『灼熱の砂漠、カザフの廃墟と続けて被害を出したフレイド軍は、今回の侵攻作戦を断念、ブルティーク川沿いの防衛拠点ハルト・シュッツへの撤退命令を出した。
ウィンディーン軍も、火のエレメントの強い地域での戦闘が続き疲弊、これ以上の遠征は兵士の士気低下を招くと判断し、フレイド軍の撤退にあわせて自国に軍を引き上げ始める。
しかし、容赦なく続くファレーン軍とアーセレナ軍の追撃を前に、撤退は困難を極めた。
散り散りになる部隊。追う者追われる者。
幸いにしてブルティーク川近辺には広大な森林地帯が広がっている。両軍は街道を外れ、森に身を隠しながらの撤退作戦を取る事にした。』(EW 第3戦「ブルティーク追撃戦 」課題背景より)
昼は森に身を隠し、夜は闇に紛れて移動する…。そんな生活が3〜4日続いていた。
初めの内こそ、力を持つ者が持たない者を導きながら隊列は進んでいたが、その内にその列は乱れ少人数の道行きとなった。
「足手まといになるよりも…。」
そう言って回復を待ち、その場に残る事を望む者を置いて行くのは身を切られる様だったが、彼女の小さな身体は、仲間の力を借りずにその森を進むには小さすぎた。
そして今日も夜が明ける…。
「川だ!ブルティーク川だ!」
誰かが叫んだ。生い茂る草の向こうに、豊かな流れが広がる。
姿形は違っても、それぞれ水の民。長い道のりを残しているとはいえ、水の流れを見て仲間達の顔に、安堵の表情が広がる…。
彼女は一人で行こうと決意した。もう、足手まといになっている場合では無い。幸い自分には傷も無い。川の流れさえあれば、他の誰よりも早く異動が出来る。
しかし、開けた木々の枝を見上げて、誰とも無く言葉が漏れる。
「無理だ、止めた方がいい。今までは森の木々が隠していてくれたが、ここにはそれが無い。きっと風の餌食になる。それに、地の民だって馬鹿じゃ無い、こんな開けた大きな川を見逃すものか、きっと罠があるだろう。せめて、夜を待たなければ…。」
それは、彼女にも良くわかっていた。なおさら自分が行かなければ…とさえ思った。今の自分達には、一刻も早い救出の手が必要だ。しかし、誰一人ここを動ける者が居ないのだ。
「待っていてください。」
小さな水音が、水面に消えた…。
「早く…。」
誰にも見つからず川を下るため、誰かに仲間の事を知らせる為、彼女は持てる力の全てを費やして流れを泳いだ。他の水の民にはまだ浅い水かさの岩場も、彼女には何の苦でも無かった。
そして、予想した通り、次々と仕掛けられた罠が彼女を襲った。無数の網が、彼女を狙った。
彼女は、それでも泳ぎ続けた…。
