『NHK落語名人選 三遊亭円生 三十石』(090207)

 「あんまり悲しいので笑うっきゃねーだろ作戦」のうちの一環。落語聞きまくり。そのうちの1つ。

■『NHK落語名人選 三遊亭円生 三十石』

 最近発売された「落語 昭和の名人決定版 三代目古今亭志ん朝」のデキがとてもよかったお蔭で,落語の「威力」「魅力」を再認識。敬愛する童門冬二先生が参考にしているとおっしゃっていた(何という本でだったかは忘れました)円生さんのCDを地元の図書館から借りて,一人になったとき,聞きまくり。以下は演目と感想。

・三十石…円生さんが太鼓・鐘の効果音と若干のコーラスをバックに歌ったりするすごいエンターテイメント。驚き。話だけでもまさに名人(子供や老女,江戸っ子・浪速っ子・京都人など何人もの声を使い分けたりもしております)だと思いますが,ハリのある歌声もじっつに素晴らしい。ちょっと面白いのは,京都の地理を説明するところで,「左に折れる」(だったかな?)と言った後「いや,右に折れる」とか,いかにも現場を思い浮かべて言い間違えを訂正されたようなところがあります。“円生さんはここに行ったことがある”と,観客に確信的に思わせてくれる訂正。私は,この訂正はワザとしている気がします。何せ“名人”ですから,客をだますために,それぐらいのことはするだろうと思うのです。

・鰍沢(かじかざわ)…基本的に笑い話でなくて,普通に物語を聞いている感じのコワイ話。噺家ってのは,「お笑い」だけじゃなくてコワイ話もできる,その名のとおり,お話のプロなんだと再認識。絶品! 細かいギャグは入りますが。それはハリウッド映画で,シリアスなストーリーの中に笑いがある,あの感じ。『明日に向かって撃て!』で,大ピンチでガケから川に飛び込まなきゃならないとき,「俺は泳げないんだ!」とロバート・レッドフォードに言わせたセンスを,私たちもホントは古くから持っていたんだと思います。「おざいもく」で命を救われるという「ひどいダジャレ」がメチャ可笑しい。それまでの凄さと,ここのギャップも計算づくなんでしょうねえ。多分。

・三年目…これはお化けが出てくる話。かなり笑える,いい噺。シラミが仏…なんてミエミエのつまらないダジャレも出てきました。「ねえもんは分けて食えねえ」ってのも笑えた。この辺は,笑いのレベルが低い人へのサービスだった模様。

・妾馬(めかけんま/めかけうま)…名作。まさか落語を聞いて泣くハメになるとは思いもしませんでした。寅さんの原点みたいな話。デキのいい妹(さくら)とデキの悪いアンチャン(寅さん)が出てきます。デキのいい妹が大名に見初められて,側室となって世継ぎの男の子を出産。大名はそのアンチャンを呼び寄せ,無礼講の席を設ける。アンチャンと妹のオヤジは早くに亡くなっており,この兄妹は母親と3人世帯だったんですね。で,今は,老いた母親と(娘の支度金としてもらった金を使い果たして面目なく)あまり家に寄りつかないアンチャンだけの所帯となっており,酔ったアンチャンは,母親は身分違いのせいで孫に会えなくて泣いていると大名に言ったりするんですな。ロクに仕事もしないどうしようもないアンチャンなんですが,こうした庶民の本音を(酒の力を借りて,あるいは借りたフリをして)言ったりする。人情に篤いヨッパライ。今,こんな人は日本の社会からは排斥されちまうなあ〜。そうそう,世事に疎い殿とアンチャンの会話を聞いていると,世事に疎い人と庶民を絡ませるというパターンは,寅さんにもあったと思います(学者さんだったような…)し,ローマの休日や,釣りバカ日誌などを思い出しますねえ。イナカ者と都会っ子の組合せとか異文化のギャップから笑いを引き出すというのは,まさに古今東西よく使う“テ”なんでございますねえ〜。

 グローバル化が進む昨今,人を評価するモノサシは,随分単純で冷たいものになっちまったんだな〜と,改めて思います。小さな社会であれば,アイツはガキの頃すごかったのに今ダメなのは何故だ? と心配されたり,アイツはガキの頃ヘボかったのに今はすごいと誉められたり,いずれにしろ,小さな社会においては若い衆に戦力となってもらいたいという共通の願いのようなものがありますよね。それなのに,何故か今は若い衆の「芽を踏んづけ根を引っ張る」ような人が多くて困ったモンであります。そのくせ一方では,少子化について憂慮してたりする…。落語を聞こう。


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