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●『三文役者の死』(新藤兼人・新潮社)
殿山泰司ファンとして見逃せない。故人の親友新藤兼人がその素顔と魂を描く。人間の生き方の不可解さを思う。
●殿山泰司そっくりの田中小実昌『ボロボロ』(中央公論社)
幼少期から軍隊生活、戦後の不思議人間小実さんの飄逸な魂が形成されたのが汲み取れる短編集。
●小実さんとゴールデン街、そこで滝田ゆうをよく見かけた。『寺島町奇譚』(講談社)を読む? 見る? 独特の画風マンガを超えた優れた文芸書。ついでに『銃後の花ちゃん』(小学館)。おもしろうてやがて悲しき…。涙する。人間ってやつは!
●画といえば『気まぐれ美術館』(洲之内徹・新潮社)
戦前に弾圧された筆者の壮絶な体験から。芸術への熱色い思いが胸を打つ。
●戦争といえば太平洋戦争、相手はアメリカだったな。そのアメリカは強大国、なのに何故小説では短編に名品が多いのか? 『アメリカ短編小説興亡史』(青山南/筑摩書房)を繙いてみるのも一興。
●米短編の中の屈指の名品が『殺人者』(ヘミングウェイ・龍口直太郎訳・角川書店)
殺し屋が登場しないのに恐怖度最高。さすが、短編の名手。
●アメリカの国技は、ベースボール。精神至上主義の日本野球と違って、おおらかでエンターティメント。抱腹絶倒の『アンパイアの逆襲』(ロン・ルチアーノ/井上一馬訳/文春文庫)こんな審判がいたら、野球は百倍楽しかろう。
●マジメに野球を読むなら『ディマジオの奇跡』(マイケル・シーゲル/柴田裕之訳/池田優監修/宝島社)1941年、56試合連続ヒットのすべてを追う。その間に当時の社会、世界の情勢が挿入されて興味倍増。
●日本の『江夏の21球』(山際淳司/文芸春秋)を伴読してみるのもいい。日本シリーズでの奇跡のピッチングとその背景が興味をそそる。
●ディマジオにはM・モンロー、ハリウッドの大スターだ。彼女の伝記や謎の死をめぐる著書も多いが、女優伝記が多く、また面白いのもアメリカの出版界の特長。なかでは『いまの私』(ローレン・バコール/永井淳訳/文芸春秋)を一気に読む。かのボギーの実像からハリウッドでの人脈、内幕がファンとして興味津々、妖艶バコールの意外な一面も。
●妖艶といえば映画にも出演したオペラ界のトッププリマを描く『真実のマリア・カラス』(レンツォ・アッレグリ/小瀬村幸子訳/フリースペース)もすさまじい。金色の声を持つ台風とヘミングウェイが称したカラスの、恋に生き歌に生きたドラマ。オペラが好きになる?
●映画といえば゛淀川長治。世界で一番映画好きではなかろうか。その著書も映画愛に溢れているが『シネマパラダイス』(集英社)。この一冊でも映画館に行きたくなる。
●サヨナラおじさんの後継者はいないのか。イラストレーターで映画も作った和田誠に期待したいのだけれど。彼と三谷幸喜の対談集『それはまた別の話』(文芸春秋)も、ファンにはこたえられない。そういえば阿佐田哲也の『麻雀放浪記』(新潮社)は、和田誠の映画監督第1作。壮絶なバクチ打ちの生きざまが心に残る。
●阿佐田哲也は純文学では色川武大。『怪しき来客簿』(新潮社)
泉鏡花賞にふさわしい怪しい人物像と人間観察がズシンとくる。
●阿佐田哲也の戦前からの芸人への愛情は驚嘆する。その著作も多いが、ここは『さらば愛しき芸人たち』(矢野誠一・文芸春秋)も一読を。破天荒な芸人の人生と芸を懐かしく思う。
●ノスタルジックに下町の世界にもう一度浸りたい。ならば、同じ芸人好きの小林信彦『和菓子屋の息子』(新潮社)で味わってみる。昔はよかったというのではなく、失われつつある日本人の心に迫る。
●下町といえば、池波正太郎。ご存知『鬼平犯科帖』1〜24(文芸春秋)
ファンの常盤新平曰く「落ち込んだときの鬼平」、同感。ビタミン読書だな。
●鬼平読めば『剣客商売』(新潮社)でスーパーシルバー、秋山小兵衛で老境の人も元気に。
●下町情緒も失われつつあるなら、日本語もそうらしい。『ニホンゴキトク』(久世光彦/講談社)
長く日本人の胸に刻みつけられてきた懐かしい言葉、町名への追悼。その喪失は、ホント腹立たしい。
●同じように怒るのが『日本語八つ当たり』(江國滋/新潮社)
ギャル語や役所語の乱れに、粋だけど頑固な筆者の一喝が。
●江國滋は俳句も一級。日本独特の文学、俳句も読みたい。やはり芭蕉が数多くて、選ぶのに苦労する。『芭蕉雑記』(芥川龍之介/岩波書店)
句作もする著者の鋭い観察。ちなみに彼の激賞句は「秋深し隣は何をする人ぞ」
●自由律俳句もいい。『山頭火の虚像と実像』(上田都史/講談社)
句作の飄逸さもさることながら、漂泊の生きざまは、常人は及ばない。
●その山頭火を題材にした『横しぐれ』(丸谷才一/講談社)
一種の推理小説。中世の詩歌から自由律まで散りばめられて知的興奮を覚える。
●俳人の多くは中国の詩人に傾倒していた。李白、陶渕明、杜甫…。『ロバに乗り杜甫の村へゆく』(白石かずこ/芸立出版)
閨秀詩人らしい繊細な観察の旅の記。美しい。
●女流作家でいま売れ筋は宮尾登美子。そして俳句とともに日本が誇る芸術、歌舞伎。そのスター海老さまを描いた『柝の音』(文芸春秋)
芸に対するひたむきさと異常な人間性、別世界梨園ものぞき見える。
●もうひとつの別社会、相撲界。『大相撲こてんごてん』(半藤一利/ベースボール・マガジン)
相撲用語と広辞苑と繙きながら解説、古事やエピソードが面白く、やはり異次元世界か。
●国技の相撲だけど、その相撲取りがゴルフをやる時代。国民的スポーツになったゴルフ。『生きがいはゴルフだけ』(ブルースホックス/アラン・ズーロ/二見書房)
米ゴルフ界の奇談珍プレー満載。寝ころんでゴルフを楽しめる。
●というわけで読書はきりがないし、20世紀も終わるから、今年中に『二十世紀を騒がせた本』(紀田順一郎/新潮社)で締めくくろう。
谷津田松安・65才・遊人・東京都
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