『道化的世界』山口昌男(020313)
 山口昌男先生の『道化的世界』を読み終えました。本文は活版印刷。よって,紙面がデコボコしてます。懐かしい。この本の装幀は平野甲賀さんという方で,この方の装幀は独特です。何とも味があります。何冊かこの方のお仕事を見ていただければ「あ〜,この人がそうなんだあ」と,すぐおわかりいただけると思います。この本の装幀は平野さんにしてはお行儀がいいので私にはすぐにわかりませんでしたが,外箱(写真左)と本の表紙(写真右。これ布にイラストが箔押になっているんです)を見て「何だかお洒落なツクリだなあ〜」と思って奥付を見たら平野さんの名前が出ておりました(興味のある方はYahoo! などの検索サイトで「平野甲賀」で検索をかけてみてください。かなりひっかかります。作品もいくつか見られます)。本そのものの造りもしっかりしてまして,近頃のお軽いハードカバーが随分貧相に感じられてしまいます。造本だけ見ても持っていたくなるような本です(実は,この本はすでに映画監督志望の若い女性にプレゼントしてしまったのですが。はは。きっと参考にしてくれると思ったので…)。できれば栞(しおり)をつけていただきたかった。イラストの箔押しに予算を使いすぎてしまったのでしょうか…。

   

■『道化的世界』(山口昌男/筑摩書房/定価2,200円)
 『道化の民俗学』を拝読しておりましたので,珍しくちょっと基礎知識あり。山口先生の場合「この話は以前したので省略あるいは簡単に述べる(○○参照)」というような記述が結構ありますので,なるべく時系列的に読んでいくとよいと思います。今回は道化つながりで読めたのでいつもよりちょっと理解がしやすかったです。今回も随分勉強になったというか楽しませていただきました。
 映画俳優のバスター・キートンについて書かれている部分がかなり面白かったです。約30年前の中学生の頃,チャップリンとキートンがリバイバルでまとめて上映されまして,私も結構観ました。で,キートンでなくチャップリンのほうがずっと面白いと思いましたし,好きだったんですが,この本で山口先生がキートンについて絶賛してまして,これはキートンを観直さなくては,と思ってしまいました。「チャップリンが,あらゆる廻りの事物・人を彼の演戯,役回りに従属させるのに対して,キートンは如何なる事物・人をも,それらの習性を注意深く観察し,彼の身体との対話によって日常的文脈から離脱させ,塵をとりのけ本来の輝きをとり戻す助けをする」ですって…。「そうっすかあ〜」としかいまのところ言えませんが…。
 それ以外の文章を拝読して,また,前回の『道化の民俗学』も含めて,山口先生は,われわれの「一般的な」モノの見方はよくないぞ,ということをおっしゃっているのだな…ということはわかりました。いわゆる「真面目」などというのは,既存の効率重視の生活でつつがなく過ごすための1つのスタイルでしかなく,自分を狭い世界の住民に自ら追い込んでいるといえる…ということでしょうか。感受性麻痺というか要するに思考停止状態を是としない,既知とされているもの常識と言われているものも根底から疑ってかかる,普段何となく安心して拠って立っているところを見直してみないといけない,常識的行為などというものも一皮むけばその根拠は薄っぺらなものである場合が多いゾ,なんてことをおっしゃっているのだなと,この程度の理解をさせていただきました。拝読させていただきながら,個人(=自分)とか社会って何だろう…なんてとこまで考えました。現在のシステム(遵法とか効率追求とか)に都合のよい言語や行いをもって,ほとんど生活に支障はないのですが,確かにそれってどうも「豊かじゃない」「生きてあることの喜びや楽しさって他にもないか?(仕事も好きなので…)」なんてことも思いました。以下は自分って?と考えながらまとめたイメージです。これが人類誕生から(もっと根源から言えば宇宙誕生から?)積み重ねられており,また社会とした平面の広さ,他者との重なりの複雑さなどを考えると,頭が混乱してクラクラしてきて,気持ち悪くなります。

 この本は1972〜73年頃に書かれたものをまとめたもので,1975年に出版されています。1972〜75年というと私は14〜17歳ぐらい。あの頃はカミュの『異邦人』を読んでわけがわからなくなっており,その延長でカフカやドストエフスキー,フロイトなんてところまで読み始めた頃です(もちろん全部邦訳&文庫。お金のない中学高校生にとって,安価な文庫はありがたかったです)。その頃山口先生の本を読んでいたら,私,もっとどうしていいかわからなくなってたと思います(同時代性もありますし)。それなりに自分ってこうなんだな,とある程度固まったものがないと現実が急に色あせてしまうというか,自分の愚かさや鈍感さばかりが気になり,もっと目覚めないとなんていう焦りばかりが生まれてきてしまったのではないかと思います。わが家の上2人は15歳と17歳。いずれ山口先生の著作は是非読んでほしいですが,どのタイミングで推薦すればいいか迷います。


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