世界で一番熱い夏
2001年夏クール、TBSのドラマ。金曜10時。代議士秘書が裏金の隠蔽工作の犠牲になり、収賄、後には殺人容疑までかけられるが、ホームレス村でできた仲間と共に無実を晴らそうと努力する。岸谷五朗、和久井映見、田中邦衛、柳沢慎吾、風間俊介、古手川祐子、鈴木史朗、小野武彦、原沙知絵、山下真司、相島一之、伊藤裕正、岡あゆみ。
◇ロケ現場に行って来ました◇(2001.8.31)
7月6日スタート全10回の『世界で一番熱い夏』は、今クールでいちばん気に入っているドラマ。なんといっても、去年の3月に『金八先生』が終了して以来、1年以上も待たされての風間俊介くん連ドラ出演。それに、三谷ゆかりの相島一之も、今回もまた「しつこい」刑事役で出ているし、そもそも岸谷五朗&和久井映見のカップルは、『妹よ』も『バースデープレゼント』もいい作品だった。岸谷五朗のような、芝居に対して真摯な人に生で接することができれば、風間くんもまたぐんと成長することだろうと思うと嬉しい。
気に入った作品であるだけに、いちど何かの形で思い出を作りたいと考えていたけれども、度重なる「エキストラ募集」の告知にもスケジュールが合わず、番組の公式BBSでロケに参加した人たちが次々に書き込んでいく感激に満ちた感想を、ただ指をくわえて見ているしかなかった。ところが、今回のロケだけはぽっかりと予定が開いた一日で、これも何かのお告げに違いないと思い、行ってみることにした。
案内のメールに添付されてきた手描きの地図(描いたのは誰だろう)を見なくても、ロケ地が池袋と聞けば、もちろん芸術劇場・西口公園前の広場に決まっている。朝から生憎の雨だったが、メールには「雨天決行」とあった。集合時刻の午前9時ぎりぎりに着くと、すでに多くの参加者が芸術劇場入口の軒下で雨宿りをしていた。今回は5回目のエキストラ募集で、全回出席している人や「チームカワシマ」などグループを組んでいる人たちもいるようなので、初参加の私は大人しくしていることにした。なにより、修論で焦っているので、課題本は手放せない。
9時すぎに雨合羽を着たADの波多野さんから最初の説明があった。「あそこ(公園入口)に見える白とオレンジの選挙カーが停まっている位置が今日みなさんにご協力いただく撮影場所です。スケジュールの関係で今日しか時間が取れないため、雨天決行で行きます。9時半から撮影の予定でしたが、遅れる見込みです。雨の様子を見ますので、もうしばらくこのままお待ちください」
同じように雨合羽を着たスタッフ数人が「TBS」の文字の入ったロケ車を行ったりきたりしながら、打ち合わせ。9時半すぎにまた波多野さんから説明。「10時すぎにこのまま撮影を開始します。今のうちにトイレなどは済ませておいてください」 案内には「写真付き身分証明書をご持参ください」と書かれていたが、チェックする様子もなく。集まっている人は9割がた女性で、風間くんのファンらしい二十歳前後の若い人が多いが、40〜50くらいの方もいる。約100人。
10時すぎ、少し小降りになったくらいで傘をさしたまま選挙カー前に移動。装飾の担当者が選挙カーの屋根に「民自党の明日を担う 東城勇志(とうじょうゆうじ)」の垂れ幕(横)を留め、車のサイドにポスターを4枚貼る。縦の垂れ幕も3枚。これだけ派手にやっていれば、何の撮影をしているかは一目瞭然。「雨のシーンに変更することになりました。みなさん、傘をさされたままでいいですよ」と波多野AD。そりゃあ、ずぶぬれになってしまうから傘は差したい。でも、差すと何も見えなくなってしまう……。透明のビニール傘を持ってくるんだった、と後悔。
最初はSP2人のシーン。背が高くて若い兄ちゃんと、小さくてメガネをかけたおじさん。雨は降っているが、「SPさん、片方は傘ささないで」の指示に、背が高いほうが苦笑して傘をたたむ。雨に濡れてもいいなんとかの兄ちゃん、どこかで見たことがあるのに思い出せない。こんな20秒くらいのシーンにも、セット、本番、チェック。
東城代議士が黒塗りの車で街頭演説会場に到着し、車を降りて選挙カーに乗り込むシーンの撮影。最初にやってきた俳優さんは、黒いスーツに開襟の白シャツ、ダイヤのネックレスを下げた原沙知絵。ウェストの細さにびっくり。柔和そうで、始終笑顔を絶やさず、えくぼがかわいい。今回の榎本凉子や『白い影』の病院長の娘と実物は大違い。周囲に気を遣い、ADの指示に「はい、はい」と従う、感じのいい人だった。続いて、代議士役の小野武彦も選挙カーに乗り込む。この人もお茶目で、ファンに愛想を振りまいている。
次はいよいよ代議士さんの登場シーンで、聴衆が歓声をあげる練習から。隣の人と話したりしてざわついていたのが、東城さんが現れると注目して声援を送る。川嶋龍太郎ADは言葉は乱暴だけど、真剣さが周囲に伝わるような人。高嶋兄に似た目がいい感じ。本当に、言葉がもう少し丁寧だったら。「はい、そこの緑色の服着た人、傘さして」 雨はあがってしまったが、少しは差している人がいないと辻褄が合わないのだ。でも、差さないほうがよく見えるので、みんな尻込み。「いーい? もいっかい練習するよ〜」 近い将来首相になるよう応援している人に対してだから、「ひゅうひゅう」タイプの声援はなしね、という注意はごもっとも。
車のはしごをつたって東城さんが上がってくると、みんなで声援。いつのまにか隣りに入り込んできた二十歳くらいのエキストラの男の子が、空を見上げ、手をかざし、きょろきょろと周囲を見てシャツをひょいと頭の上にかぶせる仕草を繰り返す。俳優志望の青年らしい。「はい本番、用意……はい!」の合図で演技をする練習なんだ、きっと。世の中、いろんな人がいる。
次は演説の途中、後方からやってくる鳴り物と足音に東城が気づき、演説がしどろもどろになるシーン。聴衆も川嶋ADの合図で後ろを振り返る練習。チェックのあいだにフリーのカメラマン役、山下真司到着。噴水の向こうでカメラを構え、ポーズの練習。ストライプのシャツを着ていたが、しばらくしてスタイリストが川嶋ADに耳打ちし、スーツに衣裳替え。カメラマン、噴水、聴衆のカメラの角度が難しいらしく、いろいろ検討。山下さんには終始、デイパックを背負った、メガネで短髪の男の人が付き添っていた。マネージャーさん?
今度は後方からやってくるホームレスさんたちを振り返るシーン。聴衆のあいだを割って、ホームレスの人たちが行進する。川嶋ADの合図で振り返る練習を繰り返す。あごひげで甘いマスク、チーフADの加藤新(あらた)さん、頬のこけた武藤AD、波多野AD、それぞれ神出鬼没、七面六ぴの大活躍。午前中のラストは、街頭演説を撮影していた女性レポーターとカメラマンがホームレスに気づいてカメラをそちらに向けるシーン。「どうしたことでしょう、ホームレスの大群です! ホームレスの大群がいま……」 早口で噛んでしまうらしく、何度も練習。
12:25に午前の部終了。芸術劇場の前に停まっていたTBSのロケ車前で「たちばな」の幕の内弁当と日本茶を配布。「はい、どうぞ」 お弁当を手渡してくれた波多野ADは、あくまでもにこやか、低姿勢。「13:10から撮影再開、5分前までにはさっきの体制に戻っていただきたいので、1時までに空箱をここに戻してください」 芸術劇場前の階段に固まって座り、お弁当を開く。結構りっぱなお弁当で、意外なことに温かい。時間がないので、周囲は言葉少な。ADさんたちはどうするのだろうと見ていると、打ち合わせが終わった後でロケ車の前に座り、あっというまに同じお弁当を食べ終えていた。大変だな〜。
この辺はよく知っているので、芸術劇場地下の化粧室へ。先客があった。原さんとマネージャーらしき女性の方。鏡に向かって仲良く歯磨きをしている。衣裳に垂らすといけないのか、左手で茶色いハンドタオルを構え、念入りにハブラシを動かしている。なにやらにこやかに女性と話したり。こんなに感じのいい人だから、もっと視聴者に好感をもってもらえる役がくるといいね。『世界で一番〜』で、いま一番憎まれているのは彼女だろうから。私も並んで歯磨き。原さんが出ていった少し後、化粧室を出るときにはすごい行列になっていた。個室が3つしかないんだもん、無理だよ、集合時刻に間に合わないよ〜。
13:10すぎ、午後の部スタート。遠くにホームレス役の人たちが固まっているなかに……あの赤いTシャツはもしや風間くん? わあ。よく見ると、柳沢慎吾も鈴木史朗もいる。わくわく。監督の吉田さん、車椅子で登場。おみ足が悪いらしく、撮影の合間も杖をついている。どこでもそうだが、撮影現場では役名で呼ぶことになっている。「東城先生、上がってください」とか、「凉子さん、もう少し左」とか。まったく口答えをせずに素直に従う原沙知絵に比べ、こだわりがあってADさんを呼んでは注文をつける小野武彦。傍目には、ADさんたちからうるさがれているように見える。「ちょっと、同時に話さないでくれよ。まず川嶋くんの話を聞こう」 波多野ADを怒鳴りつける小野さん、黙って頭を下げるAD。上目遣いにその場の流れを見ている原さん。「巻きでいこう」小野さん、かなり気むずかしい感じ。
雨は上がってしまったので、演説の途中で秘書が傘をたたむシーンを加えて、途中で止んだことに。芸が細かい。さあ、次はいよいよ風間くんたちのシーンだ。7話で見張りが使っていた合図用の鳴り物(コーラの缶や小鍋を洗濯ばさみで吊したもの)や小槌や(なぜか)マジックハンドなど、いろいろなもので音を出しながらマッポが乗ったリアカーを数人のホームレスたちが引いて近づいてくる。聴衆が左右に引いて道をあけるタイミングなど、何度か練習。わあ、風間くん、なんて華奢なの(^^;)。
まずはマッポたちのセリフを選挙カーの上から撮影。東城さん側は映らないので、本番中でも舌を出したりして思いっきり遊んでいる。リアカーが到着して最初はマッポ、次に鈴木史朗、そして山崎さんなのだが、慎吾さん、ぜんぜんセリフが入ってない(^^;)。「丸本建設」が言えなくて、2度NG。「なんかさあ、こういう場所で大勢に見られながらだと言えなくなっちゃうのよ。あの辺には本物のホームレスの人もいるしさ。こんなこと言っちゃっていいのかな、って思って」 NGのたびに共演者やエキストラに「すみません、すみません」と謝る慎吾さん、でもなかなかOKは出ず。
練習の合間も、噂通りしゃべり続ける慎吾さん。額には白いガーゼを貼っている。「ここはこいつ(風間くん)に殴られたんだよ。あのシーン、4時間もかかっちゃってさあ。あの角材ね、実はゴムなの。ぐにゃぐにゃなんだけど、でもこいつがあんな勢いでぶん殴るんだもんだからさ」 この場でいちばんの話し相手は風ぽんらしい。柳沢「今夜(の視聴率)は、……まあ『タイタニック』(裏番組)だしね(笑)」 風間「慎吾さん、こないだ『タイタニック』見るって言ってたでしょう。あれヤバイですよ」 風間くんがロケ現場に台本を持ってこないというのは本当だ。二人とも歯がきれい。風間くんは初回に着ていた赤いTシャツ(だいぶ色あせている)にいつも穿いている迷彩服柄のパンツ、裸足にぞうり、首には紫のお守りをぶらさげ(もうボロボロ)、右手に青い玉のブレスレット。髪はやや脱色。耳にかける仕草がかわいい。
やっとOKが出て、今度は同じシーンをこちら側から東城さんのほうに向かって撮影。声が入らないように拡声器は使わず地声でセリフをいう慎吾さん。新ADに「台本を見ながらでいいですよ」と言われ、喜んでいたがやっぱりトチった(^^;)。凉子がSPに警察に知らせるよう耳打ちし、警察がやってきたのを見て東城を下へ促すタイミングがなかなか合わない。「凉子さん、今の最初も後も早すぎます」 走り回る川嶋AD。
お待たせしました。警官と機動隊が突入してくるシーンの撮影。半袖ブルーの制服を着たおまわりさんたち、このドラマでは毎回登場しているが、よく見ればどのお兄さんも成人していないような若者ばかり。どどどど……と聴衆のあいだをかき分けて入ってくるので、当然のことながら聴衆は押される。足を踏まれたり、転んだり(、照明ライトのコードを踏んづけたり)。エキストラも大変だ。最初のセットでは無線を拾ってしまった。つまり、それくらいもみ合い状態だったわけで。でもまあ、迫力あるシーンを間近で見られて楽しい。警官は2人一組でホームレスを追う。どこにやってくるか想像がつかない。
今日いちばん嬉しかったのは、このドタバタシーンの後の風間くんのセリフ。セットのときはおとなしめだったが、本番はすごい。かっこいい〜。逃げ足も本気。直前まで慎吾さんとニコニコ冗談を言ってたのに、本番になると人が変わったような集中ぶり。あのシーンは放映されるときにはおめかしして、もっともっと感動的な見せ場に編集されていることだろう。楽しみだ。チェックが終わってOKが出たときは、出演者もエキストラもみんなで拍手。
その後も撮影の予定があったようだが、ここでトラブル。東城さんの黒塗りの車が、バッテリーが上がって動かない。技術の人たちが5〜6人でトランクも前もあけてオーバーホール。リアカーに乗ったまま待っていたホームレスの人たちもこの事態にパラソルの下に移動して休憩。スタッフに笑顔をふりまき途切れなく話し続ける風間くんから、10メートルと離れない場所で本を広げる私(^^;)。だって日がな一日みているわけにはいかない。
16:30。小一時間、そんな待ち時間が続いた後で、なんとか黒塗りの車は去った。出演者たちは次の撮影へ向かい、エキストラの人たちは波多野ADと音声さんの指示で最後に声援の録音。バラバラに声援を贈るのって難しい。TBSの浴用タオルを記念にもらって解散。お疲れさまでした。
こんなに時間をかけても、実際に放映されるのはいいところ10分くらいだろう。新、川嶋、武藤、波多野の若者ADさんたちのうち、新さんと川嶋さんはエンドロールに名前が出ているからまだいいけれども、残り二人はこれだけ朝から晩まで頑張っても名前も出ない。もちろん、照明さん、メイクさん、音声さん、いろいろな担当で名前の出ない「補」の人たちが何人もいるわけで。「武藤」という名前は自殺した山下容莉絵のご主人に、「波多野」は山川の娘が通うバイオリン教室の名前に使われていて、こんなところに足跡が残されているのだと思った。7話で大輔が歌舞伎町をぼんやりと歩いていたとき、ぶつかった通行人は武藤さん。こんなふうにほかのシーンでも密かに登場しているのかもしれない。イーストに高見沢さんと同い年の波多野というディレクターがいるが、親戚だろうか。物腰の柔らかな、線の細い波多野ADは、現場では「キミちゃん」と呼ばれ、かわいがられている。ロケ現場に行った人なら誰でもファンになってしまうような人で、2世の処世術かな、と勝手に想像してしまった。もっとも、波多野なんて珍しい名前でもないけど。聖子ちゃんの元ダンナさんとか。
◇ロケ現場に行って来ました・2◇(2001.9.7)
機会があって、再度、撮影現場を見ることができた。一週間後に放映予定の最終回で、ラストシーン。芸術劇場前に午前6:45に集合、今回も集まったチーム・インターネットの人たちは約100人。「終了後、速やかに次の撮影現場に移動したいので、今回ははじめに記念品をお渡しします」 波多野ADに手渡された今回の記念品は、旅行に便利なWHYタオル(固形燃料くらいの大きさに凝縮されたタオル)。案内メールには「秋の設定なので、秋物を着てきてください」とあったが、半袖の人には衣裳部からもってきたカーディガンなどが貸与された。長袖シャツをまくり上げていたら、波多野さんから「袖は伸ばしてください」と注意された。
7:15、撮影開始。エキストラの人たちが遠目に見守るなか、まず岸谷五朗の街頭演説シーン、3カットの撮影。黄色いビールケースをひっくり返し、その上に立つ神大輔は、ダークスーツに「参議院議員候補者 無所属 神大輔」の白いタスキをかけ、小さなマイクをもって演説。撮影にはコンサート会場でよく使われるような巨大なクレーンが置かれていて、「太郎さん」と呼ばれるチーフカメラマンが乗って自在に動いていた。
ニコちゃんマークの髪ゴムをつけたちえみちゃんがまず目に入り、イエローのウィンドーブレーカーを着てやって来たのは、東城先生の第2秘書の島田さんと、「急浮上」の山本さん。それから、同じようにブレーカーを着た和久井映見。「神大輔」の大きな写真入りビラの束を手にしている。ちえみちゃん、ものすごくかわいい。両足に、蚊に刺された痕がたくさんあるのが痛々しい感じ。
エキストラの出番はワンシーンのみ。神さんが演説している前を通りすぎる人、関心をもって聞いている人、ビラを受け取る人、そのほか。東城先生が国会で演説するはずだったところを、とつぜん自首したために、急遽、神大輔が代理で演説をした、というストーリーの流れで、ある程度「神大輔」の知名度はあるという設定。クレーン下の位置にいたので、テスト、本番を含めて4〜5回、和久井さんや山本さんからビラを受け取った(ビラは記念にと、撮影終了後に武藤ADがくれた)。
チェックが終わって、OK。ずーっと険しかった岸谷さんの顔が、ようやくほころんだ。「チーちゃん、島田さん、山本さん、クランクアップです〜」の声に続き、花束贈呈。エキストラの人たちも一緒に拍手。和久井さんから花束を渡されたちえみちゃん、「チーちゃんから一言」の川嶋ADの声に、はにかんでもじもじしているところを、岸谷さんに肩をたたかれ、ようやく「楽しかったです」。島田さんも「このドラマに出演できたことを誇りに思います」 岸谷さんから、「みなさん、朝早くからお集まりいただいて、本当にありがとうございました!」 8:15、たいへん和やかな雰囲気のなか、ロケは無事終了して、撮影隊は次の現場へと移動していった。
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