感想は冷めないうちに〜読書日記 

A.S. Byatt "The Chinese Lobster"in "The Matisse Stories", 1993 (Aug. 03, '99記)

【あらすじ】
 大学で美術を教える女性学部長ヒンメルブラウ教授はお気に入りの中華料理店で同じく美術専攻の初老男性教授ディスに会見する。ある女学生からディスにセクハラを受けたという正式の抗議文を受け取り、内々に話を聞こうとしたのだ。
 文書を見せるとディスは顔を赤くして否定し、原因はその学生の精神状態にあるとする。ヒンメルブラウにも、それはある程度わかっていることだった。ただし、ディスが彼女には画家としての才能がまったくないと断言するのに対し、ヒンメルブラウはまだ判断できないと考えている。
 「女性の身体とマティス」というその学生のテーマから、二人の教授たちはいつしかマティスの芸術性を語ることに熱中する。ヒンメルブラウもまた精神不安を覚え、最近、自殺未遂をしていた。その経験から辿りついた「白い部屋」の境地をディスが理解していることを知り、愕然とする。そしてディスの手首にもまた、傷があった。

【感想】
 10年ほど前に新宿で開かれた「マティス展」で初めて「薔薇色のヌード」を見たときの衝撃は忘れられない。日本への紹介はまだ先駆けの時期で、当時は今ほど人気ではなかったと思う。

 バイアットを読みはじめて、マティスをテーマにした作品が何編かあることを知った。『メドゥーサの踵(邦題は「薔薇色のヌード」)』を1パラグラフ読んだとき、あの絵画展で受けた強烈な印象を、一気に思い出した。それほどの力をもった絵だった。

 チャイニーズ・ロブスターなどという、何となく取っ掛かりやすいタイトルなのに、中身は画家の芸術性や精神世界の話で、とても難しい。ロブスターは教授二人が話し合いの場にした中華料理店の入口に置かれているのだが、このロブスターが何を意味しているのか、まだ掴めない。

 この小説を読むのは二度めなのだが、前回同様、難しくてよくわからなかった。Himmelblau などという名前は、どこの国の出身なのだろう。時間をおいて、また挑戦したい。


※邦訳が出ている。『氷の部屋』(富士川義之訳『マティス・ストーリーズ』所収)。また、この短篇は毎年刊行されるイギリスの文学アンソロジー"New Writing 3"にも収められている。