時の林檎
中編 (キツネ)
それは 星も カリンと凍って 針葉樹の 枝に
引っ掛かって しまいそうな 寒い日のことでした。

僕は一人で ゆくあてもなく 白い道を
ポトポトと歩いていました。

すると 暗い植え込みの影に 一匹のキツネが
ふいっと人待ち顔で 立って いるのが見えました。

「やぁ!」とキツネは 僕を見ると 短く挨拶をして
三日月のような目を 銀色に 光らせました。

その 光にみちびかれるように 僕は 今迄のことを
手短に キツネに 話しはじめました。

「時のリンゴ」を探して ずっと長い旅をしていると・・・

僕の言葉が 闇の中に 白い息とともに 吸い込まれるのと
同時に キツネは 急に哲学者のような顔になって 語りだしました。

「時のリンゴは 探している人 が 誰しもが手に入れられるものでは
ないんだよ。そうだなぁ ちょっとした コツがいるんだな それはね・・・」

ヒクヒクと 動く黒いキツネの鼻を じっと見つめながら
僕は 話しに 耳を かたむけました・・・




キツネは ピンク色の舌で 唇を ちょっと 舐めると 話しを続けた。
「コツっていうのは 思い出に関係しててね。
そう 君が 取戻したいと 願ってる 失われた時を得る方法だったね」

キツネの声は まるで お産の後の カラスみたいに しわがれていたので
僕は 注意深く 彼の声に 耳を かたむけないと いけなかった。

「思い出って あれで けっこう やっかいなものでね。
思い出そうとしても 頼りないデッサン画 みたいに ぼやけてしまうし
かといって 忘れようとしても どこかに 澱のように 引っかかって
しまって 忘れることも できない・・・・」

なるほど・・・と 僕は 思った。

「時のリンゴを 手に入れるには その思い出を まるで日光写真に
写し取るように 君の頭の中に はっきりと再現しなければいけない.
そう 葉の葉脈の 一つ一つすら おろそかにしないほど くっきりとね。

それで これからが 大切なことなんだよと キツネはさも得意そうに
こげ茶色の 指を 白い新月に 向って 指し示して 見せた・・・