| 感想は冷めないうちに〜読書日記 |
アイリス・マードック『何か特別なもの』丸谷才一訳、『現代の世界文学 イギリス短篇24』集英社、1972年 (July 01, '99記)
| 【あらすじ】 舞台はアイルランド。24歳のイヴォンヌはロンドンに憧れ、母親と二人ですごす平凡な暮らしから脱出したいと切望している。ボーイフレンドのサムは異教徒(ユダヤ人)だが、伯父や母親は気に入ってしきりに結婚を勧める。イヴォンヌは「彼には何か特別なものが足りない」といってはねつけていた。 今夜はサムとのデート。ダブリンのしゃれたバーで酒を飲んだが、イヴォンヌは店の重苦しい雰囲気が気に入らない。続いて大衆酒場に入り、安らぎを得たのも束の間、酔っ払いのケンカに巻き込まれて嫌な思いをして店を出る。大いに失望したイヴォンヌにサムは「特別なもの」を見せたいといって手を引いた。 ようやく辿り着いた場所に彼女が見たものは、根こそぎ倒れた大木だった。枝に二人で留まると小鳥みたいだというサムの言い分など、イヴォンヌには理解できない。 帰宅したイヴォンヌはサムとの結婚を決意する。そして、ひとり泣きながら、これから始まる長い夜を迎えようとしていた。 【感想】 通読して意外な結末に驚かされ、もう一度よんで今度は小道具が象徴するものやエピソードの意味をじっくりと考え、……と一行一行に裏があるのではと疑ってかかりたくなる小説だ。デートの途中で港に寄るのは、港の夕景によって外界への憧れを表現しているから。大木が象徴しているのは、大空に枝を伸ばし自由に生きるものが迎えた突然の遮断? などなど。 この作品がジョイス『ダブリン市民』の影響を受けていることは複数の批評に書かれている。ダブリン生まれのマードックは、実際に暮らした時間はごく短いながら、生地への愛着をインタビュー等で度々あらわしている。マードックのアイルランドを感じられる貴重な一作である。 この短篇は1957年、イギリスのマクミラン社がクリスマスの炉辺読物として毎年企画していた著名作家短篇集"Winter's Tales"に掲載されたものだそうだが、原書は入手できなかった。 |