劇的独白 dramatic monologue

 抒情詩の一形式。ブラウニングがひとつのジャンルとして確立し、その後、エズラ・パウンド、T・S・エリオット、など多くの詩人に用いられた。

 【抒情詩・叙情詩】 叙事詩・劇詩とともに詩の三大部門の一つ。もとはギリシアで七弦琴に合わせて歌う歌をいったが、のちに自分の感情・情緒を主観的に表現した詩の総称。近代詩の主流をなす。リリック。


 独白(モノローグ)にはいくつか種類がある。

 ・モノドラマ monodrama  登場人物が一人しかいない一人芝居。S・ベケット『クラップの最後のテープ』(1959)

 ・シェイクスピアの芝居などの独白 soliloquy  舞台上に一人だけ登場してセリフを語ったり、ほかに人物がいても気づかずに自分ひとりだと思ってセリフを語ったりする。主人公の心情吐露、極悪人の真相暴露。ハムレットの独白など。

 ・観客への単独の話しかけ 『オセロー』イアーゴの観客への解説など。

 ・劇的独白 架空の語り手が架空の聞き手に対して語る。ブラウニング「逝ける公爵夫人」(1842)、T・S・エリオット「プルーフロック」(1917)


劇的独白の定義 

○M.H.エイブラムズによる定義
【Meyer Howard Abrams (1912 - )】アメリカの英文学者、批評家。イギリス・ロマン主義文学の研究者。『鏡とランプ』『文学用語辞典』

 
以下3項目のうち、聞き手の存在が曖昧なものを含むこともあるが、1) と 3) は不可欠。

1)切迫した状況に置かれた、詩人自身でないことが明らかな人物一人が発する言葉だけから詩が構成されている。
2)聞き手はいるが、その存在と言動は語り手の言葉のなかにある手がかりを通じてのみ読者に知らされる。
3)発言は、その内容そのものよりも、そこに無意識のうちに表れてしまう語り手の性格の暴露に重点を置いて構成されている。

○ロバート・ラングバウムによる定義
【Robert Langbaum (1924 - )】アメリカの英文学者、批評家。著書"Poetry of Experience"で劇的独白について革命的な理論を打ち出した。

a continuation of an essentially Romantic "poetry of experience" in which the reader experiences a tension between sympathy and judgement.

 → グレン・エバレットによる批判 

   contemporary readers of Browning's poems found them vastly different from Langbaum's Wordsworthian model.

○グレン・エバレットによる定義

【Glenn Everett (1921- )】
1)読者は物言わぬ聞き手の役割を担う。
2)語り手は case-making (問題を起こす)な、論争的な口調で語る。
3)読者は推量・想像によって劇的シーンを完成させる。


劇的独白が用いられた詩の例

・先行例 …… ロマン主義の詩人たちが使用した会話体詩。コールリッジ「深夜の霜」、ワーズワス「ティンターン・アベイ」。詩人自身が語り手であるために皮肉な要素が生まれにくく、単調な主観的心情吐露に終わる可能性もあった。

・成功例 …… ブラウニング「
逝ける公爵夫人」、「アンドレア・デル・サルト」。テニスン「ユリシーズ」、「ティトノス」。語りの臨場感を残しながら、語り手を詩人から引き離すことによって、客観性と仮面性の獲得を可能にした。

・系譜 …… トマス・ハーディ、ルバイヤード・キプリング、ロバート・フロスト、エズラ・パウンド、T・S・エリオット。

劇的独白比較――ブラウニング vs. テニスン

○ブラウニングの劇的独白

 語り手が自分自身はそれと意識せずにその性格を読者に語り知らせる。ただし、作者の影が背後にちらつくものもある。「劇的」な要素が強い。

・My Last Duchess 「逝ける公爵夫人」

 56行。

・Soliloquy of the Spaish Cloister
 8行×9連、72行。スペインのある修道院内で一人の修道士が、花や果樹を愛し、毎日その手入れに余念がなく、ほかの修道士の評判もよい修道士ローレンスを妬む心から、その悪口をたたき、誘惑をたくらみ、地獄に堕ちればいい、とまで呪う。

・Andrea del Sarto 「アンドレア・デル・サルト」 (『男と女』)
 267行。ブランク・ヴァース。仕立屋の子に生まれながら、稀な画才に恵まれ、'Faultless painter'と呼ばれた15、6世紀のイタリア画家アンドレア(1487-1531)が年下の美しい妻、その情人のことなどを考えながら、たそがれの窓辺に妻と腰をおろし、自分の絵に精神的な深さが欠ける悩みを思う。

【アンドレア・デル・サルト Andrea del Sarto 1486‐1530】 ルネサンス末期のイタリアの画家。フィレンツェ生れ。本名アンドレア・ダニョロ・ディ・フランチェスコAndrea d’Agnolo di Francesco。ピエロ・ディ・コジモ,フランチャビジョ Franciabigio に学ぶ。レオナルド・ダ・ビンチ,ミケランジェロ,ラファエロの美点を総合し,バザーリによって〈欠点なき画家〉と呼ばれた技巧派。代表作《アルピエの聖母》(1525)は,左右相称の構成,光と影にみちた彩色,表情のある人物など,ルネサンスの諸技法を総合した古典的作品であるが,《聖母の被昇天》(1530)では,以上の諸要素を誇張して,マニエリスティックな激しさと破綻を示している(マニエリスム)。弟子に,ロッソ・フィオレンティーノ,ポントルモなど最初のマニエリストたちがいる。

・The Bishop Orders his Tomb
 125行。ローマのSt. Praxed's Church のbishopが、自分より先に死んで、前から自分が望んでいた教会内の場所に墓を作ったライバルのガンドルフに対し、せめて材料や装飾で彼の墓をしのぐものを作ってほしい望みを細々と周囲のものに言い残す。俗物的な聖職者を描く。

・Fra Lippo Lippi 「フラ・リッポ・リッピ」 (『男と女』)
 392行。フローレンスの修道士で画才のあるリッピ(1412-69)がある夜、夜遊びの帰りに警邏(けいら)の役人に見とがめられ、その身分を明かしながら、幼時からの苦難、修道院に収容され絵の修業をつみ、今はメディチ家のために聖者の像を描いていることなどを告げ、役人に袖の下を使い、巧みに言いくるめて去る。

○テニスンの劇的独白

 叙情性の濃い物語詩。人物の影が薄く、テニスン自身の人生観の代弁者、テニスンの'sadness'を象徴する存在になっている。テニスンには物語について述べる(narrate)才能に欠ける点があった。ただし、ブラウニングに比べ、独特の美しい描写、場面転換の巧みさ、音感・リズムなどがすぐれていて、別の魅力をもっている。

・Ulysses 「ユリシーズ」
 トロイ戦争後、多年の放浪ののちイサカに帰ったユリシーズが、かつての部下と共に、永生の楽園を求めての冒険の旅に立つ決意を歌う。

・Tishonus 「ティソナース」
 暁の女神 Eos (Aurora) に愛され、永遠の生命は与えられたが、永遠の若さを求めなかったため年老い衰えていくティソナースの嘆きを述べる。

《参考》
川口喬一ほか編『最新文学批評用語辞典』(研究社出版、1998年)
『集英社世界文学大事典』(1996年)
CANR
石井正之助『英詩の諸相―様式と展開―』(大修館書店、1984年)
The Victorian Web

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