| 感想は冷めないうちに〜読書日記 |
西崎憲訳『ヴァージニア・ウルフ短篇集』ちくま文庫、1999年 (Nov. 4, '99 記)
| なにが嬉しいといって、ウルフが文庫で読めることだ。書店の文学コーナーでハードカバーのウルフを買おうか買うまいか、悩まれたことはないだろうか。私は池袋リブロのイギリス文学コーナーに、何度も何度も通った。文庫は、今までは『オーランドー』だけだったはず。 収められている17編のなかで気に入ったのは、まず「外から見たある女子学寮」と「ボンド通りのダロウェイ夫人」。実は2ヶ月前に、この本とは別にウルフの短篇集『壁のしみ』(川本静子訳、みすず書房)が出版され、どちらも先に読んでいた。 女子学寮の話が好きだというと、ちょっと変に思われるかもしれないが、ウルフにレズビアンの気があったことは有名だし、相手もわかっているしで、まあそれはそれ。ウルフの本で私がいちばん好きなのは『自分だけの部屋』で、これは小説ではなく講演の原稿をまとめたものだが、ちょうどこの短篇の女子学寮があるケンブリッジのニューナム・コレッジで行われた講演なのだ。 ニューナムは私の好きなバイアット、ドラブル姉妹も卒業したケンブリッジの名門女子大だ。『自分だけの部屋』は、シェイクスピアに実は才能豊かな妹がいた!という想像を発展させていくという豪快な話。その雰囲気が「〜女子学寮」でも感じられる。 『ダロウェイ夫人』は去年、映画も公開されたし、新しい訳書も刊行されたので(バベルで賞をとっていた)、よく知られているだろう。処女長編『船出』に少し違った感じのダロウェイ夫妻がまず登場し、それからこの「ボンド通 りのダロウェイ夫人」、そして長篇『ダロウェイ夫人』と、いろいろなクラリッサを読み比べてみるのも面白いと思う。 ほかに気に入ったのは、「書かれなかった長編小説」と「サーチライト」。どちらも語り口がやさしく、私の好きなウルフの世界だ。「サーチライト」については苦い思い出があり、4月に「グランタ通信」を創刊した際、私がこの短篇を扱った記事について、即座に(ほぼ同時に)誤りを指摘してくださったのが川本先生、西崎さんのお二人だった。それもそのはず、ご自分の短篇集に「サーチライト」を収めるので、ちょうど訳されてたのだ。すばらしい訳書を出版された憧れの訳者の方とこうして関わりをもてるのは、とても幸せなことである。 また、この短篇集でいちばん訳者の個性を感じたのは、「青と緑」とそれに続く「堅固な対象」だ。西崎さんの真骨頂ではないだろうか、こういうのは。この文庫がすでに増刷されているという噂も聞いた。イギリス文学の訳書が売れているとは嬉しいニュースだ。書棚に一冊、ウルフが置かれているのは悪くない趣味だと思う。サナギをイメージしたという、ブルーの表紙も美しい。 |