青少年・少子化問題の現状
小野清子 国務大臣に聞く


 “人は人に揉まれて人になる” 飽くなき挑戦を楽しもう

 近年、日本において少子化や青少年問題が深刻化している。今回、慶應義塾で十二年間講師として勤務していた経験もある小野清子国務大臣に、慶應在職当時の思い出、現代の少子化や青少年問題について話を聞いた。小野大臣は東京オリンピックでは体操競技団体で銅メダルを獲得。家庭では、練習や仕事の多忙の傍らで五人の子供を育てた。

オリンピックに2度出場

――小野大臣が慶應で勤務されていた頃の思い出をお聞かせください。

 慶應に勤めたのは昭和三十三年から四十五年までの十二年間です。私は慶應では商学部の学生を担当していました。
 その当時、一般教養として体育は必須でしたが、受験地獄の時代だったので、学生は皆体力が衰えていました。運動してもすぐにくたびれて座り込んでしまうような人がたくさんいました。それが、週に一回授業を繰り返していくうちに、若さでどんどん甦っていったのです。だから、受験が終わった後の学生には、一般教養としての体育がいかに大事かを私は評価しています。今はそれがなくなりましたが、慶應は一年時に体育が必須だったので、塾生たちが本来の若者に値するだけの体力作りをすることができたのだと考えています。私は、体育という科目は、体力作りをする役割に加え、若くても運動しないと健康は保てないということを学生たちが認識する機会になったと思っています。

――慶應に勤務していた当時、オリンピックにも参加されました。

 三十五年にローマオリンピック、そして三十九年には東京オリンピックに出場しました。ローマオリンピックでは、日本とは条件が違うと聞いてはいたのですが、実際行ってみたら、それは日本とは練習環境も異なり大変でした。また、ローマオリンピックの二年前には、世界選手権がモスクワであったのですが、共産国での遠征も厳しいものでした。野菜類がなく、また六月の白夜で寝ることもできませんでした。国によって、生活習慣、気候、風俗など環境はまったく違うものだということを思い知らされました。
 精神面でも肉体面でも、あらゆる環境に打ち勝つことがまず競技をやる前の大事な要点になります。しかし、違いは一つの驚きであり、それを乗り越えながらみんなで頑張ったことは大きな思い出になっています。人生を考える上でも、同じ言葉でも相手により国により、こんなに物事が違うのだということを知ったことは非常に良かったと思います。それが常識だと思っていたことが、国が違えば常識ではなかったりするので、どこでも臨機応変に対応、順応していかなければ勝てないものだと思いました。

――オリンピックに向けての練習は慶應でなさったのですか。

 
慶應では、用具の出し入れをするのに人手が足りなくて、大学での練習はあまりできませんでした。それほど女子部の学生もいなかったので、私は慶應の授業が終わってから母校の東京教育大(当時、幡ヶ谷)に行き、そこで練習しておりました。
 慶應は女子高で体操をやりたい生徒が何人か集まった時期があり、そのメンバーたちが大学に入り、二部のインターカレッジで良い成績を挙げていました。それは高校時代に部ができて、その選手たちが大学まで継続して上がってきたのです。そういうまとまりの中で成績を挙げていった時期もありました。

人間形成の場 まずは家庭

――最近青少年による凶悪犯罪が多発していますが、これについて大臣はどのようにお考えでしょうか。

 人間が育っていく基本的な場は家庭です。家庭があって両親がいて、子どもがいて、兄弟がいて、その中で切磋琢磨しながら、人間らしく人間に育てられることによって人間になっていくのです。「人は人に揉まれて人になる」とは、福澤諭吉先生がおっしゃった言葉です。
 今の子どもたちはどうかというと、幼稚園に行ったり保育園に行ったりしながら、他の子どもたちと一緒にまみえたりすることはありますが、出生率が一・二九という状況下で、兄弟どうしの接触の度合いが非常に薄くなってきていると思います。お隣のおばさんやおじさん、向かいのお兄さんとか、そういう関係の中で可愛がられたり叱られたりという経験がどのくらいあるのでしょうか。様々な良いことをして爽快感を得ることもあれば、悪いことをして怒られることもあるかもしれません。そういう経験の中でやって良いことや悪いこと、あるいはやってみたいこと等、憧れや夢を抱いていくのです。インターネットやパソコンばかりに向かっていたのでは人間性を豊かにすることはできません。
 しかし、現実的には一人っ子でもたくましく生きていくにはどうしたらいいのかを考えなければなりません。そこに、スポーツクラブや音楽など、自分の興味関心のある分野で揉まれていくことの必要性があると思います。

――子育てをする現代の親については、どうでしょうか。

 最近は、自分は誰の世話にもなっていないなどとよく言うようですが、みんなの支えの中に自分がいるという感謝の気持ちを持って生きていくのか、それとも、私は私の勝手だというだけで生きていくのか。それによって、人生は大きく変わると思います。
 私たちがこの世に誕生し、苦労もしながら喜びも感じて生きていることを次の世代も営々と続けていくためには、子どものおかげで親になれるのだという感謝の気持ちを忘れないことだと思います。子どもが産まれて、「親とはこうだったのか。私の親も私をこうやって育てたのかな」ということが分かるのです。そして、子どもたちがいずれ年をとって大人になって、親たちを支えるというのが国のありようなのです。そのように、みんなで支え合っているのが、私たちの生活です。
 夢を持って、バイタリティのある生き方をしながら子どもを育み育てることは、苦労と思えば苦労だし、一人の人格をつくっていると思えば最高に価値あることなのです。もう少し大らかな気持ちで生きてほしいと思います。

――将来の日本を担う塾生に対するアドバイスをお願いします。

 これからは独創性と国際性がとても大事になってきます。福澤先生は、日本を将来世界に冠たる国とする人作りのために慶應義塾大学を創ったのですから、創立者の想いをきちんと心の中に抱いて、何度崩れたとしても、誰もがやったことのないことにも挑戦しながら、夢を持ち続けてほしいと思います。まさに、プロジェクトXの世界です。
 国際性を身につけ、思いやりをもって、飽くなき挑戦を楽しむ中で初めて、世界やアジアのリーダーたる者が生まれてくるだろうと期待しています。

おの・きよこ 昭和11年秋田県生まれ。昭和33年東京教育大学卒業、その後慶應大学体育研究所に12年間勤務。昭和35年ローマ五輪出場、昭和39年の東京五輪では体操競技団体で銅メダルを獲得。昭和61年参議院議員初当選、参議院文教委員長などを経て、平成15年9月国務大臣、国家公安委員会委員長、内閣府特命担当大臣(青少年育成及び少子化対策・食品安全)。他に(財)笹川スポーツ財団会長、(財)日本オリンピック委員会理事などにも就任している。