「川上源一メモリアルコンサート」レポート

 2003年5月27日、東京渋谷のBunkamuraオーチャードホールでJOC特別公演2003「川上源一メモリアルコンサート」が行われました。
 川上源一氏は、長らくヤマハ、ヤマハ発動機の社長をつとめ、両社を世界的なメーカーに育て上げた方です。また、音楽教育にも熱心で、ヤマハ音楽学校、財団法人ヤマハ音楽振興会を設立し、多くの才能をを世の中に送り出してきました。もちろん、大島さんもその一人です。
 川上氏は2002年5月29日に逝去されましたので、今回のコンサートはほぼその一周忌にあたります。
 本コンサートでは大島さんの「御誦」が演奏されましたが、その「御誦」の存在を大島さんに教えたのも、他ならぬ川上氏であります。そういった意味で、氏の功績を偲ぶ本コンサートで「御誦」が演奏されたのは、大きな意味があったのではないでしょうか。

 本コンサートは、二部構成で行われました。
 第一部は「ジュニア・オリジナル・コンサート」。ヤマハ音楽学校で学ぶ子供達が作曲した優秀作品が、本人たちにより演奏されました。
 最年少は10歳にも満たないながら、プロの音楽家顔負けの作品群に驚かされました。
 この世に生を受けて10年あまりの間に、これまでも豊かな世界を作ることができる人間の可能性の大きさに嘆息せざるをえません。演奏技術もさることながら、なによりもその感性が素晴らしく、特に年少の演奏者ほどその傾向が顕著でした。
 彼らは、10年後の日本の音楽界に、新しい風を吹き込むことになるのでしょう。

 第二部は、現在第一線で活躍しているヤマハ音楽学校出身の音楽家の作品が、新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏を交えて演奏されました。
 大島さんの「御誦」(正式名称は『交響曲第1番「御誦」』)の他には、柴田佳江さんの「ピアノ協奏曲 ホ長調」、平部やよいさんの「懐歌(アルトサックスとGS-1のためのシンフォニー)」が演奏されました。

 「御誦」は当日のために新たに書き直されたもの。新日本フィルに加え、東京オラトリオ研究会の混声合唱団も加わり、総勢数百人という豪華な編成による演奏となりました。
 「御誦」のオリジナルはオーケストラによる交響曲でしたが、その後男声合唱曲に書き直されたという経緯があります。そういった意味で、オーケストラと合唱曲の共演となる今回の演奏は「御誦」の集大成とも言えるでしょう。

 男声合唱曲版の「御誦」は、5つの楽章で構成されていますが、当日演奏された「御誦」は全3楽章にアレンジされていました。
 第一楽章は、男声合唱曲版の第三楽章「蓑踊」をベースとしたもの。オーケストラのみによる演奏です。私が過去に聴いたことがある男声合唱曲版「蓑踊」は、歌詞が非常に印象的だっただけに、言葉を使わずに作品の主題をどう表現するのかという点に注目してみましたが、弦楽器と金管楽器を巧みに使い分けることにより、緊張感と息苦しさの双方を表現するのに成功していたと思います。高音部が燃える蓑の炎の眩しさや熱さに苦しむ人の動き、低音部が支配者による弾圧のテーマを体現しているように感じられ、作品の主題である「蓑踊」の光景が目に浮かんでくるようでした。
 ソプラノに鵜木絵里さんを迎えて演奏された第二楽章「獅子の泣き唄」は、男声合唱曲版に近い構成。男声合唱版のコーラスによる伴奏も素晴らしいですが、それがオーケストラで演奏されることにより、オペラのワンシーンのような格調高さを感じました。
 第三楽章の「御誦」は、男声合唱曲版第五楽章の「御誦」を元にしつつ、大きくアレンジされていました。前半部分は、強烈なパッカーションと「ガラサガラサ……」とのコーラスで始まる男声合唱曲版と同様の展開。オーケストラと合唱団が役割分担をすることにより、御誦の歌詞(?)がよりはっきりと浮かび上がってくるように感じました。
 後半部分は、男声合唱曲版では聴くことができなかったフレーズが多く使われていましたが、これは、今回のアレンジで初めて取り入れられた「ラオダテ」と呼ばれる御誦とのことです。
 特に第三楽章は、テンポや強弱が目まぐるしく変わる構成となっているだけに、大胆さと繊細さという相反する要素を両立させる必要がありますが、しっかりとメリハリをつけたダイナミックな演奏を成し遂げたオーケストラ、混声合唱団、指揮者の三者の力量は高く評価したいと思います。

 全体を通してみると、隠れキリシタンへの弾圧を描く「蓑踊」、その弾圧の悲しみを歌い上げる「獅子の泣き唄」、そして弾圧にも屈せずに信仰を守り続けた人々の強さと彼らに対する祝福を表現した「御誦」と、見事にストーリーが成立しています。
 個人的には男声合唱曲版の第二楽章「アヴェ・マリア」の美しいメロディーが聞けなかったのが残念ですが(今回は純粋なラテン語歌詞のパートは使わなかったとのこと)、全体としての構成を考えると、あえて取り入れなかったのは正解でしょう。

 新しい才能に触れ、生まれ変わった「御誦」に圧倒される……普通のコンサートでは味わえない 贅沢な体験をさせていただきました。
 音楽というものがもつ力、可能性、素晴らしさを、改めて感じさせられたコンサートでした。

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