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Very short stories by Osamu Kimura



2002年10月11日

山口百恵

プレイバックPart2はあるのに、プレイバックはないの、
と山口百恵が言うので、
レイモンド・チャンドラーの小説でプレイバックというのがあって、それがPart1なんだ、
というと、山口百恵は怒り出して、口から牙を生やし、髪がぼさぼさの山姥になって目をむいた。
肩から竜の首を生やし、巨大化した山口百恵はもはや
怪獣キングギドラの真ん中の顔だげが老婆という不気味な姿で吼え、僕は今にも殺されそうなのたが、
山口百恵に殺されるなら本望だ、とのんきに思っている。


悪意について

山の手線の車両の端っこに年寄りや妊婦や怪我人の優先席があるが、
どうみても元気なのに堂々と座っている人がたくさんいる。
よく見ると車両には脚が悪い人が乗ってくるかもしれないし、
すでに具合がわるい人間が乗っているかもしれない。
優先席に堂々と座るということは、ほかに困った人間がいて、
そいつがどうもがき苦しんでも、自分は平気だという、
超攻撃的な悪意をあらわにする行為である。
優先席に堂々と座っている元気な若者を見た子供は、
世の中はかくも悪意に満ちていることを知り、
大半の人間は、ほぼ自分のためなら他人を喜んで殺す冷血なクズぞろいだと悟り、
チャンスがあれば殺される前にを殺してしまえ、と思うのである。

優先席に堂々と座ったり偉そうにするやつは、悪意を増幅させるばい菌なのだから、
一刻も早く抹殺したほうがいい。

でないと世界は悪意で埋もれてしまうのである。


安全圏

世の中には、自分が安全圏にいることを生きがいとする人がたくさんいる。
飢えからより遠い距離に、
貧乏からより遠い距離に
暴力からより遠い距離に
踏みつけられる立場からより遠い距離に
とはいえ、
いつも距離を取れるわけではないので、
そういう人たちはしばしば、何も見なかったことにするのである。

兄さん、それは危険な思想です。
保身ばかり考える奴は、抹殺しなければなりません。
糾弾、糾弾、糾弾、糾弾

おい、弟、シュプレヒコールが世の中を変えたことなど一度もないのだ。



2002年9月23日

夕暮れの境界

遠い砂漠で血の色をした夕日を見る。
俺は飛行士で空の色が褪せ、群青色に変わる場所を求めているのだ。
でも、結局、昼と夜の境界などわからず、
俺は、俺の機と夕暮れを通りすぎて夜に紛れ込んでしまう。
俺のとりえと言えば、動物と話せることだが、最近では、ときおり、身体に入る。
大潮の夕方、河口を遡った俺はアザラシの目で水面を見た。
俺は一年目の旅に出たアザラシ。
水はぬるく、ワセリンかバターのように固形のものに感じられる。
俺は魚を見てそれを追い、食べた。考えてしたことではない。
寂しくもないし、悲しくもない。
水に潜ったまま眠る。
眠っている内にどこかに流される。
5分おきに俺は無意識に浮かび上がり、息をしている。
ある夕暮れ、俺は、カラスで明治神宮あたりで、夕暮れの境界を思い、そのまま、木に降りる。
いやな感じではない。
もちろん人間でいるのも慣れているし、そもそも、俺は人間なのだが、
人間でいると、自分が凶暴になる気がするのだ。



木村修の夢日記 第二編
名刺

 2002年6月15日の夢。

田英寿が名刺をテーブルの上に出している。
それは直径約30p、高さ20pくらい。
洗面器のようなもので中には蝋(ろう)のような白い固形物が詰まっている。
白い蝋の表面。中央には小さな黒い円がある。
ちょうど目玉焼きの白身と黄身みたいだ。
黒い部分に名前が書いてあるらしいが読めない。
その名刺は中田の存在と哲学を表したものだと僕は思っている。


木村修の夢日記 第一遍
 斜面

 2000年22日に見た夢。

  エンジン音がする。金属的な音質はヘリコプターに似ているが音量はさほどではない。一戸建てが多い公害の住宅地である。見上げると、P−3Cを思わせる葉巻形の機体が超低空を低速で飛んでいる。エンジン音はひんぱんに強まったり緩まったりしている。ソフトをインストールするときのCD−ROMみたいな具合だ。
  よく見ると葉巻形とはいえ、後ろが寸詰まりになっていて、主翼は水平尾翼があるべき位置にあり、翼についたプロペラは4基。プロペラの回りは銀色の円筒で覆われている。この変形飛行機は右に旋回するところだった。あまりの低空飛行に、窓の中がはっきり見えた。背広を着た男達で寿司詰めになっていて、なぜか男達は立ちあがり、万歳を繰り返している。
  どうやって浮力を得ているのか不思議になるほど、変形飛行機は低速になり、ゆっくりと進んでゆく。どうやら垂直離着陸が可能な機体らしい。飛行機は広い芝生の庭のある赤い屋根のある家に降りて行く。赤い屋根はディズニーランドの「ミニーの家」みたいに丸みを持って歪んでいて、巨大な亀の甲羅みたいだ。赤い甲羅の真ん中はぽっかりと穴が空いていた。その穴に飛行機が降りると、機体そのものが蓋になって穴はふさがった。飛行機はすっかり赤い甲羅に同化してしまっている。着陸の成功を祝っているのか、まだ万歳の声が聞こえる気がした。
  住宅地の広いまっすぐな道路から、私はそれをみている。
「あれは、樋口って家で、大きな会社をやっているんだよ。昔からある家さ」
  そばにいた60くらいの男が言った。男は薄い灰色のズボンに、同じ色の長袖のポロシャツ。黒ぶちのメガネをかけている。人のいい小学校の教員といった風情だ。
  もちろん、あんな飛行機を飛ばしているんだから大金持でないとおかしい。男は、この町に長く住んでいるらしい。よかったら、ちょっと寄っていきませんか。年配の男は私に言った。
  男の家はその道よりもさらに北側にある道沿いにあった。

  この町は東西に真っすぐにはしる電車の路線の北側にあり、駅から離れるほどに土地が高くなっているのである。私の家は飛行機の家よりも駅よりなのだが、男の家のあるあたりはかなり駅からかなり離れていて、勾配があり、道と敷地の間にも3mほどの段差があった。
 その家の奥は更に高くなって、裏山というか、崖みたいに切り立っているのである。そこから水が湧いていて、木々に覆われたひんやりとした庭の一画にテーブルと椅子があり、私は男と向き合っている。
  確かに、駅からゆるやかに上り勾配になっているという認識はあったが、ここに来てみると、まるっきり山の上から斜面を見下ろしているような感じだ。麓には夏を思わせる濃い緑の森や牧場が広がっている。駅に続く道沿いに建物は連なっているが、ほとんど田園地帯の風景である。
「見晴らしがいいですね。建物がこれほど建つ前なら、駅まで見渡せたんじゃないですか」
「それはどうかなあ」
「ここが頂上になるんですか」
「いや、裏にもう一筋道がある。そっちのほうがもっと高いよ」
 男は、ガラスの瓶を手に持っている。ジャムの空き瓶のようだ。瓶には2匹のカタツムリと葉っぱが入っていた。男の手を蟻がはいあがってゆく。
「それより、これを飲まないかい」
  男はジャムの空き瓶に湧き水を汲んで差し出した。蟻がまだ手を這っていたし、少し濁って見えたので遠慮した。
  男の細君は随分と若い。せいぜい30代の前半といったところで、美人と言えなくもない。
  夫妻は門を出てしばらく左に歩いたところにある交差点まで送ってくれた。田舎道で他に人通りはない。駅に向かって続く下りの坂道の入り口だ。
  自転車かキックボードで帰ろうとしている。
  私はいつの間にか、幼い妹とおり、一緒に帰ることになっている。
 しかし、私に妹はいないはずだ。見ると、それは2歳になる私の娘だ。顔は見えないが、靴下が見える。「クック(靴のこと)」と言っている。靴を履きたいということだろう。男の細君は足にオリーブオイルを塗るといいのよ、と言い、緑色のオイルを私の足に垂らした。足の角質化したところにオリーブオイルが染みこんでゆく。この急勾配をこれから下るのである。

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