『小次郎破妖録』の裏話

 後書きでも触れた通り「佐々木小次郎についてはほとんど史料がない」というのが発想のスタートでした。現在の巌流島で武蔵と決闘したのは確からしいのですけれど、年齢も素性もほとんど不明なんだそうで。本作執筆中に知ったのですが、現在一般的にイメージされる「武蔵=努力家で求道者」「小次郎=華麗なる若き天才」というパターンは吉川英治の小説『宮本武蔵』によって確立したもので、それ以前の講談などでは小次郎は完全な悪役として描かれる事が多かったそうです。年齢も老人で、武蔵の父親の仇だったりするとか。
 この武蔵像・小次郎像が定着し、さらには『巨人の星』の飛雄馬と花形に受け継がれ、今では主人公とライバルの定番になっているのですから、真に優れた創作の力にはただ戦慄を覚えるだけです。

 本作執筆中に月刊少年ジャンプで『ガンリュウ』という、やはり小次郎が主人公のマンガが始まり、自分は従来の小次郎像から拡張しただけなのに対し、『ガンリュウ』の方はチビで熱血漢で破天荒な小次郎というユニークなキャラクターを生み出しているのを見て、悔しい思いをしたのを覚えています。
 もちろん、マンガと小説という媒体の違いがあり、単純にアイディアのインパクトだけで優劣は決められませんが、せっかく小次郎にエクスカリバーを持たせるという大技をぶちかましたのに、全体的に見ると飛躍が足りず地味な作品になってしまったのは反省点ですね。

 この小説、第一稿の時点と完成原稿では、当然ではありますがいろいろ異なっています。例えば、最初は美祈の他に彼女を護衛する女忍者が主要キャラとして登場していましたし、登場するモンスターも狼男や吸血魔女ではなく、ケルピーやデュラハンでした。
 女忍者については小次郎や武蔵に心情的に近い「戦う女性」がいると美祈の扱いが弱くなりすぎるという点から、敵モンスターの選択についてはマイナーすぎるという事で変更になった次第。

 既に続編が出る見込みはないので、今となっては後書きで思わせぶりな事をしたのが恥ずかしいのですが、この場を借りて「××の×××」についてちょっと種明かしを。
 葛西が考えていたのは「円卓の十勇士」。マーリンが九度山幽閉中の真田幸村と手を組み、「円卓の騎士」の魂を現世に召喚して誕生した「真田十勇士」。彼らの目的はエクスカリバーを奪い取り、アーサー王を降臨させる事。鎖鎌が変形する手動チェーンソウや火縄ガトリングを駆使する強敵と小次郎&武蔵コンビの『男塾』ライクな死闘。もうひとふりの聖剣である「湖の女王の剣」を手に小次郎に挑む霧隠=ランスロット=才蔵。そして、十勇士中唯一、円卓の騎士の転生ではない猿飛佐助こと幸村の実子・真田大助の秘密……というネタを考えてたんですわ。
 企画書レベルでは担当さんからも好感触をいただいたのですが、やはり『エクスカリバー武芸帖』の成績が今ひとつだったためにお蔵入りとなってしまいました。正直、残念です。

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