『語りだすオブジェ』松村由利子(090502)

 『物語のはじまり 短歌でつづる日常』(中央公論新社)から2年ぶりに松村さんの本を読みました。本書の発行は昨2008年6月。全然,気がつきませんでした。 本書のことを何故知ったかというと,最近,松村さんの『与謝野晶子』(中公叢書)が出版され,その新聞広告を見てネット検索をかけたときに発見したのでした。で,先に出版されたほうから拝読したという次第。

■『語りだすオブジェ』(松村由利子/本阿弥書店/本体:1,700円)

 本書は『物語のはじまり 短歌でつづる日常』と同様,松村さんがいろいろな方の歌を選び,それについてコメントをつけていらっしゃいます。

1 恋するクローゼット
 ブラウス
 ネクタイ
 シャツ
  …

2 もの思うキッチン
 ミルク
 冷蔵庫
 ストロー
  …

というように,本書では,「1 恋するクローゼット」など大きな8つの章があり,その中でまた「ブラウス」「ネクタイ」といった節があり,そのそれぞれの節の中で,3〜5首程度が紹介されています。こんな感じです。

 子供とは球体ならんストローを吸ふときしんと寄り目となりぬ
  小島ゆかり

(前略)この歌を読むと、まだストローで飲むことを覚えていくらも経たないような年齢の子の、ふっくらとあどけない顔が浮かんでくる。「球体」とは、傷も凹みもない存在の尊さを表しているようにも思える。(47〜48ページ)

 揺れながら前へ進まず子育てはおまえがくれた木馬の時間
  俵 万智

 小さな子供を育てるには忍耐が要る。大人はいつの間にか“大人の時間”で生きることに慣れてしまっているからだ。女は概して、男よりはゆったりした時間を生きているが、それでも赤ん坊や幼児の時間に合わせるのは容易ではない。(後略)(89ページ)

 読者は,いろいろな方の歌そのものと,それを松村さんがどう受け止められたかの2つが楽しめます。何やらおトクです。 とてもよい本です。この歌をそう読まれますかあ〜?とか,よくわからない歌については,そう読むんですか〜と教わったり,楽しい読者でございました。上の俵さんの歌には,私もハマってしまいました。ウチには子供が3人とも乗った木馬がまだあります。その木馬に孫が乗ったのを見られたら,どんな気分になることでしょうか。

 そうそう。小さなことですが1つだけ「どうでしょう?」という点も覚書。本書の副題は「いつも、そこに短歌」となっています。まあ「短歌」という言葉をカバーに入れておかないと何の本かわからないといえばそうなんですけれども,奥付の書名にこの副題が入っていないところを見ると,多分,制作の最終段階ぐらいで“ヤバイ!”と誰かが気がついて,急遽「エイっ!」って入れちゃったんじゃないですかね? メインの書名では「語り出す」でなく「語りだす」ってなこだわりもあるのに,それに比べてあまりにも陳腐な感じがするのですが,皆様はいかがお感じになりますでしょうか?

 失礼ながら,私はつい「何とかならなかっタンカ?」とか「『語りだすオブジェ あ、そこにもい短歌?』でどや?」なんて言いたくなりますなあ〜。はは。

 あ,そうだ。本書の各章の冒頭には素敵な写真が載っており(写真:山西隆則),これも楽しめます。カバーはネコがグラスに口を入れた写真で不思議な3色刷(装幀:加藤恒彦)で,装幀もいいです。静謐な気分になれるいいデザインだし,紙の使い方もお上手です。オシャレなツクリで内容も充実。お年頃のわが家の娘たちにピッタリ。まずは読むのが早い長女に回します。


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