 賃借人が石油ストーブの自然点火ダイヤルを点火位置のままで放置して就寝したために、火炎が高くあがってカーテン等に燃え移り火災となった。 3.請求の根拠 重過失による不法行為責任、または賃貸借契約の債務不履行責任 4.請求額 イ.家屋の損害 200万 ロ.家財等の損害 100万 ハ.家屋の修復中に他に居住した費用 5万 ニ.喪失した家賃収入 35万 ホ.貸室部分の補修費 10万 ヘ.訴訟の準備に要した費用 15万 ト.慰謝料 105万 火災保険金 △120万 合 計 350万 5.判決 債務不履行責任(重過失による不法行為責任は否定) 6.認定額 イ.家屋の損害 144万 (注)「損害賠償義務は賃貸部分だけでなく他の部分に生じた損害についても及ぶ」 ロ.家財等の損害 18万 ハ.家屋の修復中に他に居住した費用 5万 ニ.喪失した家賃収入 9万 (注)当該賃借人の家賃のみ ホ.貸室部分の補修費 0 (注)これを認めるに足りる証拠なし ヘ.訴訟の準備に要した費用 15万 (注)支出金額がはっきりしない ト.慰謝料 30万 小 計 206万 火災保険金 △120万 計 86万 |
|||