| 感想は冷めないうちに〜読書日記 |
小林章夫『物語イギリス人』文春新書、1998年 (Nov. 21, '99 記)
| 11月17日付の産経新聞(夕)「いま、新書が元気!!」を読んで、来月創刊の集英社新書には大いに興味をもったのだが、ところで、その記事のなかにこんな文が。 「 ――電車の中で文庫を読んでいる女性は多いが、新書を読む姿はほとんど見かけませんね」「書店の新書の棚の前にも女性の姿はありません」 そういえば、学生時代はよく新書を読んだものなのに、最近はぜんぜん買っていない。そこで早速「新書の棚の前」に行ってきた。去年の秋から文春、平凡社、宝島、と新書創刊ラッシュだったそうだ。新書の棚のカラーがずいぶん変わった気がした。 さて、そのフレッシュな文春新書から一冊。小林章夫『物語イギリス人』。イギリス人の気質を語ったものでは、ひところ森嶋通夫の著作などよく読んだ覚えがあるが、この本はより現代に即していてとても読みやすく感じた。 イギリスの階級差について、上流階級が好む音楽はハイドン、モーツァルト、上流中産階級ではブラームス、シューベルト、下層中産階級はチャイコフスキー、メンデルスゾーン。飼う犬も、上流はスパニエル犬やダックスフントで、レトリバーは中産階級とか。ラブラドルも黄色より黒のほうがより上流とか。 シンプソン夫人との恋に王座を捨てたウィンザー公は、幼少のころ乳母が母親に隠れて虐めたため、それがトラウマとなって、年上で自分を守ってくれる優しい女性を愛するようになった。チャールズ皇太子にもその気があるらしい、とか。 そうしたジョークのような話は導入部で、イギリス人のイギリス人たるゆえん「イングリッシュネス」が歴史的人物の逸話を通して語られているのだが、興味をそそられるのは政治家の話よりも、やはり文学者だ。 イギリス人が古いものを大事にすることについて。「実はその本質は古いものがまったく変わらないことに価値を見いだしているのではなく、ゆるやかな変化にこそ価値があると考えていると言ったほうが、より正確なのでは」と、ここでジェーン・オースティンの小説が取り上げられている。 「一見変わることのないように見える世界の中に静かなさざ波を感じ取り、それを興味深く見つめる」イギリス人らしい姿勢をよく示している、平凡と見られる中に人生の真実がある、とされているところにまったく共感した。 ナイチンゲールも出てくる。イギリス人らしい女性を説明するくだりで、伝記作家リットン・ストレイチーの"Eminent Victorians"に収められた伝記が「なかなかに興味深いもので、真実をある程度描き出すのに成功している」と評されている。実は、先日この本を買ったばかり、嬉しい。早速、読もう。 ほかに啓発されたのは、『ガリバー旅行記』を書いたスウィフト。彼のブラック・ユーモアがもっとも生き生きと出ている作品として挙げられた『アイルランド貧民問題解決のためのささやかなる提案』は有名らしいが、私ははじめて知った。「彼が提唱する提案とは、要するに貧民は子供を食用にせよということで、そのための方策から子供のおいしい料理の仕方までを、顔色一つ変えることなく綴って読者をぞっとさせるものである」 また、英語と米語の違いが語られるくだりでは「イギリス人はやさしい日常的な単語を新聞などで使うアメリカ英語を『こくがない』という」という、この「こくがない」という表現が面白いと思った。どこかで使わせていただきたいものだ。 |